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第十二章 絡め火
倭国大乱
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オオミの軍をそのまま失った痛手は、あまりにも大きい。それでも、やらねばならなかった。ひとまず、オオミが治めたキヅの地はカイの治めるハラの地に併合されることとなったが、やはり、どう前向きに考えても、兵が足りぬ。結局、諸地域から、兵を集めるしかない。数百といえば僅かな人数のようにも思えるが、つい最近もまたそのようにして諸地域からの徴発によりオオミ、カイ両軍の損耗を埋めたことは記憶に新しい。諸地域にしてみれば、またか、という思いがあって当然である。五百といえば複数のムラの者をかき集めてやっと賄える人数であるし、千といえば、当時の国家規模からすれば非常な大人数と言ってよい。地理的、地形的にそれほど多くの人数は収容できなかったと思われるツシマのクニ(現在の対馬)やイトのクニ(現在の福岡県糸島市)で、大陸の文献にはその規模を「千余戸」と記されている。千軒あまりの家があり、その中に五人ずつ住んでいれば、五千人である。小規模な国家はそれくらいの人数で、イトから五百里──一里は当時の大陸の度量衡で四百メートルほどであるが、この文献の距離感は疑問点しかないため、実際はもっと近かったと思われる──離れたところにあるというマツラのクニでさえ四千戸とされているから、いかにオオミの兵を埋めることが困難であるかが知れる。
また、前より記している通り、兵も普段は農耕をしている。兵の損耗はすなわち土地を耕す者の損耗で、それは国力の低下に直結する。
春に起きた騒動は夏の間続き、そして秋を迎えた。諸国から渋々兵が少しずつ送られてくるが、やはり全く足りぬ。そして、その兵を、兵として育てねばならなかった。この時代、兵と民は明確に分離されてはいない。武器の扱い、号令に際する進退の仕方、軍での決まり事なども、全て一から教えてやらねばならず、おおらか過ぎて軍令の意味を飲み込めず、ぽかんとしているのんき者などを打ち据えてやったりもしなければならない。調練と言うほど体系化されたものではなかったが、ヤマトの軍は他国のそれと比べ、遥かに俊敏で、将の動きに兵はよく付いて来て、恐れることを知らず勇猛を誇ったものであるが、それには、ヤマトの将が優れていたこと、この将に付いてゆけば死ぬことはない、という兵の信頼があったことも大きい。
それも、新たに加わってきた兵どもと、一から作り上げていかねばならない。
数えると、諸地域から集まった補充兵は、千五百になっていた。これなら、人数だけならば何とかやっていける。
「私の兵を、使え」
と言ってきたのは、タクである。タクの指揮下にあるオオトの三千五百の兵のうち、千を割いてマヒロとカイに分け与え、さらに両軍から兵を分け、死んだオオミの子コウラを新たな将に就けた。コウラの軍が整えば、キヅの地はコウラが治める。カイはこれまで、この甥のためキヅを維持してやるという目的のため一時的に預かっており、それを返すということになる。
タクの兵は武器の扱い、進退の仕方など、さすが要衝を守る軍だけあってよく練られていたが、なにぶん実践経験に乏しい。やはり、削り取られるようにして失ったマヒロの兵や壊滅したオオミの兵のように、死線をくぐってきた者どものようには行かぬ。
──戦いに生きる者が、戦いに死ぬことは、当たり前だと思う。
そう考えるマヒロではあるが、この戦いを知らぬ新たな兵らもまた戦いの中で死ぬのか、と思わずにはいられなかった。
クナとの長い戦いの中で、一体何人の人間が死んだのか。何のために、彼らは死んだのか。その答えは、自らの中には求められぬ。誰にも、求められぬ。時だけが、それを知ることになるのであろう。
とにかく、冬を迎える前には、体裁のみであるが軍容は整った。クナはやはり慎重で、あれ以来、季節が移っても大きな侵攻などはない。
マヒロは、冬を迎える前の恒例行事である、諸国からの実りの報告を調べる作業を、ナナシと二人で行っていた。昨年ナナシが立案した通り、各地の報告はそのまま中央に上げず、種類ごとに統一された規格の升で計量し、治めるムラごとにどれくらいの土地を使い、どれくらいの実りがあったのか、気候はどうであったかというようなことをまとめた上で持って来させるということが、今年から開始された。
これならば、マヒロとナナシで目を通し、把握するだけでよい。税としてどれほどを徴収するかは、まとめた時点で各地の吏が計算している。あとは、税が送られてきたら、量に間違いがないか検じ、収蔵すればよい。
去年までに比べ、圧倒的に楽であった。数日間、マヒロの部屋から木を削る音が響くということもない。これを長く続けて積み重ねてゆけば、実りの予測ももっと簡単に立てられるし、日照りや多雨などによる実りの減少にも未然に対応できるかもしれない。
「ナナシ。お前のお陰だ」
マヒロは、満足そうに八重歯を見せた。
「これが、国の宝になってゆくのです」
ナナシも、満足そうであった。もしかしたら、彼女は軍事よりも、むしろこういったことに本来向いているのかもしれない。
まだ、収穫できなかった田が出ているということはない。しかし、この状態が続けば、来年には耕す者のいなくなった田が必ず出てくるはずである。それは人が増えぬ限り、どうしようもない。兵力は依然としてどちらが極端に勝っているということはないから、クナとの戦いは当面起きないであろうと見ているから、その間に、この問題を解決しなければならない。
しかし、それほどゆっくりとはしていられなかった。春になり雪解けがあると、諸地域で反乱が相次いだ。「鳰の海」と当時の人々が呼ぶ巨大な湖を見下ろす神の山の麓に都邑を置くイブキという地域も、イブキの山の裏に接続する内陸の平野の地域も、あのヒトココまでもが、一気に叛いた。予想できなかったことではないが、こうも一気に、となると、何か謀の臭いがする。彼らが揃って挙げた名分は、
「ヤマトは、人を吸い上げるばかりで、我々になにをもたらしたか。戦いがあればヤマトの兵を貸すと言うが、我々の貸したまま帰って来ない兵はどうなる。しかし税は納めねばならず、このままでは、民は皆死ぬばかりだ。我々は、ヤマトを認めぬ」
どの地域も、概ね、そのようなことを大義として挙げている。仕方のないことであったとはいえ、彼らの言い分は間違いではない。問題を解決しようとはせず、認めぬ。として武力に訴えかけてくるあたりに、彼らの困窮が窺える。
勿論、ヤマトは人を集めるとき、対価は支払っていた。倉を開き、財物を大いに与えたりもした。しかし、財物では腹は満ちぬ。人を取られた地域の者からすれば、大陸から渡ってきた鏡や珍しい品などと引き換えに、国の営みにとって最も重要な人間そのものが奪われてゆくわけであるから、これほど無意味な交換はない。
「思ったより、早かった」
サナが、静かに言った。タクは叛いた軍が海を渡ってくるかもしれず、その備えのためオオトの防備の指揮をしている。現実的に考えて、いきなり敵の軍が船を付けてくるなどとは考えにくいが、海運の得意なヒトココの地からそこかしこで諸地域に叛くよう扇動しつつ船を発し、陸路ではイブキなどの軍が南下、それに呼応してクナ本国が西から、あるいは海から攻めてくるなどすれば、危ない。
オオトは海に向けたヤマトの防衛戦である。同じように、カイとコウラも、比較的距離の近いイブキら北からの軍に備えて陸の防備を強化している。だからこの軍議の場には、サナとマヒロとナナシの三人しかいない。
「しかし、ここまで乱れるとは」
「わたしの思うところは、人々には受け入れられないのであろうか」
「ヒメミコ」
マヒロはサナの方を向き直った。
「この国を乱し、笑っている者がいるのです」
「タクのことか」
「ヒメミコはまだ、あやつを使い続けるつもりですか」
「わからぬ。しかし、あやつを欠いてもまた、ヤマトは滅ぶぞ」
「──倭国、大乱」
ナナシが、ぽつりと言った。あえて大陸風に言うことで、この状況を努めて客観視しようとしているのか。
「わたしが女王になった日、神がわたしに見せたものは、なんだったのか。わたしはヤマトで、ヤマトはわたしだ。そのことをのみ、思い続けてきた。この天と地の間に生きる全ての者が、そう思えるようにと。そうすれば、誰からも奪わず、誰からも奪われず、生きてゆけると」
「その通りです、ヒメミコ」
マヒロが立ち上がった。その様を見て、サナもナナシもマヒロの心が決まったのだと思った。
「我らは、戦わぬ」
しかし、マヒロは意外なことを言った。無理を押してでも出戦し、理想を阻む者どもに決戦を挑んで叩き潰すか、潰されるかのやり取りをしようと決意したものと思ったが、違った。
「おれは、なにより、ヒメミコのその理想を、ヒメミコの愛するヤマトを守りたい。そのためには、クナなど別の国であってもよい。イブキも、ヒトココも、どうでもよい。我らと共に生きようとする者と一緒に、我らの国を作り、守ればよいではありませんか」
「わかった。マヒロ、ありがとう」
「では、彼らが攻めて来たときにどう守るのか、そして、彼らが攻めて来ぬようにするにはどうするのがよいのか、わたしは考えましょう」
マヒロのことを最もよく理解する二人の女が、それぞれ言った。
その方針が定まったことを、タクは、翌日オオトで聞いた。内心、舌打ちをしたい気持ちであった。それでは、自分が付け入る隙がないではないか。
この国を多いに乱し、その混乱の中で、タクは自らの国を建てるつもりであった。そのためには、ヤマトも、クナも、ぎりぎりまで消耗させなければならない。だからイシ、サザレの両地区を叛かせ、クナに働きかけ、出てきたマヒロとオオミを叩いた。オオミを討ち取ることに成功し、なおかつその兵のほとんどを殺し尽くしたことは、ヤマトの基盤が大きく揺れたことを意味する。なおかつ、他の地域に兵の補充を出させて不満を募らせ、叛かせた。これで、クナが侵攻してくればヤマトは決戦に応じるであろう。
ヤマトが勝てば、そのままヤマトの宰相として──勿論、もう一人の宰相であるマヒロには消えてもらわねばならない──、クナが勝てば、自らの外交手腕をもって新たなクナの宰相として取り立ててもらい、後でその権力を覆してしまえばよい。どちらにしろ、双方が滅ぶぎりぎりのところまで血を流し尽くし、弱りきってしまわねばならない。
しかし、ヤマトは、攻めもせぬし戦いもせぬと言う。敵が来ても、ただ守りを堅くし、大々的な応戦はせぬと言う。
それは、まずい。ヤマトもクナも元気なまま残ってしまっては、彼の望みは何一つとして果たせない。
タクは、爪を噛んでいる。強く噛みすぎたのか、親指から、濃い血が流れた。
また、前より記している通り、兵も普段は農耕をしている。兵の損耗はすなわち土地を耕す者の損耗で、それは国力の低下に直結する。
春に起きた騒動は夏の間続き、そして秋を迎えた。諸国から渋々兵が少しずつ送られてくるが、やはり全く足りぬ。そして、その兵を、兵として育てねばならなかった。この時代、兵と民は明確に分離されてはいない。武器の扱い、号令に際する進退の仕方、軍での決まり事なども、全て一から教えてやらねばならず、おおらか過ぎて軍令の意味を飲み込めず、ぽかんとしているのんき者などを打ち据えてやったりもしなければならない。調練と言うほど体系化されたものではなかったが、ヤマトの軍は他国のそれと比べ、遥かに俊敏で、将の動きに兵はよく付いて来て、恐れることを知らず勇猛を誇ったものであるが、それには、ヤマトの将が優れていたこと、この将に付いてゆけば死ぬことはない、という兵の信頼があったことも大きい。
それも、新たに加わってきた兵どもと、一から作り上げていかねばならない。
数えると、諸地域から集まった補充兵は、千五百になっていた。これなら、人数だけならば何とかやっていける。
「私の兵を、使え」
と言ってきたのは、タクである。タクの指揮下にあるオオトの三千五百の兵のうち、千を割いてマヒロとカイに分け与え、さらに両軍から兵を分け、死んだオオミの子コウラを新たな将に就けた。コウラの軍が整えば、キヅの地はコウラが治める。カイはこれまで、この甥のためキヅを維持してやるという目的のため一時的に預かっており、それを返すということになる。
タクの兵は武器の扱い、進退の仕方など、さすが要衝を守る軍だけあってよく練られていたが、なにぶん実践経験に乏しい。やはり、削り取られるようにして失ったマヒロの兵や壊滅したオオミの兵のように、死線をくぐってきた者どものようには行かぬ。
──戦いに生きる者が、戦いに死ぬことは、当たり前だと思う。
そう考えるマヒロではあるが、この戦いを知らぬ新たな兵らもまた戦いの中で死ぬのか、と思わずにはいられなかった。
クナとの長い戦いの中で、一体何人の人間が死んだのか。何のために、彼らは死んだのか。その答えは、自らの中には求められぬ。誰にも、求められぬ。時だけが、それを知ることになるのであろう。
とにかく、冬を迎える前には、体裁のみであるが軍容は整った。クナはやはり慎重で、あれ以来、季節が移っても大きな侵攻などはない。
マヒロは、冬を迎える前の恒例行事である、諸国からの実りの報告を調べる作業を、ナナシと二人で行っていた。昨年ナナシが立案した通り、各地の報告はそのまま中央に上げず、種類ごとに統一された規格の升で計量し、治めるムラごとにどれくらいの土地を使い、どれくらいの実りがあったのか、気候はどうであったかというようなことをまとめた上で持って来させるということが、今年から開始された。
これならば、マヒロとナナシで目を通し、把握するだけでよい。税としてどれほどを徴収するかは、まとめた時点で各地の吏が計算している。あとは、税が送られてきたら、量に間違いがないか検じ、収蔵すればよい。
去年までに比べ、圧倒的に楽であった。数日間、マヒロの部屋から木を削る音が響くということもない。これを長く続けて積み重ねてゆけば、実りの予測ももっと簡単に立てられるし、日照りや多雨などによる実りの減少にも未然に対応できるかもしれない。
「ナナシ。お前のお陰だ」
マヒロは、満足そうに八重歯を見せた。
「これが、国の宝になってゆくのです」
ナナシも、満足そうであった。もしかしたら、彼女は軍事よりも、むしろこういったことに本来向いているのかもしれない。
まだ、収穫できなかった田が出ているということはない。しかし、この状態が続けば、来年には耕す者のいなくなった田が必ず出てくるはずである。それは人が増えぬ限り、どうしようもない。兵力は依然としてどちらが極端に勝っているということはないから、クナとの戦いは当面起きないであろうと見ているから、その間に、この問題を解決しなければならない。
しかし、それほどゆっくりとはしていられなかった。春になり雪解けがあると、諸地域で反乱が相次いだ。「鳰の海」と当時の人々が呼ぶ巨大な湖を見下ろす神の山の麓に都邑を置くイブキという地域も、イブキの山の裏に接続する内陸の平野の地域も、あのヒトココまでもが、一気に叛いた。予想できなかったことではないが、こうも一気に、となると、何か謀の臭いがする。彼らが揃って挙げた名分は、
「ヤマトは、人を吸い上げるばかりで、我々になにをもたらしたか。戦いがあればヤマトの兵を貸すと言うが、我々の貸したまま帰って来ない兵はどうなる。しかし税は納めねばならず、このままでは、民は皆死ぬばかりだ。我々は、ヤマトを認めぬ」
どの地域も、概ね、そのようなことを大義として挙げている。仕方のないことであったとはいえ、彼らの言い分は間違いではない。問題を解決しようとはせず、認めぬ。として武力に訴えかけてくるあたりに、彼らの困窮が窺える。
勿論、ヤマトは人を集めるとき、対価は支払っていた。倉を開き、財物を大いに与えたりもした。しかし、財物では腹は満ちぬ。人を取られた地域の者からすれば、大陸から渡ってきた鏡や珍しい品などと引き換えに、国の営みにとって最も重要な人間そのものが奪われてゆくわけであるから、これほど無意味な交換はない。
「思ったより、早かった」
サナが、静かに言った。タクは叛いた軍が海を渡ってくるかもしれず、その備えのためオオトの防備の指揮をしている。現実的に考えて、いきなり敵の軍が船を付けてくるなどとは考えにくいが、海運の得意なヒトココの地からそこかしこで諸地域に叛くよう扇動しつつ船を発し、陸路ではイブキなどの軍が南下、それに呼応してクナ本国が西から、あるいは海から攻めてくるなどすれば、危ない。
オオトは海に向けたヤマトの防衛戦である。同じように、カイとコウラも、比較的距離の近いイブキら北からの軍に備えて陸の防備を強化している。だからこの軍議の場には、サナとマヒロとナナシの三人しかいない。
「しかし、ここまで乱れるとは」
「わたしの思うところは、人々には受け入れられないのであろうか」
「ヒメミコ」
マヒロはサナの方を向き直った。
「この国を乱し、笑っている者がいるのです」
「タクのことか」
「ヒメミコはまだ、あやつを使い続けるつもりですか」
「わからぬ。しかし、あやつを欠いてもまた、ヤマトは滅ぶぞ」
「──倭国、大乱」
ナナシが、ぽつりと言った。あえて大陸風に言うことで、この状況を努めて客観視しようとしているのか。
「わたしが女王になった日、神がわたしに見せたものは、なんだったのか。わたしはヤマトで、ヤマトはわたしだ。そのことをのみ、思い続けてきた。この天と地の間に生きる全ての者が、そう思えるようにと。そうすれば、誰からも奪わず、誰からも奪われず、生きてゆけると」
「その通りです、ヒメミコ」
マヒロが立ち上がった。その様を見て、サナもナナシもマヒロの心が決まったのだと思った。
「我らは、戦わぬ」
しかし、マヒロは意外なことを言った。無理を押してでも出戦し、理想を阻む者どもに決戦を挑んで叩き潰すか、潰されるかのやり取りをしようと決意したものと思ったが、違った。
「おれは、なにより、ヒメミコのその理想を、ヒメミコの愛するヤマトを守りたい。そのためには、クナなど別の国であってもよい。イブキも、ヒトココも、どうでもよい。我らと共に生きようとする者と一緒に、我らの国を作り、守ればよいではありませんか」
「わかった。マヒロ、ありがとう」
「では、彼らが攻めて来たときにどう守るのか、そして、彼らが攻めて来ぬようにするにはどうするのがよいのか、わたしは考えましょう」
マヒロのことを最もよく理解する二人の女が、それぞれ言った。
その方針が定まったことを、タクは、翌日オオトで聞いた。内心、舌打ちをしたい気持ちであった。それでは、自分が付け入る隙がないではないか。
この国を多いに乱し、その混乱の中で、タクは自らの国を建てるつもりであった。そのためには、ヤマトも、クナも、ぎりぎりまで消耗させなければならない。だからイシ、サザレの両地区を叛かせ、クナに働きかけ、出てきたマヒロとオオミを叩いた。オオミを討ち取ることに成功し、なおかつその兵のほとんどを殺し尽くしたことは、ヤマトの基盤が大きく揺れたことを意味する。なおかつ、他の地域に兵の補充を出させて不満を募らせ、叛かせた。これで、クナが侵攻してくればヤマトは決戦に応じるであろう。
ヤマトが勝てば、そのままヤマトの宰相として──勿論、もう一人の宰相であるマヒロには消えてもらわねばならない──、クナが勝てば、自らの外交手腕をもって新たなクナの宰相として取り立ててもらい、後でその権力を覆してしまえばよい。どちらにしろ、双方が滅ぶぎりぎりのところまで血を流し尽くし、弱りきってしまわねばならない。
しかし、ヤマトは、攻めもせぬし戦いもせぬと言う。敵が来ても、ただ守りを堅くし、大々的な応戦はせぬと言う。
それは、まずい。ヤマトもクナも元気なまま残ってしまっては、彼の望みは何一つとして果たせない。
タクは、爪を噛んでいる。強く噛みすぎたのか、親指から、濃い血が流れた。
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そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
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