170 / 260
5章 冬休み。
161.「ごめん」
しおりを挟む「………ごめん」
その手が握り返されることはなかった。
「ごめん……、ごめん、未来斗」
ただ、消えてしまいそうなくらい弱々しい「ごめん」が聞こえてくるだけで、
「………ごめんなさい…………」
あまりにもあっさりと、その手は離れた。
ーーー
「じゃあ、またな」
それからあまり記憶が無くて、気が付けば海斗と別れて、俺は自分の部屋にいた。
電車の中で、澪達が心配そうに俺を見ていた事だけ、ほんの少し覚えてる。
風呂にも入らないで、自室のベッドに倒れるように眠った。
部屋の電気もつけずに、
「…………っ、っう"、……ふ」
枕に顔を隠したら、我慢していたものが溢れ出てきて、
………そこからいつ眠ってしまっていたのか、覚えていない。
「…………」
ーーー
翌日。
(優馬side)
「これ、ありがと。洗濯したから」
「別返さなくてもよかったのに………そんな着てないやつだったし」
(無理矢理)貸した上着を返しに、郁人が家まで来てくれた。
「………ていうか、海斗が引っ越すのっていつだっけ」
そのまま玄関で立ち話を始める。
「27日。明後日だよ」
「まじか………未来斗、大丈夫かな」
昨日……電車の中で、未来斗も海斗もすごく落ち込んでいる感じで暗くて、2人きりにしたら車に轢かれそうなくらいふらふら歩いていたから、本当に心配だった。
「……一応伝えとくか、Limeで」
なんとなく、何もせずにはいられなくてLimeで海斗が引っ越す日を個人チャットで送っておいた。
しばらくして既読がついて、「ありがとう」というスタンプだけが返ってきて、それ以降は何も来なかった。
「……大丈夫だと思うけど」
保証はないけど、多分…きっと、この2人なら
「あの2人なら…きっと、こんな気まずい別れ方、しないと思う」
「………そうだといいけどね」
ーーー
(海斗side)
「………」
一通り引越しの準備も済んで、ベッドに横になって天井を見ていた。
(これで……良かったんだ、これくらいの別れなら、苦しくない)
少し間に溝が出来たくらいが丁度いい。
その方が………例え二度と会えないって思っても、気が楽だから。
(………最後にちょっと、散歩でもしてこようかな)
とりあえず明日は勉強するから、何か思い出を作るなら今日しかない。
気が変わらないうちにと、外へ出た。
ーーー
(誰かに会うかな………なんか、会う気がする)
学校への通学路を適当に歩いていると、誰かに会う気がして仕方ない。
予想は的中した。
「………!みく、」
未来斗の影を感じて、咄嗟に声を出していた。
……………でも、違った。
「………先輩…ですか?」
……………
道理であの人の影を感じるわけだ。
「お久しぶりですね、海斗先輩!」
「久しぶりです……李世さん、…と、真冬さん」
未来斗じゃなかったことに少しがっかりもしたし、けどそれよりも安心した自分がいた。
(相変わらず李世さんの後ろで喋らない真冬さん)
こんなのもきっと今日で最後なんだと思うと、少しだけ鼻がツンとする。
「すみません……ボク達少し急いでて、なんせ数量限定の漫画が………って、なんか泣いてます?」
………!
視界がほんの少しだけぼやけ始めた事を気付かれていた。
「………どうかしたんですか?」
もうきっとこれで最後だから、
この2人にもお別れを言わなきゃいけないと思って、全て話した。
0
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
主人公は俺狙い?!
suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。
容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。
だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。
朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。
15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。
学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。
彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。
そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、
面倒事、それもBL(多分)とか無理!!
そう考え近づかないようにしていた。
そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。
ハプニングだらけの学園生活!
BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息
※文章うるさいです
※背後注意
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
嫌われ者の僕が学園を去る話
おこげ茶
BL
嫌われ者の男の子が学園を去って生活していく話です。
一旦ものすごく不幸にしたかったのですがあんまなってないかもです…。
最終的にはハピエンの予定です。
Rは書けるかわからなくて入れるか迷っているので今のところなしにしておきます。
↓↓↓
微妙なやつのタイトルに※つけておくので苦手な方は自衛お願いします。
設定ガバガバです。なんでも許せる方向け。
不定期更新です。(目標週1)
勝手もわかっていない超初心者が書いた拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。
誤字などがありましたらふわふわ言葉で教えて欲しいです。爆速で修正します。
繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる