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1章 一学期。
33.似たもの同士
しおりを挟む(海斗side)
「はぁ……なんとか脱出出来たな。」
「だなー!優馬達、大丈夫かな……」
さっき来る途中で血相を変えて慌てている優馬を見つけた。
声をかけると、「俺の嫁が行方不明になった!!」って言ってて、余裕があるんだなとは思ったけど、
「どうしよう………もし、澪に何かあったら……」
と、最悪の想像をしていた優馬を見て、本当に慌てているんだと分かった。
でも、一緒に探すと言うと、
「大丈夫、先行っててくれ!」
それだけ残して、暗闇の中に消えていった。
「………未来斗……」
「……とりあえず探すのは優馬に任せて、俺達は早く行ってこの事を報告しよう。」
いつもよりも声のトーンを下げて、真面目な顔でそう言った。
「………分かった。」
ーーー
「早く報告しないと……言いたくなかったんだけど、ここって……でるんだよ。」
……でる?
「お墓があるのもそのうちのひとつだけど、昔ここで崖から落ちて長時間生死をさまよったけど、駄目だったっていう……高校生の、男の霊がさ。」
……っ!
「俺が聞いた話だと、そいつは一度生死をさまよった人間をあの世に連れていくんだって。」
……そう聞くと、澪がその男に連れていかれた、という感じに聞こえる。
それについて深く考えると、澪は昔、死にそうになったことがあったっということになる。
考えていた、その時。
「はぁ、は……」
「大丈夫…?澪。」
!
走ってきたのかかなり息切れしていたが、そこにはちゃんと、彼がいた。
「良かったー!無事だったんだな!」
「わっ…え、何……?」
安心していきなり抱きついてきた未来斗に一瞬澪は驚いていたけど、何となく理解したのか「大丈夫だよ」と少し背伸びをして頭を撫でてた。
なんか、微笑ましい……。
とりあえず、澪が無事で良かった。
「……あ、ていうか郁人と莉音は?」
ーーー
(莉音side)
「よし、とりあえずこれで全部のコースのスタンプは押せたね。」
「うん!早く戻ろ?」
初めは少し怖かったけど、幽霊なんかいなかったし、桜木とはふたりきりだったし最高だった……!
また来れるかな……
しばらく歩きながら話していると、
「莉音、今日は楽しかった?」
……楽しかった、か。
すごく楽しかった、皆と仲良くもなれたし、こうやって好きな人とふたりきりでいれたし。
「うん、すごく楽しかった!もっと早くに皆と仲良くなれてればよかったな~」
なんて笑いながら話すと、桜木は少し寂しそうに微笑んだ。
「それなら良かった、確かに、2年生の時も6人でいれてたらよかったのにね。」
その言葉が嘘だということは、すぐに気が付いた。
桜木は、嘘をつく時はわざとらしく目を逸らすこと、ボクは知ってる。
「………でもね莉音、僕達、2年生の頃は少し大変だったんだよ。」
「…?何かあったの?」
桜木は隠すことなく、全部教えてくれた。
昔からずっと澪が好きだったこと、気持ちが忘れられなくて転校までしたこと、優馬に嫉妬していること。
本当に全部。嘘なんかついてなかった。
「引いた?」
「……そんなことある訳ないじゃん。」
ボクだって同じ。
好きな人のためなら手段を問わない。
それなのに、自分を捨てて相手が幸せになれる道を選ぶ。
似たもの同士だ。
「ボクね、最初はすごく驚いたんだ。ボクが男なのにこんな格好してるから、気持ち悪がられるんじゃないかって。」
でも、皆は本当に優しかった。
すんなり受け止めてくれた事に、最初はすごく驚いたけど、
「皆、ほんとに優しい人だよ。ボク、皆のこと好きになったもん。」
海斗も未来斗も、澪も優馬も。
皆、大好きになった。
「莉音に友達が出来て良かった。」
「なんかそれ、ボクが友達の出来ないぼっちに聞こえる!」
ーーー
(澪side)
「あ、おかえりー、郁人、莉音。」
「「ただいま!」」
「……あ、スタンプ全部集めたんだ!俺達すっかり忘れてたな…」
「あ、ほんとだ。忘れてた。」
未来斗と海斗は忘れてたみたい。
「僕達もすっかり忘れてたね。」
「まあ、仕方ないよな……」
なんか、本来の目的を果たせてないような……
でもまぁ、生きてるだけ幸せ、か。
『……君も一度は生死をさまよった。』
………
なんで「そのこと」を、あいつは知ってた?
それにその話は、大分昔の忘れてしまいたい過去。
生死をさまよった…少し違う気もするけど、確かに僕はあの日、殺されそうになった。
「あの人」を庇って、「あの人」に助けられて。
「あの人」に思ってしまったあの言葉が、忘れたくても忘れられない。
(━━が━ねばいい)
………
「思い出させる、な……」
「ん?どうしたの、澪。」
…!
優馬に声をかけられて、我に返る。
「う、ううん…!メロンパン食べたいなって!」
必死に誤魔化して、下手に笑ってみせる。
そんな嘘に、優馬は普通に騙されていた。
「そ、そうだよな……食べたいよな、明日!明日買ってやるから…!」
……まぁ、いいや。
この事は、あそこまで頼っていた幼なじみの2人にも話してない。
僕だけが隠してる、最低な秘密。
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