ゆうみお

あまみや。旧

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卒業後

3.プロポーズ

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それから4年後。



ーーー


「双葉さん、資料終わりました?」
「はい…!すみません、遅れました」


社会人になった。



「全然大丈夫ですよ、間に合ってます。……あ、良かったらお昼一緒にどうですか?」
「はい……是非」


お弁当を出そうと鞄を漁っていると、……ふと、頭の上に違和感を感じた。


「……なんですか?中野さん」


その正体は同期の中野。
大して伸びなかった背で、下から中野を睨んだ。


「双葉さん、俺らとご飯一緒しましょっか」


そう言って中野は僕を見下ろした。



「えと……」
「あ……すみません加藤先輩、澪は俺らと一緒がいいらしくて」



………と、またさらに人が現れた。



「……和樹」
「てわけでまた今度誘ってあげて下さい!」



ここに就職して4年。
まさかこの2人と同じ会社だとは思わなかった。


ちなみに………覚えている人は少ないと思うけど、僕が高校2年生の時に出てきた人達です。



和樹は大学を出て今年から入社。僕達よりも上の部署で仕事している。

中野と僕は同じ部署で………でもお昼はよく3人で食べてる。



「ちょっと……加藤さんいい人なんだからそういうのやめてよ」
「お前さぁ………いい加減自分が変態にばっか目付けられるの自覚しろよ」




………?




ーーー


「それにしても双葉スーツ似合わないよな、七五三みたい」
「む……整形しようかな」
「えー、俺は今の澪の方が好きだからやだなー」



屋上でご飯を食べていると、電話が鳴った。


「もしもし……優馬」
『澪!久しぶり~!』


相手は優馬。



「昨日話したでしょ、……今休憩?」
『うん!澪も大丈夫そう?』


大丈夫と言って、そこからしばらく他愛のない会話をする。


途中向こうから「ちょっと優馬!あと10分で始まるから手動かしてよ!」なんて莉音の声が聞こえてきた。



(あっちは楽しそうだなぁ………)


『ごめんごめん……あ、そうだ澪!再来週の日曜日空いてる?』
「うん……、空いてる」


遊び……いや、デートの誘いというところ。



『じゃあ会いたい、そっち行くから駅前に11時くらいに来れる?』
「分かった、じゃあ待ってる」



それが決まると忙しそうに「じゃあまた今度」と言って電話が終わった。


「………ふぅ」
「彼氏さんといちゃいちゃお電話ですかー?」
「そんなんじゃないし……いちゃいちゃなんてしてない」



「でもさ」と和樹。


「そんな指輪付けてたら職場の人達も結婚してると思うだろ?」
「だって……優馬が付けろって言うから」


左の薬指の指輪。
まだちょっと恥ずかしいけど、優馬にお願いされた。



「俺のいない所で変な虫つくの嫌だから……お願い」



なんて言われたら断れない。




「遠距離ってどんな感じ?」
「そんなに寂しくはないかな……、調子悪いとかはテレビで確認出来るし」


優馬は専門学校卒業後、東京に引っ越した。

仕事をするのにそっちの方が楽らしくて、それと母親の事もあるのかな、とは思う。


(あんなに嫌ってる癖に………やっぱり、小さい頃の事って忘れられないのかな)


小さい頃は依存していたから、きっともう母親からは逃げられないんだと思う。



(でも……まさか本当に、その母親と同じ道に行くなんてね)



……………そう、





「そういえば優馬が出てたドラマ見た?月曜の………」
「あー、相変わらず演技力でツミッタートレンド入りしてたな………」



優馬は今、芸能界で活躍してる。




「月曜の甘酸っぱいラブコメから日曜はシリアスなサスペンス………どっちもそのキャラを崩さずに出来てるからすごいよな……」
「中野よく見てるな、優馬の事嫌いなのに」


「喧嘩はしたけど別に嫌いじゃねぇよ」なんて言う中野に、少しだけ笑った。


「ところで澪はやきもち妬かないの?月曜のドラマ」
「……んー………月曜の夜ドラマ見ながら優馬と電話してると、『これはヒロインを澪だと思ってやってる』って何回もガチトーンで言ってくるから……別に」


こっちが引くくらい何回も言ってくる。



「あは……優馬らしい」
「え、気持ち悪っ」


中野が正直すぎる。




「ていうか演技で学生生活をカバーしてた同級生が役者になるって……こんな展開漫画で見た事ある」
「これが一番いい終わり方だと思ったんだから仕方ないじゃん、気付いたの本当に引き返せないところだったし………」




ーーー



………そして優馬と会う日の当日。



10分前には来て待っていると、電車が来た。


(これだよね、確か)



という事はもうすぐ優馬が来る。

最後に会ったのはもう何ヶ月も前。



緊張していた。






「………澪!」






しばらくして、聞き慣れた声がする。




「………あ、」




そこにいたのは分かっていたけど優馬。



「優馬……久しぶり」
「久しぶり、元気だった?」



緊張はすぐにほぐれた。

いや………別の意味でもっと増した、と言った方がいいかもしれない。



「うん………、……あの、



………その格好怖い」

「え"っ」



マスクにサングラスに帽子。
厚着なのもすごく怖い。



「だって……俺変装苦手………」
「莉音に頼めば良かったのに……!これじゃ捕まるよ………!」


「中学生誘拐したとかで捕まりそう」なんて笑う優馬に一発腹に食らわした。



「とりあえず………そこのビル、カフェあるから入ろ?」
「おぅっ」



ーーー


カフェには人がいなかったので優馬が変装を取った。



「いやー……でも困るなぁ、こんなに人気出ちゃうと」
「毎回すごいよ……、ドラマの度に優馬の名前、トレンド入りしてる」


殺人犯からツンデレクラスメイト、ミステリアスなお兄さんからあざとい年下男子。



「ほんとなんでも出来るんだもんね………」
「こればっかりは母親の才能に感謝だなー………」


注文したケーキを食べながら、目の前でコーヒーを飲む優馬を見ていたら笑われた。



「何……?」
「ううん、澪……何も変わってないんだなって」


…………



「それ中野にも言われた………スーツ着てると七五三みたいだって」
「中身も変わってないよ、俺は背伸びたけど」



…………っ




「それ縮んだ僕の前で言う事…?!」



……そう、実は、




『158……?』



この前の健康診断で、身長が縮んでいることが発覚した。


誤差もあるかと思って何回も調べたけど、158から抜け出すことは出来なくて、



「160いかないで縮んだんだな…………可哀想……」
「うるさい………」



ちなみに、



「優馬はいくつ?」
「ん!…えーっと、前に測った時は178!」



…………どういう訳か……優馬は卒業してから伸びる一方だった。



「180いくじゃん………」
「目指すは190です!」



「二階堂先輩に追いつけそうだな」なんて笑ってるけど……あの先輩はしばらく見ていないけどもっと伸びてそうな気もする。




「莉音や葉月さんに迷惑かけてない?ちゃんとやれてる?」
「勿論だよ、ちゃんとやってる。」



莉音はメイクアップアーティスト兼保護者、葉月さんはマネージャーという形で優馬と一緒に仕事をしている。


「莉音本当に化粧上手いんだ、俺絶対あんな風に出来ないよ」
「まぁ莉音はすごいだろうね………」



優馬と目を見てこんなに沢山話すのは久しぶりだった。


楽しくて時間を忘れていて、そして、



「あれ………もう1時か」
「ちょっと歩かない?お腹いっぱい」



カフェを出て、街を歩いた。





「この街は全然変わってないな」
「結構変わったと思うよ?そこの塾も後ろのツタが伸びたし、あそこのお蕎麦屋さんも外観が………」



なんて話していたら、突然優馬が、




「ねぇ………澪。澪さえ良ければだけど、

この街を出てみない……?」





………なんて言われて、



「え……突然どうしたの?」
「ずっと住んでるから思い入れがあるのは分かるんだけど、でも俺澪とずっと一緒にいたいから」



………それってつまり、





「僕に………東京に来て欲しいってこと?」




その質問に、優馬は頷いた。





「………どうしよ……」



美優ももう高校を卒業して家から専門学校に通っていて、一人暮らしも出来る。


きっと美優は良いって言うと思う、でも、



「………やっぱり、美優だけ家に1人っていうのは…………」



そう言った、次の瞬間、




「………電話?」


僕の携帯から電話が鳴った。



「……春樹兄さんだ」


大学を卒業してあっちで働いている従兄弟。


出てみると、




『ねぇ澪、仕事の都合で俺日本に帰ることになったんだ。だから………』




……………なんというタイミング。






「どうしたの?」
「なんか……春樹兄さんがこっち来るらしくて」


すると優馬はにこっと嬉しそうに笑った。



「ナイスタイミングじゃん!流石俺!」
「何したんだよお前……!!」





怖い……………






「という訳で美優さんのことは安心でしょ?」
「えー……待って、とりあえず美優に相談するから」



そう言ってその場で美優に電話をかけた。



『もしもし、……どうしましたか?』
「あ……あの、美優……かくかくしかじかで」



すると…………



『そうなんですか……、おめでとうございます……!』



なんか祝福された。



『優馬さんがいればもう変な虫はつかないですね、良かった……』
「え……待って、いいの……?」



僕が家を出ていって美優が寂しくないか、


だって……今までずっと2人で暮らしてたから。



『そりゃ寂しいですよ………、でも、たまに連絡して元気だって言ってくれれば、私は大丈夫です。』



………




『でも何かあったら必ず相談して下さい。』



……多分、この時顔に出るくらい嬉しかったと思う。



美優が、妹がしっかり育ってくれて、



(僕1人じゃ不安だったけど………本当に良かった)






ーーー


「ねぇ、美優には何もしてない?」
「してないしてない、春樹さんの方はちょーっと………だけ、手回ししたけど……」
「そういう事するの優妃さんと似てない?」



「あいつと一緒にしないで…」と苦笑いする優馬。




「でもまぁ、あと決めるのは澪自身だから。俺はどっちでも受け止めるだけ」




………そんな事言われても、




(もう頷くしかないってのに)





計画性のある優馬に少し驚きつつも、





「………その、




よろしくお願いします………」







目を逸らして、こたえた。







「………!」
「何驚いてんの、こうするしか選択肢なかったじゃん」
「いや……改めていいって言われると嬉しいなって………」



何それ…………




「ほんと急に奥手になるよね」
「あは……、……あ、そうだ!」




「渡そうと思ってたものがある」と、ポケットから取り出した物。




「……あの、なんかクサいんだけど、、雑貨屋で買ったような安いやつだし」




そう言って目線をうつしたのは僕の左の薬指。



「そう……?気に入ってるよ?」
「じゃあもう1個だけ!………ちゃんとしたやつ」




…………それって、





「………優馬」
「あの……俺と、」



目の前に出されたのは小さくて白い箱。




「………ッ」
「俺と……、




結婚してください………!」






………






「…………」





遊びでも口癖でもない、本当のプロポーズだった。



開いた箱の中にはすごく綺麗な宝石のついた指輪が入っていて、



自分が持っているものよりも何倍も綺麗で、





「…………うん、勿論。」








すごくすごく、嬉しかった。






「すごい、ちゃんとプロポーズになってる」
「あは……、そうだろ?………っ」



…………!




「優馬……!まさか泣いてる…?」
「う……仕方ないじゃん……嬉しかったんだから」


耐えきれないというようにボロボロと涙が頬をつたった。




「澪………これからも、よろしくな」
「うん、よろしく……!」








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