絵本作家は砂糖菓子の夢を見る

宮野愛理

文字の大きさ
上 下
21 / 35

第二十一話《ブライク編》

しおりを挟む
「二人とも! こっち来てー!!」

 隣の部屋からリチェルの大きな声が聞こえブライクとロッティは顔を見合わせる。バタバタと客室へ戻ると、ニンゲンがぼんやりと目を開いたところだった。

「……ゆめ?」
「お、起きたな? 夢じゃないぞー」
「リチェル、ちょっと声を抑えて。ごめんね、もし動けるようなら起き上がれる?」

 ロッティとリチェルが彼の背中を支えて上半身をゆっくりと起き上がらせる。倒れ込まないように固定のクッションを当ててやると、ニンゲンは小さく息を吐いた。

「今から状況を説明するね。僕はロッティ、そして彼がリチェル。ここの家主は、そこに立ってるブライク。きみの名前を聞きたいんだけど、全部は言わなくて良い。呼ばれやすい名前を教えてくれるかな?」

 まだぼんやりしている彼の様子をうかがいながら、一番冷静に話せるロッティが説明を始める。
 その際に念を押したのが名前を全て言わないこと。ブライクも文献で知ったのだが、ニンゲンには長い名前があるらしい。フレイウェルでは〝真の名〟とされていて、それをこちらで名乗ると向こうの世界に帰ることが出来なくなる。彼がそれを望むなら良いが、今の段階では危険なはずだ。

「えっと、佐藤……と言います」
「わかった。サトーだね。じゃあそう呼ばせてもらう。色々と混乱してると思うから、まずは温かいお茶でもどう?」
「甘いのがいいか? 甘くないのがいいか? 出すのはブライクだけどな! ボクは甘いやつがいい!」

 それまで静かにしていたリチェルの我慢が限界になったらしい。ロッティが「あー、もう」と呆れているのを見て、サトーが目を丸くしていた。
 思わず笑ってしまいながらブライクはキッチンへと戻り、人数分の飲み物を用意する。リチェルとロッティはココアで良いだろう。サトーは……と考えて紅茶と珈琲の両方を淹れておいた。どちらを選んでも片方は自分が飲めば良いし、これだったら砂糖を入れたりミルクを入れたりと調整が出来る。
 客室からはリチェルの元気な声とロッティのそれを諫める声。控えめに聞こえる笑い声はサトーだろう。
しおりを挟む
――匿名での感想や絵文字も受付中です――
wavebox
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

処理中です...