ゆうみお

あまみや。旧

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6章 三学期。

219.××が ※

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目が覚めると、まだ窓の外は暗かった。



ただどういう訳か体が動かない。


縛られてるわけじゃないのに、痺れてたまらない。



「………」




声も出ない。





「……!」



ふと視線を横に逸らすと、美優が眠っていて………壁に寄りかかって座っている状態だった。



(美優………)



手を伸ばそうとした、けど、





「おはよう」
「………ッ!!」



薄暗い豆電球であちらの顔はよく見えないけど、


確かにさっきの男だった。



声からして意外と若いことに気付く。





(………)



男の声質は高かった。

楽しそうに笑っている。



「今回はすごく良いよ、なんてったって心神喪失中の子で遊ぶんだから………」




遊ぶ………?


その意味を理解したくなかった。





「……、………」


やっぱりまだ声が出ない。

パクパク金魚みたいに口を開けた。




「………あ、そっか……まだ副作用残ってるか、……ちょっとごめんね?」



すると男は、軽く僕の腹に触れた。


「……?」



次の瞬間、




「……………ぐッ!!」




………殴られた。



「ッ……は、かは、ッは……」
「お、声出たね~」



どうして殴られたのかすぐには理解出来なかった。



「………っ、なん…で」
「いやねー、この子いいと思ったんだよ、初めは。下校途中をずっとつけてたんだけど」


意識のない美優の方へ体を向けて話し出す。


「この不幸そうな感じたまらなかったんだけどね、………でももっと不幸そうな子がいたからさ」


それが僕だった、ということ。




「俺幸せじゃなさそうな子が大好きなんだよね………さらに追い打ちをかけるのが楽しくてさぁ」



男は服の中からさっきの刃物を取り出した。




「ッ……!」
「さてと………前の子は左腕だったから……今回は、」



男は僕の右腕を指さした。





「右腕、ちょっと借りるね~」





そう言って動けずうつ伏せだった僕を仰向けにして、右腕の袖を捲った。



「ひ………、…ッあ」
「……ん?………へぇ、リスカ痕かぁ」



まだ治りかけの痕。


触られたら痛い、それなのに、





「ひッ………!!」




男は……その傷口を舐めた。



「や"…ッ、やだ!!嫌だ!!」



言葉で抵抗しても体が動かない。



「うんうん…大丈夫だよ不味くないから」



そういうことじゃない


そういう問題じゃない




「やめ……やめてくださ「じゃあ上書き保存しよっか!」……は?」



声が震えた。




「沢山傷入れてあげるからね……、どうしようかな………まずは切断……、いや、痛みはあった方がいいよね」



お絵描き好きな無邪気な子供が新しい紙をもらったようだった。



「ぃ"………ッあ"ぁぁ"!!」



手首の皮膚に、刃先が入ってくる。


肉を裂くように切り込みが入って、どぼどぼと赤黒い血が溢れ出てきた。


 
「ふふ、お兄さんねぇ………傷付けた体の部位を集めるの好きなんだ。」



息が乱れて、男の話の内容は入ってこない。



「それでね………あとは右腕だけなんだよね。それさえあればやっと完成するんだ」



喋りながらも、腕や手首に切り込みが入っていく。


手首の血管が多いところに深い切り込みが入って、勢いよく血が吹き出た。



「はーッ、…っかは、ふ……、」



酸素が入ってこない。

冷や汗も恐怖感も、今まで感じたことがない程ひどかった。




(なんで……ねぇ、なんで、僕がこんな目に)





何も悪いことしてないのに



なんで僕ばっかり





(母さんと父さんが死んだのだって、僕のせいじゃない………)






………ふと、矛先が人に向いた。





(………そうだよ、美優のせいだ。)





僕がこんな目に遭ってるのも、元はと言えば美優が目をつけられたからで、



両親が事故に遭ったのも、全部全部……………






(じゃあなんで、それで僕の方が苦しまないといけないの?)



考えている間、美優の方は見れなかった。


だから、……既に目を覚ましていることも知らなかった。





「…………のに、」
「……ん?」






本当はこんな事言うつもりじゃなかった。



この言葉に一生苦しめられるなんて知らなかったから。





「……あの時、美優が……………





美優が、死ねばよかったのに。」









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