絵本作家は砂糖菓子の夢を見る

宮野愛理

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第二十六話《ブライク編》

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「そんなに遊んでばかりじゃ怒られますよ」
「誰にだい? あちらではわからないが、こちらではそういった相手はいないよ?」

 もちろん、ブライクだって怒られたことはある。危ないことをした時や家の手伝いを怠けたときに、両親からゴチンと頭に喰らったものだ。だが今はもう離れて暮らしているし、さすがにこの年齢で屋根から飛び降りることも――筋力的に無理ではないが――しない。

「……そういえば、どうやって生活してるんです?」

 サトーの世界では大人は皆が仕事をし、日々の賃金を得るらしい。それがなければ生活が立ちゆかなくなり食べていけなくなる。暮らしている場所によっては子供も仕事をしていると聞いて、ブライクは驚いた。

「日々食べる分は自分たちで賄っているね。うちも畑があるし、山に行けば木の実やキノコ、川に行けば魚が捕れる。肉は……飼っているところとの物々交換かな。サトーの体力が戻ったら散歩がてらで山にも行ってみよう」

 今はまだ無理だろうと思った提案だったが、ブライクの心配を余所にサトーの目が輝く。聞けばそういうことに興味はあっても幼少期にしか出来なかったらしく、心のどこかで憧れがあったと言う。

「軽率に〝憧れ〟なんて言ってはならないことだと思うんですけど……それに、畑仕事は慣れてないから足手まといかも……」
「一つ一つ覚えていけば良いんじゃないかな? 失敗したとしても、誰も怒らないよ??」
「えっと、ブライクさんは怒りません……?」
「食事や睡眠を疎かにするとかなら考えるけれど……サトーは怒られたいの?」

 ブライクが思わずそう聞き返してしまうと、サトーの瞳からポロリと涙がこぼれた。次いでフルフルと首を左右に振る。

「……サトー?」
「ごめ、なさ……なんだかすごく……」

 苦しくて、と続いた言葉の意味をブライクが知るのは、それから更に時間が経ってからだった。
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