20 / 260
1章 一学期。
17.あの人は
しおりを挟む手を洗って、言われた通りリビングに向かった。
リビングには父さんだけがいて、何やら険しい顔をしていた。
(……なんなんだろう。)
緊迫した空気の中で、父が座っている向かいのソファに腰掛ける。
「話って、何………」
父は、少しだけ顔を上げた。
「お前が転校する前にお前についていた執事、覚えているだろう。」
……それは。
「葉月さんの事ですか?」
俺が今の学校に転校してきた日の前日。
それまで、俺には執事がいた。
けど、あの人は……
「そうだ。刹那が、昨日彼の姿を見たと言っていた。」
……えっ
「母さんが……?」
「ああ、彼はどういう訳か失踪してしまっていたが、昨日、あるアパートの一室にいる事が分かった。」
葉月さんが……
彼とはあまり付き合いは長くなかったけど、優しくていい人で、俺は大好きだった。
中学の時にいじめられて病んでいた俺にも、葉月さんは励ましてくれた。
(もしいるのなら、会いたい………)
そして話したい。
どうしていなくなったのか。
「葉月君が失踪したのは……お前が転校してきた翌日。」
確かその日は、転校初日から友達が出来て舞い上がってたせいか、葉月さんに沢山話してしまったんだ。
そしたら、葉月さんに「××××という名前の方はいませんでしたか?」って聞かれて………
でも、一体誰の名前を聞かれたんだっけ……
それより……
「葉月さんは、どこにいるんですか?」
「確か、〇〇っていう所だったような……」
……あれ、それって。
「郁人が住んでるアパートじゃ………」
(郁人side)
「楽しかったね~」
「うん、ロッペリア、また行こ。」
「うん……わっ!」
部屋に向かっていると、急に扉が開いて危うくぶつかりそうになった。
「…あ、ごめん、ちょうど桜木さんの部屋に行こうと思ってて、ちょうど良かったよ。」
「……え?あ、ありがとうございます。」
出てきたのはお隣さんでこの前チョコをくれた人だった。
「で、でも悪いですよ……チョコだって貰ったのに。」
渡された紙袋には、今度は美味しそうなクッキーが入っていた。
「……美味しそう。」
「み、澪…!」
「はは、気に入ってくれるといいんだけど、良かったら友達とでも食べて。」
そう言って、お隣さんは部屋に戻っていった。
「……莉音の事、よろしくね。」
最後に、聞こえないように小声で何かを残して。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説


息の仕方を教えてよ。
15
BL
コポコポ、コポコポ。
海の中から空を見上げる。
ああ、やっと終わるんだと思っていた。
人間は酸素がないと生きていけないのに、どうしてか僕はこの海の中にいる方が苦しくない。
そうか、もしかしたら僕は人魚だったのかもしれない。
いや、人魚なんて大それたものではなくただの魚?
そんなことを沈みながら考えていた。
そしてそのまま目を閉じる。
次に目が覚めた時、そこはふわふわのベッドの上だった。
話自体は書き終えています。
12日まで一日一話短いですが更新されます。
ぎゅっと詰め込んでしまったので駆け足です。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる