ゆうみお

あまみや。旧

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6章 三学期。

194.壊れてく

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(海斗side)

月曜日。


「今日も勉強してて偉いね~海斗君」


また面倒な奴らに絡まれた。

  

(転校する前もだけど………俺なんか構って何が楽しいんだよ)


「……」

無視して勉強を進めていると、



「……なあ、修学旅行の時といい最近といい、俺らのこと無視し過ぎじゃね?」



勉強道具を取り上げられた。




「………返せ」
「えー何?聞こえませーーん」




………




「……お前らも、大学受験するんだろ?こんなことしてないで勉強………」

「勉強なんかしなくても親が金入れて入学させてくれるんだよ、俺らはお前みたいに勉強しなくていーの」



………裏口入学。




(最悪だ……なんでまたこんな所に)



学校に行っても友達がいなくてただからかわれるだけの日常は苦しい。


それがあの楽しさを知ってしまうと尚更。



「ね、海斗君遊ぼ?勉強より楽しいことしようよ」
「ふざけんな!返せ!!」



横目で見ているだけだった教室中がざわつき始めた。



「おい、やめろよ!」



そこに来てくれたのが、




「………!赤鳥君」



クラスメイトの1人。
見た目は背が高く細い感じで、髪が長くてちょっとオタクっぽい男。


「うっわ根暗オタクの赤鳥来た」
「海斗君次移動教室だって、早く行こう」




………助けてくれた。




ーーー


「赤鳥君ありがとう」
「………う、うん」


赤鳥君は少しコミュ障。
でも助けてくれる勇気はある、ここでの唯一の友達。


(勉強道具……まあいいや、同じようなのまだ持ってるし)


とりあえず次の移動教室まで赤鳥君と話しながら歩いた。



「未来斗って友達が出来てさ、あと澪っていう子と、それと………」
「ふぅん……」



前の学校での話が聞きたいと言った赤鳥君にたくさん教えてあげた。
 

「本当に楽しかったな、夢みたいだった」
「海斗君が楽しいならよかったよ……」




………戻れるなら戻りたい。




けど出来ないのはわかってる。



(だからせめて、大人になった時にまた皆で友達のままでいられるように………)




ーーー


(未来斗side)


「それでさぁ………宅配の人に俺人妻だと思われてたみたいで」
「なにそれ面白………」


「………」



「優馬いつもエプロンして出てるからじゃない…?」
「ご飯作ってる時に来る宅配が悪いだろそれは………」



………どういうわけか、




「あの……3人とも、楽しく会話するのはいいんだけど、



なんで勉強してる俺の傍で話すんだ………?」




澪も優馬も郁人もきょとんとして、




「何が?いつもと変わんなくない?」

  

優馬が言った。





「いや……でも俺勉強し……「未来斗はどう思う?俺人妻に見える?」えぇ……?」



何故か話を聞いてくれない。



「思わない……かな」
「だよなー!」




どうしてここで話すんだろう。わざわざ俺のクラスに来てまで。



そんなことを考えていると、教室に人が入ってきた。



「あ、莉音。」
「4組に行っても誰もいないから……ここにいたんだね。」



莉音が入ってきたことによってグループの人数が5人になる。





(5人。それが当たり前の数字だったけど)




その中に海斗がいなくて違う人がいる感覚は、違和感しかなくて怖くなった。




「ッ………俺、飲み物買ってくる!」






………耐えられない。







どうしてかそこに疎外感を感じる。






ーーー


(1人ぼっちな気がするから、あえて1人になってたのに)


一緒にお昼を食べなくてもあの人達は俺のところに来てくれた。


放課後も「一緒に帰ろう」と言ってくれた。



でも俺はもう、






(あの中に入っていける気がしない、



海斗がいないと嫌だ。)






まさか自分がこんなに誰か1人に執着するなんて思わなかった。




昼休み終了のチャイムが鳴ってから教室に戻った。




ーーー

(優馬side)


「結局未来斗戻ってこなかったなー……」
「うん……やっぱり居づらいのかな、前までずっと海斗と話してたくらいだし」


仕方なく自分達のクラスに戻って、席に着いて前の席の郁人と話してた。


遠巻きに最後の方の席の澪を見ながら。




「………ぅ"」   



それも何か、体調が悪そうな気がして。




(澪……大丈夫かな、なんか)




苦しそう。




食べ過ぎとかではないような感じ。
    

多分郁人も同じことを思っていると思う。

お互い澪の方を見ていて、会話が止まった。



「………どうする?保健室連れてく?」
「そうだね。……どっちが行く?」
「公平にじゃんけんな」



負ける気がしなかったのに普通に負けた。


郁人が澪の方に行って、



「澪、ちょっと保健室行こう?顔色悪いから」
 
 
そう言って澪を連れて教室を出て行った。



(ということは………俺が先生に事情を伝える係か)



なんて思いながら、腕を下に耳を伏せていた顔をあげる。




どうしてかその時、的中してしまいそうなほど強い、……嫌な予感がした。




ーーー

(郁人side)


「大丈夫?カーディガン暑くない?」 
「……ちょっと暑い」


澪と保健室への道を歩く。



「じゃあ保健室行ったら脱ぎなよ、今は前だけ開けておいて」
「うん……」


ぷちぷちとボタンを外していって、開いたカーディガンの前からネクタイが見えた。



「………ね……む」
「眠い…?大丈夫?」



頷くのと眠くて首がこくん、となるのが重なった。



それを可愛いなんて思う余裕は無くて、




「………無理、しないでね」






ただ、心配で仕方なかった。







ーーー



「具合悪い?本当だ顔色悪いな……ベッドで休んでけ」


あっさり寝ていいお許しが出る。



「じゃあゆっくり休んでね、僕授業行くから」  
「お前も休んでってい「あ、結構です」」



そそくさ保健室を出た。





ーーー

(澪side)


ベッドのカーテンが閉められて、とりあえず暑くてカーディガンを脱いだ。


今日は冬といえちょっと暑い日だったから半袖。


袖から腕の傷が見える。





(消えてくれないかな………こんなの、もう見たくない)



何回も深く切られたような痕。


痕とはいえ痛々しくて嫌いだった。



誰にも見られちゃいけない。



そう思った途端、




「おい、飲み物あるか?」




先生が何も言わずにカーテンを開けた。


勿論、腕に目がいく。




「………随分大層な傷痕だな」
「っ……見ないでください!!」
「今のは不可抗力だろ、仕方ない仕方ない」



「気持ち悪い」と言われないだけまだ良かったけど、見られたのは最悪だった。



「なんの傷だ?」
「言いません………」
「あ、リスカか?」
「違います……!!」


確かにそんな感じに見えるけど、そんなんじゃない。




「………もう残っちゃっみたいで、多分消えないと思います。」


貰ったスポーツドリンクを手に持つ。



(これを見る度にあの時のことを思い出して嫌になる)



俯いていると先生が、



「ところで……早苗の昔の話を聞いて、お前はどう思った?」  



この前冬休みのことを聞いてきた。




「…えっ、と、優馬っていつもお気楽…では無いけど、……っと……」



突然すぎて上手くまとまらない。




「………あ…あんまり、気が弱そうには見えなかったんです。でもたまに奥手な時があって、」



去年の冬休み、皆で雪合戦をして遊んだ時があった。



(あの時……一瞬だけ奥手なのかなって思った、2人きりなのに思いとどまってるみたいだったし)



「それに……優馬って喧嘩するとなかなか謝ってこないんです、そういうところは頑固なのかなとは思ってます。」



喧嘩して優馬が謝ってくることはあんまりなかったと思う。


昔美優と喧嘩した時に親に「お兄ちゃんが謝りなさい」って言われて、僕はすぐ謝る癖がついてたからかもしれないけど。



「………作ってる時だけじゃ見えなかったこと、意外と沢山見えてたんだなって。」



そう考えると案外……優馬の素の顔はよく見えていたはずだ。



「なんか……いつの間にか興味が湧いちゃう人なんですよね、……こんな答えでよかったですか?」



なんか少しズレている気もするけど。


 
「……なるほどな、……じゃあもうお前らは大丈夫だ!」


先生がそう言って明るく微笑む。

初めて先生の笑顔を見た。




(……?何が大丈夫なんだろう)





その意味はまだわからなかったけど。





「………先生、すみません。そろそろ寝ます。」




眠気がひどい。







ーーー

放課後。



「大変だお前ら!!!校門に……ここ、ここうもんに!!!」


1人の男子生徒が慌てた様子で教室に入ってきた。



「どしたんモブ男」
「大変なんだ…!!この男子校の校門に、





女子が………いる。」






その瞬間クラス中の人間が騒ぎ始めた。


「どこだァ!!どいつの彼女だ!!!」
「見つけ出してシバいてやる!!!」
「縄準備完了!!処刑台準備完了!!!」




………男子校の生徒って誰かに彼女がいるだけでこんなに騒ぐんだ。



「で、どんな子だった?制服着てた??」ワクワク
「えっと………黒髪セミロングに黒のセーラー服」
「……あれ、黒セーラーって中学生じゃね?」



………え




「澪?」
「美優……かも」


その特徴は明らかに美優って感じがする。

急いで鞄を背負って校門に向かった。




ーーー



………案の定それは、




「み………美優」


妹だった。

何故か僕の後をつけてきてたクラスメイト達が、



「双葉か!!双葉の彼女か!!?……いやドッペルゲンガー?」


とか言ってきたけど、


「……妹だよ」

って言ったら「ならヨシ!!」と言って速急に教室に帰って行った。



「……美優、なんでここに」
「保健室の先生から電話がきたんです。澪が帰ってる間に倒れる危険性があるって」



………ただ具合が悪かっただけなんだけど。




「優馬達がいるから大丈夫なのに………」
「優馬さん達と別れた後も少し距離がありますから。」
「じゃあ……今日は美優が僕の保護者だね……!」


「今日『も』です」って言われた。



「ついでに買い物に付き合ってくれませんか?」
「分かった。」



ーーー


スーパーに行く道の交差点で優馬達と別れて、美優とスーパーまで歩いた。


「今日は何がいいですか?」
「ハンバーグ食べたい……」
「分かりました、じゃあポテトサラダも作りましょうか」



なんて話していた矢先、




「っ……あ、」



突然、…一瞬だけ力が抜けてその場に座るように倒れた。


「……え?」
「どうしたんですか…?やっぱりまだ具合が………」



……なんで



「……う…ううん、大丈夫」




やっぱり、おかしい。







どんどん体が壊れていくような感覚がした。







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