絵本作家は砂糖菓子の夢を見る

宮野愛理

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第八話

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 誤魔化すように俯きながら「ラチェルさんを呼んでもらえるなら」とだけ伝えると「あぁ、出来たんだな。わかった。あいつらを連れてくる」と返された。
 佐藤がこのフレイウェルに来た時、現実世界で瀕死だったのは先に記したとおり。しかし精神も瀕死の状態であったため辿り着いた感覚もないまま、気付いたらブライクの家で介抱されていた。

(あぁこれは死んだか、と思ったんだよな)

 最初の数日はブライクの用意してくれたベッドから起き上がることも出来ず、うつらうつらとしながら過ごしていた。フカフカと暖かい何かに包まれる幸福な夢を見ていたように思う。意識が戻ってから、それがブライクの腕だったと知って恐縮もした。
 ぽふり、と綺麗に整えられたベッドへと腰掛ける。家も家具も、全体的にカントリーテイストでブライクの見た目からするとなかなかのギャップだが、それも慣れた。

(むしろ落ち着く……)

 このまま起きていても良いが、寝ているように言われたため横になっていたほうが良いだろう。
 訪れる時は現実世界で寝た時、そして戻る時はフレイウェルで寝た時……とはいえ規則性はない。うたた寝程度で訪れることもあるし、いくら熟睡していても訪れられないこともある。そして時間の流れも一定ではなかった。

(……特に疲れることはないけど)

 子供の頃の〝集中している時の、実際の時間と体感の誤差〟が近いかもしれない。
 こちらで過ごす時間が長ければ長いほど精神が休息を求めているということらしく、そういう時はどれだけこちらで寝ても向こうで目覚めることはない。二年前の入院時の状態がそれだった。

(もうちょっと、こっちで過ごしたいというのが本音だよなぁ……)

 佐藤の訪れる頻度が低くなったということは、それだけ精神が落ち着いたということだ。過去にフレイウェルへ訪れた人間も、そうやって居なくなると聞かされている。徐々に訪問の間隔が開いていき、いつの間にか数ヶ月経っていて離別に気付くというのがフレイウェル側の住人の話だった。 

(ちょっとだけ交わって、ちょっとだけ交流をして、そしてまた遠く離れていくなんて、太陽系のどこかの惑星みたいだ)

 あの星は惑星から外れたんだっけ? と思考を飛ばしていると「サトー! 本が出来たって本当?!」と元気な声が部屋に響いた。
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