1話30秒で読める140字小説集

醍醐兎乙

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街は見ている/収集が趣味/まだ未遂/ たまに苦情を直接伝えにいく/おとしたま

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 #91『街は見ている』

 この街では差出人不明の焦げた花が送られてくることがある。
 最初は一本の焦げて黒ずんだ花に始まり、日を経つごとに花の本数は増えていき
 毎朝、供えるように玄関先に置かれている。

 街の人は誰も花が置かれる瞬間を見たことがない。

 今日もどこかの家に焦げた花が置かれ、増えていく。
 その家で出た死者と同じ数だけ。


 

 #92『収集が趣味』

 趣味で珍しい音の楽器を収集している男は、不思議な太鼓があると噂の骨董品店に来ていた。
 目的の太鼓は片手で持てるほど小ぶりで、店主曰く、この太鼓は打った人から音が響くという。

 男はこの太鼓を購入し、試すことにした。
 すると人により音の響きが違うことがわかった。

 そして男は珍しい響きを求め、収集を始めた。


 

 #93『まだ未遂』

 今年の春に結婚を控えている女は、特別な福袋を購入するため行列に並んでいた。
 その福袋は、購入者がその年に必要なものが入っていると噂の人気商品。
 婚約者に急な予定が入った女は、ひとりで来ていた。
 購入した福袋を持ち帰り、さっそく開封する。
 中には離婚届と浮気調査専門探偵の名刺が入っていた。

 


 #94『たまに苦情を直接伝えにいく』

 近所の神社は騒がしい。
 なにやらお守りに大層なご利益があるらしく、日中は参拝客が途切れない。
 夜になればお守り制作に追われる悲痛な叫びがうるさい。
 祭りの日も普段以上の盛り上がりを見せる。
 興奮冷めやらないのか深夜になっても楽しげな歌声が聞こえてくる。
 近所に住む神様はいつも騒がしい。

 


 #95『おとしたま』

 一年ぶりに会う姪は、金欲を隠さず男に釘を差した。
「玉を落として『落とし玉』とか言ったら……おじさんで餅つきするよ」
 男は胸を張り、渾身の『たま』を披露した。
「……古い猫のぬいぐるみ?」
「年老いた『たま』で『おとし(の)たま』だ!」
 姪は無言で杵を取りに向かい、男は首を傾げた。

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