絵本作家は砂糖菓子の夢を見る

宮野愛理

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第十話

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 ロッティやリチェルに比べブライクの表情は見えにくいが、それでも付き合いが長くなるに従ってわかるようになってきた。最初の頃、少しぶっきらぼうで怖そうだなんて思ったのが嘘のようだ。

「本当に、色んな人に迷惑を掛け通しで……もういい歳の大人なのに……」
「迷惑じゃなくって、それは心配って言うの! 変に卑下しなくて良いんだってば!!」
「でもサトー、俺らの他にも心配してくれるヤツいるんだな。なのになんでこっちに来ちゃったんだろうなぁ??」

 リチェルが首を傾げながらそう言った。
 確かに、孤独でどうしようもない状況の人間が落ちてくるのがフレイウェルだから、その指摘は的を射ている。
 あの頃は細々と繋がっていた松本からの連絡も途切れがちで、担当の横川に対しても萎縮してしまっていて、と八方塞がりだった気がする。そこで開き直れるような性格なら良かったが、佐藤は全くそのタイプではない。ついでに季節の変わり目で体調を崩してしまい、単発のアルバイトにも行けなくなり、薬も買えず……と悪条件が重なった。

「松本……あぁ、えっと、十代の頃からの友達なんですけど、今はそいつが色々と世話を焼いてくれていて……こっちに来た時、あっちでは入院していたんですよ。それですごく心配を掛けてしまったみたいで……」

 あれこれと世話を焼いて貰っている、とは言い出せなかった。

「でも皆さんに会えたから、全部が全部駄目だったわけじゃないのかな、と……」
「私も、サトーに会えてうれしいよ」

 ボクもボクも! と騒ぐリチェルの横で、ロッティは「そんな悠長なこと言ってる場合かよ」と眉間に皺を寄せていた。佐藤には聞こえないような声量だったが、隣に立つブライクにはしっかりと聞こえただろう。ついでに佐藤に見えないようにブライクの尻を抓ることも忘れない。
 しかしロッティからの指摘から逃れるようにブライクが佐藤の頭を撫でた時、その反応を見て「おや?」と思った。今までなら〝もう大人なのに〟と気恥ずかしいような表情を浮かべていたのに、今日はなんとなく違うように思う。

(これはもしかすると、もしかするかも……?)

 人間は自分たちに比べて表情がわかりやすい。佐藤が特段なのかもしれないが、すぐに顔が赤くなるので照れていたり恥ずかしがっていたりが手に取るようにわかる。ロッティからすれば毛の逆立ち方だとか耳や尻尾の動きでも判断出来るが、人間のそれは「これでよく日常生活が送れるな」と思うくらいに際立っている。

「サトー、顔が赤い。熱があるのか?」
「やはり疲れているんだな。このまま少し寝ていなさい。その間に食事の支度をしておこう。……リチェル、手伝ってくれるかい?」
「まっかせろ! 今日はパーティーだからな!」

 ひとまず、リチェルのバカには後で拳の一つをお見舞いしておこうと思いながら、ロッティは動きがありそうなブライクと佐藤の未来を考えた。
 佐藤がこちらに来る頻度は下がっている。それは良いことだけれど、今のうちにどうにかしないと繋がりはあっけなく消えてしまう。

(別れてから後悔するんじゃ遅いんだからな、ブライク。好きなやつは囲い込まないと)

 それが向こうの世界での佐藤の〝死〟だということはロッティも理解している。ブライクもそれがわかっているから、自分からどうこうしようなんて思っていないことも……。
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