ゆうみお

あまみや。旧

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5章 冬休み。

176.味方

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(澪side)



「あけましておめでとうございます」
「おめでとうございます」


年が明けて、リビングで美優と一番におめでとうございますを言い合った。



「年越しそばまであと364日かぁ……」
「そばならいつでも食べれますから……」



美味しかった、去年の年越しそば。



優馬:あけおめことよろ



Limeにメッセージが来た。


郁人:あけおめー
未来斗:おめおめ!!


僕も送った後、少し遅れて



海斗:あけましておめでとう






「あ……海斗だ」


久しぶりに海斗のメッセージを見て、少しほっとした気持ちになった。


「澪、初詣はどうしますか?」
「今年は皆受験勉強してるし……いいかな」
「分かりました、今日はかなり寒いですしね……」




…………それにしても、




(皆今頃勉強してるんだよね……僕だけかな、こんなことしてるの)



もう3年生なのに。





(どうしてこういつもトロいかなぁ………)





もっと大人になりたい。 






ーーー


1月5日。


(未来斗side)



未来斗:あけましておめでとう
海斗:ちょっと遅いけどあけましておめでとう


意味もなく海斗の個人チャットに送ってみた。

まあこれは挨拶みたいなもの。


未来斗:今日は何してるの?
海斗:家で勉強だよ    





…………よし、






今俺は電車の中にいる。






「行くぞ…………、東京……!!」






ーーー


東京千代田区。


(海斗side)



「兄さん、今回はいつまでいる予定?」
「んー、とりあえず明日の顔合わせの時にはいるよ」


明日……桜庭さんと2回目の顔合わせの時。



「そっか……」
「うん、あ、これもお願い」



兄さんから洗い終わって濡れた皿を受け取って布で拭く。


皿洗いはいつも俺(と兄さん)の仕事。



母さんが低血圧で体が弱いから、料理もたまにしてるけど………




「…よし、終わった。じゃあ俺勉強してくるから」
「分かった、後で飲み物持ってくね」





ーーー


冬休み中はご飯を食べたら勉強、ほとんど勉強ばかりしてる。


何十冊……下手すれば100冊を超えたテキストや参考書。



(絶対……受からなきゃ、ここで落ちたら終わりだ)



 
『お前の代で会社の拠点を海外まで広げられたらいいんだがな………』




なんて言われたから……英語も必須。



「………」




勉強なんて好きじゃないけど、





(好きじゃないだけでやらなくていいなら楽だっただろうな………)





そういう訳にはいかない。




(だって、俺は)




ーーー



元々頭が良くなかった。



「小学校の小テスト、満点じゃなかったみたいだな」


小学生になって初めて受けた60点の小テスト。

その点数を見て父は呆れてた。


「元々頭が良くないのね……」
「……仕方ない、何が何でも勉強させよう。」


そして必死で覚えて、次のテストは満点だった。



「偉いな、この調子だぞ」



そう言われて、初めは嬉しくて頑張ってた。


元々の出来は悪いけど頑張れば出来る体質で、それから必死に勉強し続けて、



中学はずっと1位を保ってきた。



その分のプレッシャーも酷かったけど。




ーーー


(唐突な西原side)


「東京楽しーーっ!!」



久々に北海道からこっちの陸に戻ってきた。


「りゅーき、次あそこ行こうよ」
「大丈夫なのか…?お金は「ある!行くぞ!」」



とりあえず今日は龍輝と東京で遊んでる。
今日はその辺のホテルに泊まって明日三坂市の方に帰る予定。



「来たからには楽しまないと損だろ、ほら行くぞ!」
 



ひたすら龍輝を連れ回した。






ーーー


(未来斗side)


その夜。


「疲れた……」


とりあえず駅を出て、外に出る。




「………よしっ、」



まずは………





(海斗の家を探そうーー…!!)






実は知りません。





ーーー


「すみません家を探してるんですけど……」



交番に行ったら何人かの宝条さんの家を教えてもらった。



「じゃあ片っ端から探してみます、ありがとうございます!」





………警察ってこういうことしてくれるんだ。





ーーー


午後5時。

(陸斗side)



「海斗………ごめんね」
「え、なんか言った?」
「ううん、なんでもない」



聞き取れなかった海斗がまた机に向かって手を動かす。



(俺のせいでこんな目に遭わせちゃって、本当にごめん)



………本当ならこの位置にいるのは俺だったのに、



(でも、ほんの少し羨ましい時もあった)



ふと部屋から聞こえる楽しそうな声とか、


こっそり覗いたら海斗が楽しそうに好きな人と電話してるから、



家を出ないとそれが許されなかった俺には、少しだけ羨ましく見えた。



(なんで俺ばっかり………)



なんて、海斗は頑張ってるのに思ってた。



まるで自分だけが被害者みたいに。





ーーー


「今日の夜は星がよく見えるんですって」


母さんが言った。


貧血体質で体の弱い母。



「そうなの?」
「ええ。きっと綺麗だと思うわ。」



母さんこういうの好きだからな………



「夜が楽しみだね」
「ええ…!それに明日は桜庭さんも来て下さるし」




………




本当にこのまま、話が進んでしまうのだろうか。




(本人の気持ちとか、どうでもいいんだ)







………痛い。






ーーー


(海斗side)


部屋で勉強している時、ふとあの日の会話を思い出した。


破談にする作戦を説明してもらった後。



『……ですが海斗様、もしこの作戦が失敗した場合……私は潔く結婚を認めようと思いますの』

桜庭さんはそう続けた。


『え……なんで…ですか?』


困惑する俺に向かって、


『………海斗様、私たちがしようとしていることはそれくらい大勢の方々を巻き込んでしまうことなのですよ。 


貴方にも充分その場合のことを考えて欲しいんです。』



親も会社の人間も、



これはきっと俺達だけじゃない、大勢の人が関わったことだから。




『簡単ではありませんよ。』









「………、」



そう言われても………




(やっぱり俺は、あの人と結婚なんて考えられない)



考えるのが怖い。





「海斗、クッキー焼いたから食べよ?」
「兄さん………」



悩んでいたら兄が戻ってきた。



「ん?大丈夫?何かわからないとこあった?」

「……ありすぎて困ってる」
「え?」


頬をぷくぅ…と膨らませて机に突っ伏す。 

そのままクッキーを一口食べたら美味しくて口の中が痺れた。



「……美味しいもの食べると口の中痺れるんだよな………」
「なんだっけそれ……何かが細いとなるんだよね」



「それでどこが分からないの」って兄さんが聞いてきた。




「………どうすれば、桜庭さんと結婚しないで済む?」



兄の顔が曇る。




「どう……すれば……ね」


まあ流石にこれは困るだろうな。



「桜庭さんが嫌いなわけじゃないんだ。ただ……俺は好きな人いるし、それに向こうにもいるらしいし」
「え、そうなの…?」
「そーなの……」



兄さんが「相手にも好きな人がいる」という所で驚いて、



「それだったらどうにかして破棄できないかな………」
「一応2人でそれを考えてるとこなんだよね………難しいんだけど」



は正直こういう状況でもない限りは絶対やりたくない。




「……やっぱり、未来斗君じゃないと嫌だ?」


ふいに未来斗の名前が出てきて体がぴくん、と跳ねる。



「あ…えと、えと、あの」
「そんな動揺しないでよ……」
「……っ、まぁ、


嫌……かな」




正直もう、他の人とこれから一緒に過ごすのは考えられない。




「俺、やっぱり好きなんだよな………未来斗のこと。」




咄嗟に口元がほころんで、自然と笑みが浮かんでいた。



それを見た兄さんが意地悪そうに微笑む。




次の瞬間、





「じゃあ………こういうことされるのも、あの人じゃないとやだ?」




ふと、机の隣にあるベッドに背中が当たる感触がした。


反射的にぎゅっと瞑った目をゆっくりと開くと………



「ッな………」



天井が見えて、その手前に兄さんがいた。

手がしっかりと手で押さえられていて、




「な…にしてんだよ!!」
「ふはっ、俗に言う『床ドン』です!」



顔が真っ赤になる俺を見て楽しそうに笑う兄さん。



「あの人にこういうことされたい?」

「………ッ!」





それは………




「……、」



真っ赤になって俯いて黙り込んでたら肯定とみなされた。




「ほんと可愛い……俺の弟」
「からなうなよ………、って、うわ!」



落ち着いたと思った隙を見て、今度は脇腹をくすぐられた。



「ひ…っ、は、あは、やめ…!ひゃ…ははは……!」



脇は弱いからすぐに笑ってしまった。




「何分持つかな~」
「ちょ…やめ、ははっ、にいひゃ……」



何分かくすぐられて、流石に腹筋が限界を迎えた。


ぐったりしていると、兄が一言だけ。




「兄さんは、何があっても海斗の味方だから。」






そう言って、立ち上がった。





「ほら、勉強再開!」
「えっ…あ、あぁぁ…!」









ーーー




夜になった。



部屋で変わらず勉強をしていると、スマホの通知が鳴る。



未来斗:海斗、今家にいる?




(………え?)

未来斗からのLime。


海斗:うん、自分の部屋にいるけど……


すぐに返信が来た。



未来斗:東側の……ベランダがある部屋?





……!


なんでそんなこと知って………






(………まさか)



海斗:うん





そう返した途端、ベランダから何かが着地したような……軽い音が聞こえた。
 


(………え……)





まさか、と思ってカーテンに手をかける。





次の瞬間、












「…………………ッ!!!」







ベランダに、涼しい風が吹き抜ける。





(まさか…………そんなことって)





久しぶりに見るはずなのに、どうしてかいつも身近に感じていた。








「久しぶり………、海斗、迎えに来たよ…………!」








ーーーーッ………





なんで、この人がここに







「未来斗………………ッ!!」








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