ゆうみお

あまみや。旧

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4章 二学期(2)。

140.終わりへと

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(美優side)



今日は、修学旅行に行った兄が帰ってくる。



「うたさん、給食持ってきました」



お昼の12時を回って、給食の時間。




私は…………一人分の給食を持って、保健室に来ていた。






ーーー



「みゆさま!」
「美優先輩です、先輩」



保健室で嬉しそうに立ち上がったのは、花咲うたさん。私の事を尊敬してくれる優しい後輩。

兄……澪の友達の優馬さんの従兄弟でもある。



ちなみに………どうしてこの子が保健室にいるのか、私がここに給食を持ってきたのか。

それは…………




ーーー


数ヶ月前。


「そういうわけで………美優しかいないらしいの、友達が。」



うたさんは保健室登校だった。
大阪から転校してきて、クラスに友達が出来ず、精神的に弱って、いつの日か不登校になっていた。


まあ、不登校になったのはそれだけじゃなくて………何か、病気があったらしいけど。


でも学年が上がってからは、なんとか保健室に登校をしてくるようになった。



「あすかさんはまだですか?」
「当番なので遅れるそうです。私の分持ってきますね」



けど普通、保健室登校の子と一緒にご飯を食べるのはその子と同じクラス、同じ学年の子が多い。


友達どころが人と話したことの無いうたさんには、クラスも学年も違う私と明日香さんしかいなかった。




ーーー



「「「いただきま(ー)す(!)」」」



保健室の先生は少し席を外していて、先に3人で食べていることにした。



「それにしても……保健室は落ち着きますね」
「そもそも木造校舎だし、校舎の隅にあるってのも最高だよねー!」
「うた、この雰囲気大好きです…!」




他愛のない話をしながら、給食を食べる。

食べ終わったら職員室まで片付けに行って、それが終われば休み時間が終わるまではまた保健室で話したり、遊んだりする。


身長を測ったり、こっそり体重を計ってみたり、初めは先生に「遊ぶ場所じゃない」って言われてたけど、今では目を瞑ってくれるようになった。


休み時間になれば私の他の友達も遊びに来て、うたさんのことをよく可愛がってくれる。



私は本当に……この時間が大好きだ。









卒業したら二度とできない、人生の中の、ほんの一瞬。






ーーー



(澪side)



「忘れ物ないか確認しろよー」



先生がそう言ってすぐにバスが動き出してから数時間。



そろそろ、帰る高校の県に入る。



「眠い……」
「膝貸してやるよ☆」
「いらない」



優馬の膝なんて借りたくないから、座ったまま寝ようと頑張った。




…………けど、どれだけ眠くても、






「…………ひっ…………」






浅く眠って、ほんの少しだけ夢を見た。



「澪?」
「……、う………」





最悪な、夢。 

少ししか見てないのに冷や汗が止まらない。





「大丈夫…?」
「う…うん、あ、バスが揺れたから眠気覚めた…………」




適当に起きてしまった理由を誤魔化して、納得させた。




「にしても……受験勉強疲れるわ…………」
「優馬……専門だよね?」
「うん、演技の勉強したいし、奨学金借りながらやる予定」


奨学金を少しでも減らせるよう特待生を取りたいから、勉強を頑張っているらしい。

僕もちゃんと勉強しなきゃな、と思いつつ……1つ、聞きたいことが浮かんだ。




「優馬は…………本当に俳優とか、なりたいの?」
「とか、じゃなくて俳優になりたい!演技がしたいんだ」




…………確かに優馬は、顔は整ってる。
けど……演技がうまいのかは、正直分からない。




「演技……出来るの?」







このほんの少しの疑問と心配が無駄だと、すぐに思い知らされた。






「んー……じゃあ、」







実際にやってくれるのか、優馬は一旦何か考えたあと………すぐ、無表情になった。




そして…………









聞いたこともないような冷たい声で、僕に言った。










「俺……本当は嫌いなんだよね、澪のこと」











演技だとはわかってた。


その氷みたいに冷たくて、トゲみたいに鋭い声も


そんな顔をされたら誰でも自分が嫌われていると分かってしまうくらいの、嫌悪をあらわした表情。




演技だと、わかっていても………………










「……………………ッ!!」





寒気が、した。








優馬は気付いたのか元の表情に戻って、




「どう?できてた?できてた??」



と、またうざく突っかかってきた。





「う…………、うん…………」
「よっしゃ!!もっと頑張ろーっと」









…………駄目だ。









まるで、本気で僕を嫌っていたような、全身から伝わってくる嫌悪感。


すっかり、騙されてしまう。








(どうしよう、もし…………








優馬の今までの行動が全部、演技だったら…………)









もしそうだったら、



本当は僕の事なんて好きじゃないけど、好きだと演じている。

さっきの演技を見ていたら、それも可能なんじゃないかと思えてきた。



好き好き言われるのも嫌だけど………嫌われることは、それよりも怖くて仕方なかった。




(どこまで………自分を偽れるんだろう)






この人なら、この1年半きっと本心を隠して偽り続けることなんか簡単だ。




もし……僕の前でも偽られていたら、それが少しじゃなくてずっとだったら、






そう思うだけで…………怖くてたまらなかった。







ーーー



それからその話には触れないことにして、他愛ないことを喋っているうちに、バスがようやく高校に着いた。




「うわ……現実」
「昨日ティズニー行ってきてからの学校はかなり鬼畜だなー……」



廊下を挟んで隣で寝ている郁人を起こして、バスを降りた。




...






「それじゃあ今日は解散、月曜日休むなよ!」





外で軽くクラスごとにHRをして、すぐに解散した。



「荷物重い!!優馬持って!」
「なんでそんなにお土産買ったんだよ……未来斗」



とりあえず迎えなんてやさしいものは来ないので、お土産を持ったまま歩きで家に帰ることになった。




「楽しかったなー!修学旅行!」
「これが最後の楽しいクラス行事だな、受験……勉強の日々に戻るな………」




海斗はなんで、そんなネガティブなことを言うんだろう…………




「学校とか決まったら、皆で制服で遊びに行くぞー!学校での旅行は最後だから……」








…………本当に、











こうやって皆で他愛のない話をして、遠くに泊まりがけで出掛ける。


出掛けることは難しくても、皆で話をしながら帰る。




そんな時間は…………












もうすぐ、終わる。















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