ゆうみお

あまみや。旧

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6章 三学期。

190.求めて欲しい

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「少しお話しませんか?」


李世は扉を閉めたことには触れず、そう言って貼り付けたように微笑む。


「……?どうしたの?」




あれ………なんか、





(怖い)





いつもの可愛い李世じゃない。



そんな事を思っていたら、李世はいつの間にか僕の目の前に来ていた。



「ッうあ……!」




そして気が付けば積み上げたマットの上に自分の体が倒れていて、



「李世……何を「先輩は」」




逃げられないように李世に体が固定させられたんだと理解して、すぐに危機感を感じて逃げようとしたけど、


「…ッや"……」


李世が僕の手首を掴んで、足も李世の片足の膝を自分の両足の間に置かれて、動けなくなった。


「李世、痛い、やだ」




あれ以来李世が何も言わないことを不思議に思いつつ、それよりも恐怖が勝っていて、



………でもようやく、





「先輩は……ボクの生き甲斐を奪って楽しいですか?」




……生き甲斐




どういう事なのか全く分からない。



「僕は何も……「真冬ですよ、真冬を奪って楽しいんですか?」…え……?」


李世の生き甲斐って真冬なんだ………



真冬なら、奪ったつもりなんて全く無い。



「誤解だよ、真冬は……「でも真冬、ボクに見せない表情ばっか見せてた」」



見せない表情………

あまり詳しくは無いからそれの予測は出来ない。




「真冬は人前で笑いません、好きじゃないものを食べたりしません。」



………



「僕が先輩だからじゃない…?気を使ってくれてたんじゃ…「真冬は先輩なんかに気を使うような人じゃありません」…っえと……」



なんか、って言われた………


とりあえずこの状況をどうにかしたいけど、今の李世を見るにそれは出来そうにない。



………6時間目の始業のチャイムが鳴った。



「あ……チャイムが」
「授業なんかどうでもいいです、それより聞いてるんですけど」



僕は大丈夫じゃないんだけどな、とかそんなこと思う余裕はなくて、


とりあえず李世を安心させてあげるための答えを必死に考えてた。



「……真冬と李世は、ただの友達じゃないの?」



李世に少しだけ考える間があった。



「………ただの友達だったら、どれだけ良かったか


こんな思いしなくて済んだのに………」




……………




ふと、気になったのは




(李世……なんでそんなに、無表情なんだろ)


目に光がないし、泣くことも怒ることもしない。



「無」だった。





「………すみませんでした」
「…李世?」



李世が僕から離れる。




「すみません、変な事聞いてしまって。忘れて下さい……」


用具室の扉が開いた。



「李世……どこ行くの?」
「少し頭冷やしてきますね。」
「授業は……」
「ボクは頭がいいので大丈夫です」
「あ…そう」



そう言って李世は体育館を出て行った。



(……あ、授業………)


僕まだジャージだし、遅れていくのやだな………




ーーー

(李世side)



「どうしよう……どうしよう、どうしよう………」



上手く笑えない。



(もう表情作れない、これじゃ真冬のところには行けないなぁ………)


真冬がボクに求めてること、もう今は出来そうにない。


「これじゃ友達失格だ………、……はぁ」


授業に出る気力も無くて、3階のテラスで1人で校舎を見て過ごした。



(やだ……真冬に求められないのは怖い、真冬じゃないと嫌なのに)



柵をつかみながらずるずると腰が下がっていく。



こんなに苦しいはずなのに涙すら出なかった。



(やっぱりボクは貰わないと駄目なんだ、上手く表情が作れない)





……………どうして






ーーー

(優馬side)

掃除が終わって澪と少し話していたら、



「……」ひょこっ



3年生の教室に真冬さんが入ってきた。
澪がそれに気付いてすぐに駆け寄る。



「真冬……どうしたの?ここまで1人で来たの?」


俺も近くまで行ってみると、



「………李世、知らないですか。」



少しカタコトではあるけど真冬さんが喋った。
「知りませんか」と言う所をそう言うのは…緊張でもして上手く言葉が出なかったのか。


「ううん……分かんない、…あ、でも、頭を冷やすって…さっき会った時言ってたよ」

いつ澪と李世さんが会ったのかは分からないけど澪がそう言っていた。


「……」
「…あ、場所は分かんない。ごめん……」


真冬さんが少しだけ眉をぴくんとあげる。


「……」ペコ
「あ、探してるなら一緒に探そうか?HR終わってからだけど……」
「……!」コクン


真冬さんは本当に困っているように見えた。表情は変わらないけど………



「分かった、じゃあ終わったらこっちでも探すから」
「……」ブツブツ
「うん、じゃあ僕達は上を探しとくね」


僕達ということは俺も入ってるのか。
……まあいいけど……、ていうか澪が珍しく高校生らしく見える。





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