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3章 二学期(1)。
115.願い事
しおりを挟む数日後……
「海斗、今何月何日だっけ」
「10月5日、明日から考査」
…………まずい。
「俺とした事が………イベントを忘れてた……」
「イベント……?」
プールの授業も終わって、そしてあのイベントから3ヶ月程過ぎている。
「痛恨だ……痛恨のミスだ………」
「未来斗、痛恨って言いたいだけだろ」
そう、あのイベント…………
「たなばた!!!!!!」
同時に机をドンと叩いたら、海斗に怒られた。
「仙台七夕祭り、行ってないよ……今年………」
「去年も行ってないだろ……てかお前行ったことあるの?」
「あ、ない」
って、お祭りの話じゃなくて、
「違う!俺はあれがやりたかったんだよ!短冊作り!!」
「それを……今からやろうと?」
「うん!」
考査のことなんか頭にありません!!
「俺が昨日怪しい女から購入した魔法の短冊があるから、皆で書こう!」
「嫌な予感しかしない」
昨日、あまみやと名乗る女から短冊を売りつけられた。
まあ、だから書いてみたいってのもあって……たなばたの話題を出したんだけど。
「沢山あるからあとでみんなに配って書いてもらお!えーっと……俺はー…………」
シャーペンを右手に持って、短冊に芯を当てる。
考えて、考えて…………
「よし!」
『海斗にラッキースケベイベントが起こりますように!』
性欲でも溜まってたのかな、俺。
普通にBL本が欲しいって書こうとしたのに、勝手に手が動いた。
「何書いたんだよ?」
「な…内緒!あは、ははは…………」
こんなの…………本人に見せられるわけ…………!!
(は、早く消さないと……でもどうやって………)
考えているうちに、海斗も1枚短冊を手に取って……願い事を書いていた。
『友達とずっと一緒にいられますように』
………………
「…………えへへ、」
え、天使…………?
短冊を自分だけ見えるように持って、愛おしそうに見つめたあと………健気に笑った。
願い事、見せないように腕で隠してたけど………
(普通に……見えてる…………)
尊すぎた。
「な、何書いたんだ?!!」
「秘密だよ、お互いな…!」
まあ、分かってるんだけど…………
自分の願い事と海斗の願い事の善悪の差がすごすぎて、我ながら泣きたくなる。
その時だった………………
「…………うわっ!!」
……!
海斗の短冊が窓から入ってきた風で飛ばされて、俺のところまで来た。
それを焦った海斗が奪い取ろうとして、席を立って手を伸ばした…………
けど、
「っ…痛……」
椅子の脚に足をかけて机の上にべしゃ、と倒れるように転んでしまった。
「だ、大丈夫かかいーー」
…………っ!
どうしてこういう時に限って、第二ボタンまで外してたのか、
(む、胸元が…………あ、ぁあぁ…………、)
「っ…いけませんそんな格好!!!」
「いきなり何?!」
椅子に座らせて飛んだ短冊を渡して、ボタンもしっかり全部しめさせた。
(…………ん?あれ……?)
もしかして…………今、
俺の願い事、叶ったんじゃ…………
(まさかこれ、本当に…………)
いや、まさか
それに……よくあるような願い事だし、まさかな……!(ない)
「......」
………………まあ、もう1回だけ………………
『海斗のキャラ設定欄の中に「エロ」が加わりますように』
………………よしっと。
その時、
「わぁぁぁぁボクのいちごにかける練乳がぁぁぁぁーーーー!!」
何故かクラスも学年も違うはずの李世が蓋の開いた練乳を持って走ってきて、海斗の前で転んだ。
「ひぅ…………ッ!」
その練乳はまあ、うまい具合に海斗さんの顔にかか………………
「わぁぁぁぁせんぱいごめんなさぁぁぁぁい!!!!!ほんとごめんなさァァい」
李世は全く謝る気なさそうで、半笑いしてたけど、
(これ…………本当に、願いが叶うんだ……!!)
ーーー
「ってわけでりせまふも書いて!」
「願いが叶うんですか……?なるほどなるほど、」
李世は考えていたかのようにすらすらと願い事を書いた。
『全世界中の後輩になれますようにー!』
後輩願望がすごい。
「これでボクも後輩の中の後輩になれますね~!まあ願いが叶うとか普通にデマなんでしょうけど…………真冬は何書いたの?」
『李世が全世界中の人間から嫌われますように』
辛辣…………
(そうすれば、僕だけのものになるし………)ニコッ
ーーー
「叶うといいな!」って短冊をあげて、次の授業があるから別れて一旦席に座った。
(次は澪達に渡そう!そしてーそのあとはー……あ!電話で先輩達にも聞いてみようかな!)
二階堂先輩に聞いてみたい……!
(あ、でもそうすると……あいつにも聞かなきゃか…………)
それはなんか嫌だけど、けど今の俺は願いの叶う短冊を持ってるから、気分がすごくいい!
てなわけで、
ーーー
放課後。
「帰る前にこれ書いて!みんな!」
澪達にも渡してみた。
「短冊……?願い事を書くの……?」
「そう!願いが叶うんだよ!」
澪に渡すと、特になんの疑いとかもなく普通に書いてくれた。
『空からメロンパンが降ってきますように』
うん!澪らしい!
本気で叶うと信じてか、澪はお気に入りの廊下のベランダまで駆け足で行ってしまった。
その様子が健気すぎて、
「優馬、僕今からメロンパン買ってくるから」シュバッ
「俺は3階から投げればいいんだな?分かった!」シュババッ
親衛隊が動き出した。
ーーー
「見て見て……!本当にふってきた!」
「良かったなーあはは」
きらきらしてメロンパンの袋を持ってきた澪の後ろで全力疾走した優馬と郁人が死にかけてる。
……さて、と、
「優馬はどんな願い事にする?」
「ぜぇ……あ、えっと………じゃあ適当に、郁人がキモおじから告白される」
「ふぁ?」
さっきまで一緒に協力してたとは思えない程素早い裏切り。
「ねえ、桜木君、ちょっといいかな……?」
「ひっ……嫌です!やめてください…!!」
それからの郁人の怯えようが尋常じゃなかった。
「っ……じゃ、じゃあ僕は……、優馬に大量の水がかかりますように!!」
ばしゃぁぁぁぁ
「あぁ"あぁ"ぁ……ッツメタァァァイ」
「ざまあみろ屑が!!」
…………何、してんだろ。
ーーー
「でもこれ、ほんとに願いが叶うんだな!そうと決まれば……」
ある人に、電話をした。
『はい』
「お久しぶりです……!二階堂先輩!」
去年卒業した…………二階堂先輩……!
『ああ、未来斗か、久しぶりだな』
実はこっそり連絡先を交換してた。
「久しぶりです!先輩!ところで……今なにか悩んでいることとかないですか?!」
『悩んでることか…………ああ、
飼い犬の躾が出来なくて困ってるな』
なるほど!
「じゃあ飼い犬の躾が上手く出来ますようにって短冊に書いておきます!」
『まだ七夕気分なんだな……まあ、楽しいならいいよ』
「あ、ちょっと今忙しいから」と電話を切られた。
「タイミング悪かったか………さて、次は…………」
西原…先輩!
本当はあんまり話したくないけど……まあ、差別は嫌だし…………
電話した。
「もしもし……」
『未来斗…?』
少し元気が無いけど、長年一緒にいた従兄弟の声。
(まさかまた………無茶してないだろうな…………)
前に無理矢理生徒会の仕事をして、倒れたことあったし、
「あ、ていうか今…授業中だったりする?」
『ううん、今の時間は何も取ってないけど……何かあった?』
………………あれ
(なんか……優しげのある声)
こんな声……だったかな。
俺の記憶の中での先輩は、すぐ煽ってきて何にも動じなくて冷静で、お世辞にも優しいとはいえない声だった。
それが…………なんか、違う。
「先輩……あの、何か悩み事とか………」
『え?特に無いけど……用がないなら切るよ?』
え……
(いつもは、俺がいくらやめろって言っても絡んでくるのに………)
明らかに、おかしい。
「じ……純也…!何か不安な事とかあったら俺に相談しろよ?!俺達従兄弟なんだから…「ぶはっ」……ん?」
なんとなく嫌な予感がして柄にも無いことを言ってしまった……けど、
『どう?未来斗、俺……偉く見えた?頭良さそうに見えた??』
は?は?
『今隣にいるりゅーきがさ、飼い犬の躾が出来るようになりたいって言うから、俺が試しに躾のされた犬になってみたんだけど……分かった?うまかった?ねえ??』
あ…………
(そう……いう?)
『あ、もしかして元気がないって心配してくれた?うわ可愛い~、大丈夫っ、生徒会長はいつでも生徒の優しい味方…「さようなら」』
無理矢理切った。
「ていうか、願いが叶うわけないよ……全部たまたまでしょ」
「ソンナッ」
郁人の現実味のある言葉で、我に返った。
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