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6章 三学期。
214.雨の日
しおりを挟むその日は雨だった。
と言っても雨は唐突に降ってきて………散歩に出かけた父と母が心配になった。
「傘………届けないと」
「美優も行く」
「え、駄目だよ……家にいて」
いくら言っても美優は聞いてくれなかった。
「だ……め、だって!」
「ひぁ」
どうにかして玄関のドアを閉めて、美優を家に閉じこめた。
しっかり鍵を閉めて………けど、
「………」
鍵を閉めたくらいで、諦めるわけなかった。
ーーー
(公園行くって言ってたな………そっちの方に行こう)
公園に行くには交差点を渡る必要がある。
雨は強まるばかりで………傘をさしていると周りも見えにくいので困っていた。
だから、後ろから誰かついてきてることも気付かなかった。
「……あ」
交差点の向こうに、両親を見つけた。
「お父さ………「おかーさん!!」ッ……!」
後ろから聞こえた妹の声に、思わず驚いて目を見開く。
「美優……なんで!?」
後ろにいたのは美優だった。
腰まで伸びた黒髪のツインテールを揺らして、傘をその場に投げて、
両親の所へ………僕の横を抜かして、駆け寄って行った。
信号機が赤く変わった横断歩道に………足を踏み入れた。
「みゆ………、待って」
いくら呼び止めても、美優は止まってくれなかった。
……………駄目だ、止められない
両親の顔色が青ざめていくのが見えた。
………そこにまさか、トラックが来るなんて、
「美優………ッ!!」
そのトラックは、美優のすぐ横にいる。
「ぁ………」
美優がはねられる。
助けなきゃ、と体が動いた。
それでも間に合うわけはなくて、
「ッ……!!」
けれど、幸いトラックは美優に気付いてくれた。
それでも焦って………ハンドルを横に回してしまう。
運転手の目に映っていたのは、美優だけだった。
動けず、光景だけがゆっくりとコマ送りされていく。
幸いなんかじゃ、なかった。
「お母さん………、お父さん……………」
ハンドル通りに横に曲がったトラック。
その先にいたのは………美優を助けようとした両親。
………その次の瞬間、白黒だった目の前が、赤く染まった。
大きな打撃音のような音が聞こえたのは、その光景からしばらく経った後。
あんなにゆっくりに感じていても、それは一瞬だった。
「……………ぇ」
目の前で、一瞬で………僕の両親は、人の形を無くしてしまっていた。
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