ゆうみお

あまみや。旧

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2章 夏休み。

86.親友に

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「じ……じいちゃん!!!」








金曜日の夜中に、電話があった。








朝、急いで案内された部屋に向かうと…………









「…………!!」







白い部屋の真ん中で、祖父が…………台の上で眠っている。



永遠に覚めないかのような………冷たい部屋だった。



先週までは笑顔だった顔の上には白いなにかが敷かれていて、



シートから出た腕は………木の棒みたいに細くて脆い。






白くて……土気色な肌。









唖然としていると、後ろから母が駆けつけてきた。




そして…………祖父の元で、








「い……や…………お父さ…ん…………、うそ、嫌…………





い"やあ"ぁぁ"ぁあ"ぁーーーー~ッッッ!!!!」












………………あんな母を見たのは、生まれて初めてだった。












ーーー

(郁人side)




「…………お母さん……今日…なんか朝、騒がしかったね。」

「そうね。お母さんちょっと見てくるわね」




ーー



病室に戻ってきた母の顔が、少し青ざめていた。



「…………?」

「その…………人が、亡くなったみたいなの」




ああ…………




こんな所にいれば、日常茶飯事までとはいかないけど、そういう場面はよくある。



小さい頃からそんなことに慣れてしまって、特に驚きはしなかった。




(こういうこともあるから…………あんまり、ここにいる人達と仲良くなりたくない)




また読んでいた本に視線を戻した。





「…………その…亡くなった人……っていうのが………………」




「え……?」






その人の名前を聞いた途端、咄嗟に……顔を上げた。











『郁人ってたくさん本読んでるから、おれの苗字もよめる?』
『え?あ…うん、多分』



前に遊んでいた時、そう言って見せてもらったメモ紙に書かれていた、









「おおとり…………さん?」







ーーー





そんな珍しい苗字、周りに沢山いるわけない。



すっと、血の気が引いていく感じがした。







ーーー





それから…………未来斗が病室に来てくれることはなくなった。





やっぱり予想は的中していて、亡くなったのは…………未来斗の、おじいさん。






(そっか……もう、来る意味なくなっちゃったもんね)







僕も、来週は手術がある。






(成功………………するのかなぁ)









ーーー



手術の前日の土曜日。




あっという間に、手術の日が近付いてきてしまった。







日を重ねていく事に不安が増していって、前日はもう、読んでいる本の内容も頭に入ってこなかった。




(気分転換…………外、行きたい)






………………でも、






体が重くて、動けない。







無理に立とうとした途端、視界が歪んだ。








「……………………郁人!!」









ーーー





目が覚めたら…………窓の外が暗くなっていた。




「……おかあ………さん?」

「……!良かった…………」




どうやら…………倒れてしまったらしい。




お医者さんもいて、「精神的なストレスが原因」だって言われた。






(そういえば、ご飯も食べたくなくて、あんまり寝れなかった………緊張のせいかと思ってた)





鬱状態になっていたと、あとあと母に聞かされた。






「しかし……このままですと手術の成功率はかなり下がります。精神的に不安定となると、ーーー」




難しい話をしていて、あまりよく分からなかった。


でも確かなのは………このままじゃ、僕は死ぬ。







(未来斗に………会いたい)








ーーー




結局………手術は少し先延ばしされた。



心の安定を保つために、母が毎日病室で気分転換になることをしてくれた。




………………でも、









「はぁ……は……あ、っ……げほ、けほ…!!げ……、っ……うぇ"、え"………」







2ヶ月も先延ばしにしていたら………限界が来てしまっていた。





1日に何回も痰混じりの咳をして、たまに戻してしまうこともあって、




毎日筋肉痛でお腹が痛くて、日に日に体が脆くなっていると、自分でもわかるほど。








しまいには意識を失って、何日も目を覚まさなくなっていた。







 「大変危険な状態です………手術の準備をしますので……!!」





もう……………このまま、死んだ方が楽なんじゃないか。






心のどこかでそう思っていた、その時。














声が………………聞こえた。














「郁人………!!郁人!!!」









暗闇の中で、ずっと聞きたかった声が………響いた。






ずっと触れたかった、ずっと話したかった






ずっと……会いたかった、男の子。












ーーー





なんとか無事に、手術は成功した。








「……………」




手術が終わった数時間後………見慣れた天井が視界に入る。




そして、





「……!郁人のお母さん!!郁人が…目、さましたよ!!」





(この声………)




間違いなく、あの子だ。






「み………く、と?」




窓の外から光がさす白い部屋。



初めに目が合ったのは…………未来斗だった。






「………どうして……ここに」






もう、ここに来る理由はないはずなのに、



どうして、今ここに……僕のそばに居るんだろう。




 
「未来斗君ね、いろいろ落ち着いた頃からずっと郁人を探してたんだって」





母がそう説明してくれたけど、寝起きでぼーっとした僕には分からなかった。





「おれ、いつも車できてたから病院の場所わかんなかったんだけど!おかあさんにきいて、1人でかってにきたんだよ!!」





...




 
「いやなんでそんな危ないことしてるの!!?」




仮にも5歳児が1人で来るなんて………家が近くにあっても不安なのに、こいつ…………





「おれの家からけっこー遠かった!!だから、してもらった!!」



何言ってるのこの子。



てか何してんの…………!!?





「子供だけでヒッチハイクなんてだめだよ!!何考えてんのさばか!!」



目が覚めたばかりとはいえ………びっくりすることがありすぎて、つい柄にもなく叫んでいた。




未来斗は一瞬驚いて「わ」とだけ声に出して、でもその後またいつもみたいににぱ、と笑った。




「だいじょーぶ!!じつは従兄弟のお兄ちゃんも付き添ってくれたのです!!」




従兄弟のお兄ちゃん……?



まあ、付き添ってくれるなら……高校生くらいだよね、とか思っていたら、



「ちなみに従兄弟のお兄ちゃんは小学1年生です!!」



やっぱりアウトだった。





「……でも………お兄ちゃんがかってにお母さんたちに連絡したみたいで……さっき来て、怒られた。」



まあ、当たり前だよね。


従兄弟さんがしっかりしてる人で良かった………






呆れていると、未来斗が急に真面目な顔になった。






「………ねぇ郁人」
「……うん?」










「郁人が生きててくれて、ほんとうに良かった」












ーーー





……………






沈黙が続いた、その時。




知らない男の子が、ひょこっと扉を開けて入ってきた。




「未来斗ー、そろそろ帰るよ?」



茶髪に赤い目の、僕よりは大きいけどそれでも世間的に見れば小さい男の子。


名前を呼ばれた未来斗がぱっと振り向いた。


「じ、純也兄ちゃん……!わかった、すぐ行くからちょっとだけまってて!」




未来斗は慌てているのか目が小さく動揺していた。




手をばたつかせて必死に「あっち行ってて」と言わんばかりにしっしとジェスチャーをしている。



それを見た「純也」という人が、にやりと笑った。




「なになに~?なんかいかがわしいことでもしてたわけ?未来斗ってばいつの間にそんな………」




へらへらと笑って、その度に未来斗が動揺している。



「そそそそんなんじゃない!!兄ちゃんのばか!!へんたい!!もぶれされちゃえ!!!」




もぶれって何………






「どういう関係なのかなーー?お兄ちゃん気になるーーっ」





「「……っ!」」






そういえば………







「未来斗……僕達って、どういう関係…?」




友達とは言ったけど………実際、1週間に1回会って数時間話してる程度だし………





「んー……健全でかつ友達以上………」




……ん?






友達……以上?








「よしっ!じゃあ親友!!退院したら幼稚園……きてくれるんだろ?一緒にあそぼ!」





わかりきっていたように、未来斗はにぱ、と笑ってまた、僕の手を握った。







そういえば………いつだかは覚えてないけど、退院したら未来斗と同じ幼稚園に行くって言ってた気がする。







「……………うん、わかった」








まだ少し不安だけど、きっと………









(大丈夫……だよね)









ーーーーー





「ねえ!そこの子!」
「ひぁっ……」




幼稚園の教室の隅で静かに本を読む、黒い髪の男の子。



未来斗が話しかけたがっていた子だった。




『あの子、いつも周りの子に声かけようと頑張ってるんだけど、大人しい性格で、なかなかむずかしいらしくて………』



その話の通り、さっきも声をかけようとして、失敗して落ち込んでいた。




「おれ……あの子ならきっといっしょにいて楽しいと思う!声掛けに行こ!」




そう言って未来斗は、迷うことなくその子に声をかけた。




「なまえなんていうの?」
「っ……え…えと…………」




なよなよした子だな………なんて思って、どんな顔なのか気になって見てみた………その時。








「………!!」







予想以上に………………………






可愛かった。








「んーと、あ、みおって言うんだ!よろしく!みお!」








 まあ……………そんな感じで、










これが、僕達が出会った時の話。














ーーーーー




(おまけ 郁人side)





……………そういえばあの時




(お医者さんに、残念だけど貴方はあまり強い体にはなれないから、背も伸びないかもしれないって言われてたけど)




159…165……168、170……………







(………………うん)






周りの子達のおかげで、全然大丈夫だった……☆











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