ゆうみお

あまみや。旧

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5章 冬休み。

168.早苗優馬 ※閲覧注意

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少し3.11要素あります注意。
出来る限り濁していますが一応閲覧注意です。


ーーー



東京のある街で産まれた。

少し高めなマンションの高層階、母親は女優の仕事をしていて、父親は一般人、出張が多くて家にはあまりいない人だった。



物心がつくずっと前から俺は、そのマンションの一室から出たことがなかった。


「お願いだからここで静かにしててね、欲しいものはなんでも買ってあげるし、優馬の好きなことをしていいから」



どうやら俺は望まれた子供ではなかったらしい。


独身と偽って、俺がいることがバレたら仕事が減らされると思ったんだろう。

母は俺を誰の目にも見せないように閉じ込めた。




「何が欲しい?なんでもいいわよ」
「……」


ベランダに出ることも許されずテレビでしか見たことが無い外の世界。


(何が欲しいって言われたって………)


俺は何を貰ったら嬉しいんだろう。


外の世界に何があるかなんて、知らない。


毎日毎日、暗くて狭い部屋で、



ずっと、1人ぼっち。





ーーー



「じゃあご飯作っておいてね」
「うん、分かった」


ある日俺は、テレビで料理番組を見た。

その時、何を思ったのか俺は「料理がしてみたい」と母に言っていて、



……けどきっと、それは本音じゃなかったと思う。



(これが出来れば……少しは、お母さんが俺を頼ってくれる、俺の事を見てくれる………)




まだ幼稚園にも行ける歳じゃなかった。


だからきっと、本能的にそう思っていた。




火は怖くて、けどたまに休みの日に母は料理を作るのを手伝ってくれた。


(俺が……もっと色んなことできるようになれば、お母さんはもっと俺と一緒にいてくれる)





そして、4才になった年のこと。



「優馬、お父さんの実家に引っ越さない?」
「実家……?」


父の出張も減ってきて、ようやく家の中が安定してきた頃。


母が、ここより田舎に行こうと言った。





ーーー


「みなみ…さん…さか?」
南三坂みなみみさかよ、お父さんの実家がある場所」


福島県の浜通り。


海が綺麗な町だった。



「ここがお父さんの実家……?」



実家というから一軒家を想像していたのに、目の前にあるのはまさかのマンション。



4階建ての少し古めなマンションだった。



(またマンションか……普通の家、住んでみたいな)



まあ、仕方ない。





ーーー



そこからの生活は楽しかった。



「優馬、ちょっとお外行ってみない?」
「え…いいの?!」


幸い人があまりいない町だったおかげで、俺は外に行かせてもらうことが出来た。



「あれ何?お母さん」
「あれは海よ、1人で行くのはやめてね」


色々なものを知った。


「あれは?」
「灯台ね、行ってみる?」



海も、灯台も、




外の空気も、窮屈じゃない生活も。





たくさん、たくさん知った。




ーーー

2011年2月上旬。


「わぁ……!すごい、双子だ!」

双子の妹が産まれた。



「……産まれてきてくれて、ありがとう」

母も父も、そう言って泣いてた。



(……俺も、あんなこと言われたのかな)


もしそうなら、嬉しいけど。



双子には実梨と渚と名付けた。



「お母さん、仕事には復帰するの?」
「そうね……ずっと体調不良で休んでいる訳にもいかないし。

そうだ、今度は本職を女優じゃなくてアナウンサーにしてみようかしら」



母は演技の仕事とアナウンサーの仕事で、小さい頃から迷っていたらしい。


いい機会だとオーディションを受けて、2月下旬には合格通知が来た。







…………本当に幸せだった。







あの日までは。







ーーー


町中に荒いサイレンの音が響いた。


2011年3月11日。



東北に大きな揺れがきて、あの波によって俺の町は跡形もなくなった。


「はぁ…はぁ"、お父さん」


俺達だけなら、なんとか余裕を持って逃げられたかもしれない。



けど…………まだ生後1ヶ月の妹2人を背負って逃げるのは、すごく大変だった。




………それに、




ーーー


「ここで降りなさい、あの高台に行けば大丈夫だから」
「…!?馬鹿な事言うなよ、実梨と渚だっているんだぞ!?」
「この状況を伝える為に仕事に行かなきゃいけないの!!」



アナウンサーになれば、大きな災害があればすぐにテレビで知らせる必要がある。


隣県の宮城県のテレビ局が職場だった母は、どうしても車が必要だった。

今まで電車通勤で車を持っていなかった母。
父が止めていたけど、



「子供達が大切じゃないのか!!?」



父のその言葉への返事が、









「子供より仕事の方が大事に決まってるでしょ!!!」







(………あ)




やっぱり、俺は産まれてこない方が良かった。



そう、理解してしまった。






車から無理矢理降ろされて、けどあれはもう見えるところまで来ていて、





ただ生き残るために必死に、妹達を連れて高台へ登った。









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