37 / 260
1章 一学期。
33.似たもの同士
しおりを挟む(海斗side)
「はぁ……なんとか脱出出来たな。」
「だなー!優馬達、大丈夫かな……」
さっき来る途中で血相を変えて慌てている優馬を見つけた。
声をかけると、「俺の嫁が行方不明になった!!」って言ってて、余裕があるんだなとは思ったけど、
「どうしよう………もし、澪に何かあったら……」
と、最悪の想像をしていた優馬を見て、本当に慌てているんだと分かった。
でも、一緒に探すと言うと、
「大丈夫、先行っててくれ!」
それだけ残して、暗闇の中に消えていった。
「………未来斗……」
「……とりあえず探すのは優馬に任せて、俺達は早く行ってこの事を報告しよう。」
いつもよりも声のトーンを下げて、真面目な顔でそう言った。
「………分かった。」
ーーー
「早く報告しないと……言いたくなかったんだけど、ここって……でるんだよ。」
……でる?
「お墓があるのもそのうちのひとつだけど、昔ここで崖から落ちて長時間生死をさまよったけど、駄目だったっていう……高校生の、男の霊がさ。」
……っ!
「俺が聞いた話だと、そいつは一度生死をさまよった人間をあの世に連れていくんだって。」
……そう聞くと、澪がその男に連れていかれた、という感じに聞こえる。
それについて深く考えると、澪は昔、死にそうになったことがあったっということになる。
考えていた、その時。
「はぁ、は……」
「大丈夫…?澪。」
!
走ってきたのかかなり息切れしていたが、そこにはちゃんと、彼がいた。
「良かったー!無事だったんだな!」
「わっ…え、何……?」
安心していきなり抱きついてきた未来斗に一瞬澪は驚いていたけど、何となく理解したのか「大丈夫だよ」と少し背伸びをして頭を撫でてた。
なんか、微笑ましい……。
とりあえず、澪が無事で良かった。
「……あ、ていうか郁人と莉音は?」
ーーー
(莉音side)
「よし、とりあえずこれで全部のコースのスタンプは押せたね。」
「うん!早く戻ろ?」
初めは少し怖かったけど、幽霊なんかいなかったし、桜木とはふたりきりだったし最高だった……!
また来れるかな……
しばらく歩きながら話していると、
「莉音、今日は楽しかった?」
……楽しかった、か。
すごく楽しかった、皆と仲良くもなれたし、こうやって好きな人とふたりきりでいれたし。
「うん、すごく楽しかった!もっと早くに皆と仲良くなれてればよかったな~」
なんて笑いながら話すと、桜木は少し寂しそうに微笑んだ。
「それなら良かった、確かに、2年生の時も6人でいれてたらよかったのにね。」
その言葉が嘘だということは、すぐに気が付いた。
桜木は、嘘をつく時はわざとらしく目を逸らすこと、ボクは知ってる。
「………でもね莉音、僕達、2年生の頃は少し大変だったんだよ。」
「…?何かあったの?」
桜木は隠すことなく、全部教えてくれた。
昔からずっと澪が好きだったこと、気持ちが忘れられなくて転校までしたこと、優馬に嫉妬していること。
本当に全部。嘘なんかついてなかった。
「引いた?」
「……そんなことある訳ないじゃん。」
ボクだって同じ。
好きな人のためなら手段を問わない。
それなのに、自分を捨てて相手が幸せになれる道を選ぶ。
似たもの同士だ。
「ボクね、最初はすごく驚いたんだ。ボクが男なのにこんな格好してるから、気持ち悪がられるんじゃないかって。」
でも、皆は本当に優しかった。
すんなり受け止めてくれた事に、最初はすごく驚いたけど、
「皆、ほんとに優しい人だよ。ボク、皆のこと好きになったもん。」
海斗も未来斗も、澪も優馬も。
皆、大好きになった。
「莉音に友達が出来て良かった。」
「なんかそれ、ボクが友達の出来ないぼっちに聞こえる!」
ーーー
(澪side)
「あ、おかえりー、郁人、莉音。」
「「ただいま!」」
「……あ、スタンプ全部集めたんだ!俺達すっかり忘れてたな…」
「あ、ほんとだ。忘れてた。」
未来斗と海斗は忘れてたみたい。
「僕達もすっかり忘れてたね。」
「まあ、仕方ないよな……」
なんか、本来の目的を果たせてないような……
でもまぁ、生きてるだけ幸せ、か。
『……君も一度は生死をさまよった。』
………
なんで「そのこと」を、あいつは知ってた?
それにその話は、大分昔の忘れてしまいたい過去。
生死をさまよった…少し違う気もするけど、確かに僕はあの日、殺されそうになった。
「あの人」を庇って、「あの人」に助けられて。
「あの人」に思ってしまったあの言葉が、忘れたくても忘れられない。
(━━が━ねばいい)
………
「思い出させる、な……」
「ん?どうしたの、澪。」
…!
優馬に声をかけられて、我に返る。
「う、ううん…!メロンパン食べたいなって!」
必死に誤魔化して、下手に笑ってみせる。
そんな嘘に、優馬は普通に騙されていた。
「そ、そうだよな……食べたいよな、明日!明日買ってやるから…!」
……まぁ、いいや。
この事は、あそこまで頼っていた幼なじみの2人にも話してない。
僕だけが隠してる、最低な秘密。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説

王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

笑わない風紀委員長
馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。
が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。
そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め──
※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。
※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。
※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。
※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

隊長さんとボク
ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。
エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。
そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。
王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。
きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。
えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

もういいや
ちゃんちゃん
BL
急遽、有名で偏差値がバカ高い高校に編入した時雨 薊。兄である柊樹とともに編入したが……
まぁ……巻き込まれるよね!主人公だもん!
しかも男子校かよ………
ーーーーーーーー
亀更新です☆期待しないでください☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる