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4章 二学期(2)。
134.どこにも…
しおりを挟む(海斗side)
1日目が終わって、ホテルに泊まる時間が来た。
部屋は同じクラスで3人一部屋ということで、俺と未来斗とモブ谷。
日付を越して、モブ谷は先に寝てしまって俺は部屋の明かりを一部分だけつけてまだ勉強していた。
未来斗もベッドに居るし、多分もう寝たと思う。
「……はあ」
ずっと机に向かって流石に疲れてしまって、ため息が出た。
「…………未来斗、起きてる?」
ふと気になって、視線は机に向けたまま、後ろの未来斗に声をかけた。
「……起きてるぞ?」
…………少しだけ驚いた、ダメ元だったのに。
手を止めて振り返ると、布団を被ってその下から未来斗がのぞきこんでいる。
足を置く方に顔があってなんか、少し面白い。
「……あ、ごめん起きてると思わなかった………、電気眩しい?」
「んーん、てかさっきからずっと見てた」
見られてたんだ………気付かなかった。
「……そっか………、」
「……海斗、そろそろ寝た方がいいんじゃ………」
いつもはもっと夜遅くまで勉強しているから、まだやるつもりだった。
未来斗にそう言われて、流石にこれ以上勉強すると未来斗が寝れないかと思い、机の上を片付けた。
電気を豆電球にして、未来斗の隣のベッドに入ろうとした、けど
「あ、海斗!ちょっとこっち!」
頭に布団を被りつつベッドの上で体制を正座にした未来斗が、こっちに手招きしてきた。
暗いオレンジ色の明かりを頼りに、未来斗の前まで歩く。
「何?」
じっと未来斗を見ると、何故か突然…………
「はい!」
と、腕を大きく開いた。
「…………?」
「……はい!」
……??
未来斗がきょとんとして、
「………ごほうび。」
開いていた腕をまたくっと伸ばした。
「……え、あっ?」
何がしたいんだろ…………
分からなくて引き笑いしていると、未来斗が痺れを切らしたのか……広げていた腕をこっちに持ってきた。
そして、
「わ……っ」
その手を俺の背中に回して、自分の方へ引き寄せる。
「え、なに……!?」
「ご褒美だってば…!いいから、静かにしてて?」
そう言われて、何もできないまま大人しくこのまま抱きしめられていた。
足が中途半端に長くて、腰を曲げないとベッドの上に座っている未来斗の腕の中に入れないし、逆に折り曲げて座ると今度は低すぎて腕の中に届かない。
腰が痛くて困っていると、それに気付いた未来斗が俺を抱きしめたまま後ろに転がるように横になった。
勢いに任されて、自分もベッドの上で体制を崩す。
横になる分こっちの方が楽だった。
「勉強お疲れ様。よく頑張りました…!」
そう言って下からよしよしと頭を撫でられる。
未来斗は優しく微笑んで、隣で寝ている人を起こさないよう小さな声で
「海斗が勉強やめられないのはわかってる。……だから、せめてこういう時だけでもご褒美、あげたいから。」
本当は毎日やってあげたいけど、という言葉も付け足して。
「……」
「ってわけで」
……?
いきなり手が離れたと思ったら、今度は手首を掴まれた。
そして何故かそれが………未来斗の頬に連れていかれる。
大人しく行く末を見守っていると、
「海斗の好きなほっぺたを今日は思う存分触らせてあげます!!」
「………!!」
前に話した、俺の好きなもの。
それの一部を触っていいと言われた。
「え、じゃあ鎖骨と太ももは………?!」
「そこはこしょばいから駄目です!!」
ちっ…………
「……まあでも、ほっぺたもいい。柔らかい。」
流石年中にこにこしてる男。
表情筋がマシュマロみたいに柔らかい。
しっかり堪能して、赤くあとになるまでつねったり揉んだりした。
「……あははっ、必死だな?」
「だってこんな機会滅多にないし……出来るうちにやらないと」
「そっか~まあ、きがふむまへ」フニフニフニフニフニ
ふにふにしすぎて喋れなくなってる。
気が済むまで……30分くらいこれをして、気が済んだ頃には1時になってた。
「そろそろ寝ないとだな………」
「だな……じゃあ」
ベッドから離れようとすると、袖をくい、と掴まれた。
「……!」
「………そっちはまだ冷たいし、ここに……いろよ」
珍しい甘え声。
袖を掴む指の力が弱くて、離れてしまいそうで怖かった。
(もしかして………気にしてるのかな)
さっき、絡まれたこと。
『いつでも戻ってこいよ、また遊ぼうな?海斗君』
ああ言われたこと。
………勿論、戻る気なんて1ミリもない、ある訳ない。
(けどもし、父さんがあっちに戻るなんて言ったら………)
元々こっちに来たのは、あの学校で精神的に追い詰められたから休息するため。
東京の大学に行くならきっと、陸所のある東京に引っ越してきた方が楽だ。
(だから、きっと……………)
……………
「分かった」
「……え?」
振り返って未来斗を見て、小さく微笑んだ。
「俺はどこにも行かない、約束する。」
その約束を本当に守れるかは分からない、けど
それで今この人が、安心して笑ってくれるなら、それでいい。
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