絵本作家は砂糖菓子の夢を見る

宮野愛理

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第十二話

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 でも、そんな佐藤は子供が好きだった。一人っ子だから、甥姪なんて存在は将来的にもあり得ない話で、かと言ってそれだけを理由に結婚やパートナー制度を使って子供を持つことも考えられない。
 あれこれと考えて導き出した職業が〝絵本作家〟。間接的にでも子供と関わることが出来るし、佐藤は絵を描くのも見るのも好きだった。漫画を読むことは禁止されていたが絵本は禁止されていない……そんな環境も一つの理由だっただろう。
 しかし絵本作家になりたいと言って許されるかどうかは別問題で、結局のところ最後まで両親には夢を語れなかった。だから無難に文学部で学芸員の資格を取って他にも色々と触れてみてから、と濁して進学をしている。

(でも大学入学で実家を離れた途端に、その実家がなくなるなんて思ってもみなかったな……)

 そろそろ年末だ、帰省をするか、なんて考えていた晩秋にもたらされた訃報。不審火だったそれは、乾燥した空気を孕んで瞬く間に燃え広がったそうだ。両親ともに親族との繋がりが薄く、ドラマのような遺産争いとは無縁だったのだけは幸いかもしれない。
 あれこれの手続きで一年間を休学することになったが、両親の残してくれた遺産で大学は卒業出来た。そして、それ以降は一切遺産に手をつけずにいた。両親の求める将来像からかけ離れてしまった自分へのけじめだったのだが、それは結局のところ自己満足で、松本には「それで入院してたら意味がないだろう!」と怒られた。なのでそれ以降は〝適度に〟を戒めにしながら使っている。

(……使った分は補充出来そうだけど)

 出来ればもうちょっと余裕が欲しい。別に豪遊するつもりはないし、使う予定もないがないよりはあるほうが良い。もし自分が突然死をしたとして、は公正証書に残してある。

(松本の言ってたこと、もうちょっと調べてみるか)

 話を盛り込め、と言われても過去に恋愛関係を結んだ相手などはいなかった。両親との関係性もおおよその日本人のそれだったから、頬にキスやハグなどの記憶もない。幼児の頃にはあっただろうが、さすがにそこまでは覚えていないから感覚もわからない。
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