ゆうみお

あまみや。旧

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3章 二学期(1)。

123. …本当は

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(海斗side)



「……俺、今日図書室で勉強して帰るから」


昼休みが終わる頃、それだけ伝えて教室に戻った。



ーーー




「…………かいと」
「……どうしたの?」


「……なんでもない」
「そっか」




…………何にも気付かないふりをした。




後ろをいつもより小さな歩幅で歩く、未来斗の表情も、思っていることも、





気付かないふりをして、前だけを見た。







ーーー




5時間目の数学。


6時間目の社会と情報。






特に何か起きるわけでもなく、平和に午後が過ぎた。






「海斗ー!これどうすんの?」
「そこはこれ、『セルを結合して中央揃え』、……あ、あとこの合計のところはこうなぞってオートSUMを…………」




1年生で習ったところなはずなのに、どうして出来ないのか気になってはいたけど、






「ありがと!海斗…!」






一度にこればいいのに何回も簡単なことで俺の席に聞きに来る未来斗を見て、なんとなく察してしまった。







ーーー

放課後。



「じゃあ、またな。未来斗」
「……うん、またあした!」


 
いつもなら、こういう時は「俺もついてく」って言うのに。




(………)





ーーー



「……、……、」


図書室で1人、他の人には聞こえない声の大きさで呟きながら、問題を解いていく。




(過去問……これくらい解ければ、合格ラインには達してる………)





………でも、油断はできない。







(ちゃんとやらなくちゃ。父さんを……これ以上失望させられない)




あの人を失望させるな、そう心の中で呟いた……その時。







「………海斗」







背後から、いきなり声が聞こえてきた。




「ひっ」
「あ、ごめん…!驚かせるつもりはなくて……」




後ろを振り向くと未来斗がいて、心配そうな顔をしていた。



「ま、まだいたんだ……もう帰ったのかと」
「か、借りた本休み時間の間に読み終わっちゃって………、どうせだから返しちゃおうと思って」



一冊の本を手に持って、愛想笑いをしていた。




「………似合ってないよ、それ」
「えっ?」

「……愛想笑い。未来斗には似合ってない」





前々から思ってたけど、この人に作り笑顔は似合わない。
素直に笑っている顔が……一番…………、好き。




「……そっかな」
「うん」




「…………そ、っか。」







ーーー




カウンターに本を返しに行ったあと、そのまま帰るかと思ったのに……未来斗は当たり前かのようにこちらへ戻ってきた。



「どんな勉強?」
「っえ……、こ、こんなの」




過去問を見せたけど、まあ分かるわけないだろろうし……見ると、顔を真っ赤にして頭から湯気が立っていた。




「海斗はすごいな!」
「……、あの大学行くなら、基礎だよ。」






いつも通りの雰囲気なのに、少し違う。







(…………俺、本当は)










軽い足音にでもかき消されてしまうような、小さな呟きだった。











「行って………ほしくないよ。」











聞こえないふりをした。

それに答えてしまったら、終わりな気がして。






「俺……頑張るから。卒業して就職して、落ち着いたら沢山遊びに行こう?」




優しい声でそう言うと、






未来斗は………ほんの少し、苦しそうな顔をして、それを必死に隠すように、また愛想笑いをした。







「おう……!頑張れ、海斗…!」









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