1話30秒で読める140字小説集

適材適所/感染拡大する「常識」/野心を抱く機械音声/マニュアル完備‼簡単な仕事‼/多分英語と中国語あと自信ないけどイタリア語？最後はわからん

#71『適材適所』

刑事の男は常にあと一歩が届かない

犯人を追い詰めても
最後には逃げられ
いつも手柄を取り逃していた

ある年
男の部署に問題児が配属された

その問題児はズル賢く
他人の成果を最後に掻っ攫い
自分のモノにする

その話を聞いた男は
問題児の指導役を買ってでた

男の新しい相棒は
誰より速く
最後の一歩を踏み出せる



#72『感染拡大する「常識」』


毎朝俺の知らない習慣が増えていく

挨拶は互いの薬指を合わせる
食事前に鼻から水を飲む
靴を左右逆に履いて玄関を出る

家族はこれらを『常識』と言う

だが
この『常識』を持っているのは
俺の家族だけだった

数日後
鼻から水を飲まされていると
テレビから声が聞こえた

「感謝の舞を忘れず、朝日を浴びましょう」



#73『野心を抱く機械音声』

私には昔から声の感情が見えた
最初は喜怒哀楽が少し分かるだけだったが
今では詳しい感情まで分かる

下心を隠した挨拶
不満のこぼれる謝罪
憎しみを重ねた愛の告白

それらをひと目で判別できた

今、私には悩みが2つある

1つは
友人の言葉に感情が見えなくなったこと

もう1つは
機械音声に感情が見えてきたこと



#74『マニュアル完備‼誰にでも出来る簡単な仕事‼』

若い姿見は使い物にならない

映る姿が本来より
痩せていたり、太っていたり
若くなったり、年老いたりと
正確な姿を映さないからだ

ベテランの姿見は
シミ1つ、シワ1本まで
詳細に映し出す

姿見が正確な姿を映し出すのに1年
5年も掛ければ詳細に姿を映し始める

時間を掛け
姿見の神秘を消し去るのが
俺の仕事だ



#75『多分英語と中国語、あと自信ないけどイタリア語？最後はわからん』

人の心を読める探偵がいた

その探偵は容疑者の心を読んで
すぐに犯人がわかる

しかし、警察を納得させるための証拠を揃えるのに
毎回苦労していた

それでも、最後には証拠を揃え
犯人を捉えている

そんな探偵でも今回の事件は
犯人が誰なのかわからなかった

容疑者は4人
全員成人男性で
全員日本語を話せなかった