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1章 一学期。
19.昔のこと
しおりを挟む「それでさ、その時海斗が思いっきり転んでーー」
「……」
「…澪、大丈夫?」
明らかに様子がおかしい。
「……あ、ごめん。」
「ううん、熱は大丈夫?」
「………だい、じょうぶ。」
そうは言っても、不安しかない……
(聞いて、いいのかな…)
「あのさ……」
「何…?」
毎日、どんな夢を見ているのか。
聞こうとした…、次の瞬間。
「お粥出来たよ~」
タイミング悪く、郁人が入ってきた。
「お粥…!!食べたい」
「ちょっと待って、わけるから。」
「あ、ちょ………」
「何味?」
「メロンパン味だよ~」
「っ…」
2人のほのぼのした雰囲気に、とても聞く勇気が出なかった。
むしろ、お粥がどんどん美味しそうに見えてきて……
「俺も食べ、たい」
「……別にいいけど。」
そのほのぼのした空気に、完全に巻き込まれた。
「メロンパン味美味しい」
(…一体何入れたらお粥がメロンパン味になるんだろう。)
そう思いながらわけられたお粥を、一口食べると、
「っ、あ"ぁ"ぁぁ"ぁッッ ! ! !」
めちゃめちゃ辛かった……
「な、なんで!?なんかめっちゃ辛い……」
「唐辛子沢山入れたからね、優馬のだけに。」
「もはや嫌がらせじゃねーか!!」
「いや、お前何さりげなく病人の食べ物食おうとしてんだよ〇すぞ この童貞が」
「いや童貞は関係ないから!!」
そんな感じで、ついいつもの雰囲気になっちゃって、
結局何も聞けなかった。
ーーー
(莉音side)
まだどこか幼げがあって、優しかった父。
お母さんが21、お父さんが17の時に、僕は産まれた。
あの頃のことなんて全く覚えてもいないけど、
「高校は中退しなさい。」
「まだ貴方は高校生なのよ?」
でも、いつからかそんな言い争いが
「……はぁ、お前は勘当だ。」
「あんた、未成年の子に何してるのよ!!」
聞こえるようになって
「……莉音と一緒に3人で、新しいところで暮らしましょう。」
「そう、だな。」
生まれてから間もなくして、僕は産まれた街を出る事になった。
初めこそ、楽しい生活だった。
お金なんてなくて贅沢も言えない。
それでも、暖かい家庭で。
学校から帰るとエプロンを着た母が髪をハーフアップにして、料理を作っていて、
「もうすぐ出来るから、手洗ってきてね。」
なんて、ぼくを見て笑ってくれた。
本当に……幸せ、だった。
でも、ある日突然。
「あなた!!何勝手なこと言ってるのよ!」
「…っ!」
隣の部屋で眠っていたぼくでも咄嗟に目が覚めた。
優しくて穏やかな母の、初めての怒鳴り声。
「き、聞いてくれよ真耶(まや)……その仕事、結構給料が多くて………」
「だからって何で……執事がやりたいなんて、馬鹿なこと言わないでよ!!」
……?
怖くて怖くてたまらなかった。
けど、段々襲ってくる眠気に勝つことが出来ず、気が付けば眠りに落ちていた。
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