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第二十九話
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少しの土埃が付着しているだけの状態だから、落ちてしまってから時間は経っていなさそうだ。佐藤は少し考えてから、商店街から駅前にある交番へと向かうことにした。
別に、遊歩道を区切るガードレール脇に置いておくでも良いだろう。むしろ下手に動かさないほうが探す人は困らないかもしれない。でもなんとなく、そうやって放置するには可哀想だと思った。
そうして向かった交番で、年かさの女性が警官とやり取りしているのに行き会う。
「とりあえずどこまではちゃんと持っていたかを思い出してください」
「えぇっと……」
どうやら落とし物らしい。佐藤も一度相談に訪れたことがあるが、かなり細かく情報を伝える必要があった。それが職務と言えばそうかもしれないけれど中々のプレッシャーを感じてしまうし、この女性もいま実際に同じ気持ちだろう。
「そちらは?」
「あ、すみません。落とし物を拾ったので」
「あぁ遺失物取得ですね。どういったものですか?」
「えっと、これを……」
そう言いながら手に持っていた人形を持ち上げると、先にやり取りをしていた女性から「あ!」と大きな声が飛び出した。
「それ! 私、私のです!!」
あぁそうなんですか、と手渡そうとしたところで警官から待ったが掛かる。どうやらこの場では〝私のもの〟〝あなたのもの〟と個人で判断してはならないらしい。女性から少し離れた――小声でならやり取りが聞こえない距離――で拾った時の状況を伝え、一旦警官へと人形を手渡す。今度は女性が落としたと思わしき時、その前、どこからどこへ行ったかなどの確認となった。
佐藤が見守る必要はなかったがここまで来たら乗りかかった舟と思い、邪魔にならない程度に離れてやり取りを聞く。なんとか女性の話に整合性がとれたようで、赤いマスコットは無事に持ち主へと戻っていった。
「本当にありがとうございました」
「いえ、見つけたところで放っておかなくて良かったです。では……」
そこまで言ったところで、佐藤の腹から大きな音が鳴る。なんだかんだで時計は十三時になろうとしていて、知らない内に時間が経っていたらしい。
別に、遊歩道を区切るガードレール脇に置いておくでも良いだろう。むしろ下手に動かさないほうが探す人は困らないかもしれない。でもなんとなく、そうやって放置するには可哀想だと思った。
そうして向かった交番で、年かさの女性が警官とやり取りしているのに行き会う。
「とりあえずどこまではちゃんと持っていたかを思い出してください」
「えぇっと……」
どうやら落とし物らしい。佐藤も一度相談に訪れたことがあるが、かなり細かく情報を伝える必要があった。それが職務と言えばそうかもしれないけれど中々のプレッシャーを感じてしまうし、この女性もいま実際に同じ気持ちだろう。
「そちらは?」
「あ、すみません。落とし物を拾ったので」
「あぁ遺失物取得ですね。どういったものですか?」
「えっと、これを……」
そう言いながら手に持っていた人形を持ち上げると、先にやり取りをしていた女性から「あ!」と大きな声が飛び出した。
「それ! 私、私のです!!」
あぁそうなんですか、と手渡そうとしたところで警官から待ったが掛かる。どうやらこの場では〝私のもの〟〝あなたのもの〟と個人で判断してはならないらしい。女性から少し離れた――小声でならやり取りが聞こえない距離――で拾った時の状況を伝え、一旦警官へと人形を手渡す。今度は女性が落としたと思わしき時、その前、どこからどこへ行ったかなどの確認となった。
佐藤が見守る必要はなかったがここまで来たら乗りかかった舟と思い、邪魔にならない程度に離れてやり取りを聞く。なんとか女性の話に整合性がとれたようで、赤いマスコットは無事に持ち主へと戻っていった。
「本当にありがとうございました」
「いえ、見つけたところで放っておかなくて良かったです。では……」
そこまで言ったところで、佐藤の腹から大きな音が鳴る。なんだかんだで時計は十三時になろうとしていて、知らない内に時間が経っていたらしい。
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