絵本作家は砂糖菓子の夢を見る

宮野愛理

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第二十話《ブライク編》

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 今もとりあえず向こうに行けと言われ、ロッティと共にリビングへと押し込められた。数日の徹夜くらいなんでもないが、リチェルの心配もわかるからおとなしくリビングへと移動する。椅子に座りながらロッティにも座るように勧めてひと息を吐いた。
 ロッティが持って来た本を開いてみると、ニンゲンの毛色について記述がある。どうやら住んでいる地域によって色が違うらしい。
 黒い髪、白っぽい肌のニンゲンはよく訪れるようだ。しかし、彼の場合は病的なほどかもしれない。目の下の皮膚は黒ずんでいて、頬のあたりも痩せこけているように見える。体も細い。小柄な友人たちよりは背があるが、肉付きは薄かった。

「どうしたものか……」
「せめて一瞬でも起きてくれれば良いんだけどね。ただこれを見る限り、飲まず食わずでも大丈夫そうなのが救いかな」

 基本的に、ニンゲンはフレイウェルでは空腹感や飢餓を覚えないらしい。こちらにいるときは肉体と精神がわかれている状態のようで、彼らからすれば〝夢の世界〟という認識。だから目覚めない場合でも無理に起こさなくて大丈夫だし、医者へ連れて行く必要もない。

「たぶん、あっちの世界でなにかしらの治療をしてるはずだけど……」

 そうでなければさすがに死んでしまうだろう。
 死んだ場合についても文献には書いてあった。自分たちと同じように、息や脈が止まるようだ。おとぎ話のように光となって消えるわけではないが、だからと言って安心も出来ない。

「しかし、随分と多いものだな、ニンゲンの出現と言うのは……」
「それだけあっちの世界が殺伐としているのかもしれないね」

 どうしようもない孤独感や閉塞感、そういったものから心を守る為にこちらの世界へと渡ってきていることが書かれていた。そして気力が充実したら、フレイウェルには訪れなくなることも。

(あの人は、それだけ元気になったということか……)

 幼い頃に見たあの女性は、きっと今寝ている彼のような状態だったはずだ。つまり彼にだって元気になる希望はある。あると、信じたい。
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