怪異に襲われる

醍醐兎乙

文字の大きさ
上 下
16 / 17
迷子放送 全二話

迷子放送 前編

しおりを挟む

 男は大学のオカルト研究会で会長をしている。
 今調べているのは、閉園になった遊園地で深夜、流れる迷子放送について。
 その迷子放送で名を呼ばれると他人に認識されなくなり、見つけてもらえないとそのまま消えてしまうという都市伝説。
 最近、実際にその廃墟遊園地に肝試しに行った学生が、一人行方不明になるという事件が起きていた。

 男は行方不明になった学生と一緒に肝試しに行き、帰ってこれた学生に話を聞きにいったり。
 遊園地が閉園になった原因を調べ、他に被害者がいないか探したりと精力的に調査を進めていく。
 未知への恐怖と関心、なにより超常現象への強い憧れが、男を突き動かす原動力になっていた。

 調査の結果わかったのは、遊園地の閉園理由は経営不振が理由で不審な点はなく、他の被害者は見つけることが出来なかった。
 役に立ちそうな情報は、肝試しから帰って来れた学生の証言。

 その学生が言うには、肝試し中に友人とはぐれて一人でいると、いきなりチャイム音が園内に響き渡り、自分の名を呼ぶ迷子放送が流れ始めたという。
 その遊園地の都市伝説を知っていた学生は、その放送でパニックになり「迷子なのは俺じゃない!」と叫び、そのまま逃げ出したそうだ。
 それからしばらく出入り口で友人を待とうとしたようだが、再び鳴り響いたチャイム音に耐えられず先に一人で帰ったらしい。


 これ以上の情報は、実際に廃遊園地を調べるほかないと男に気合が入る。
 しかし男以外のオカルト研究会のメンバーは、この廃遊園地に近づくことをみんな嫌がった。
 実際に被害者の出ている場所なだけに、男もみんなが嫌がる理由は理解ができた。
 それでも男はこの都市伝説には、『迷子役』と『見つけ役』が必要だと、考えていた。
 そのため男は、強引に説得し下級生を連れ出すことに決めた。
 
 そして下級生の説得を続けること数日。
 深夜、男はオカルト研究会の下級生三人と例の廃墟遊園地に来ていた。
 男性が一人に、女性が二人。
 この三人は高校からの友人らしい。
 他のオカルト研究会のメンバーはこの三人の三角関係を楽しんでいるそうだ。


 下級生三人には決まったルートで園内を探索してもらい、三人がどうしても耐えれない場合は探索を中止することを条件にして、廃遊園地まで来てもらうことができた。
 それに加え、女性二人には、深夜の廃遊園地での吊り橋効果を唆した。
 そして、元々この場所に来るのを拒んでいたメンバーを都市伝説の検証のために無理やり連れているため、自分が『迷子役』として単独行動を取ると決めていた。
 三人にも説明を済ませ、もし男の名で迷子放送が流れたときは、事前に決めた待ち合わせ場所に集合することにした。
 
 廃墟遊園地の都市伝説に怯える三人は、早く済ませたいのか、女性二人で挟み込むように寄り添い合い、早足に移動を始める。
 その三人の姿に男は、若干の申し訳無さを感じたが、自身の好奇心に敵うものではなかった。
 そもそも、オカルト研究会の一員である以上、オカルトスポットデートを楽しんでいる部分もあるだろうと思い、男の中から申し訳無さは消え去っていた。
 三人を見送ったあと、男は三人とは反対の方向に一人で歩き出す。
 
 深夜の廃墟遊園地は灯りがなく、用意していた懐中電灯の光が暗闇を切り裂いていく。
 僅かな光で照らし出されるのは、錆びて朽ち果てたアトラクション、ひび割れ雑草の生い茂った通路、原型がわからないほど崩れたマスコットキャラクター。
 園内は物音一つせず、なんの気配も感じることが出来ない。
 その中で男はふと、世界に一人取り残されたかのような孤独感に襲われた。
 頭を振り、孤独感を振り払おうとする男に、耳障りな短いノイズ音が届く。
 そして園内にチャイム音が鳴り響き、迷子放送が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熾ーおこりー

ようさん
ホラー
【第8回ホラー・ミステリー小説大賞参加予定作品(リライト)】  幕末一の剣客集団、新撰組。  疾風怒濤の時代、徳川幕府への忠誠を頑なに貫き時に鉄の掟の下同志の粛清も辞さない戦闘派治安組織として、倒幕派から庶民にまで恐れられた。  組織の転機となった初代局長・芹澤鴨暗殺事件を、原田左之助の視点で描く。  志と名誉のためなら死をも厭わず、やがて新政府軍との絶望的な戦争に飲み込まれていった彼らを蝕む闇とはーー ※史実をヒントにしたフィクション(心理ホラー)です 【登場人物】(ネタバレを含みます) 原田左之助(二三歳) 伊代松山藩出身で槍の名手。新撰組隊士(試衛館派) 芹澤鴨(三七歳) 新撰組筆頭局長。文武両道の北辰一刀流師範。刀を抜くまでもない戦闘の際には鉄製の軍扇を武器とする。水戸派のリーダー。 沖田総司(二一歳) 江戸出身。新撰組隊士の中では最年少だが剣の腕前は五本の指に入る(試衛館派) 山南敬助(二七歳) 仙台藩出身。土方と共に新撰組副長を務める。温厚な調整役(試衛館派) 土方歳三(二八歳)武州出身。新撰組副長。冷静沈着で自分にも他人にも厳しい。試衛館の弟子筆頭で一本気な男だが、策士の一面も(試衛館派) 近藤勇(二九歳) 新撰組局長。土方とは同郷。江戸に上り天然理心流の名門道場・試衛館を継ぐ。 井上源三郎(三四歳) 新撰組では一番年長の隊士。近藤とは先代の兄弟弟子にあたり、唯一の相談役でもある。 新見錦 芹沢の腹心。頭脳派で水戸派のブレインでもある 平山五郎 芹澤の腹心。直情的な男(水戸派) 平間(水戸派) 野口(水戸派) (画像・速水御舟「炎舞」部分)

【短編】怖い話のけいじばん【体験談】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。 スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。

ラヴィ

山根利広
ホラー
男子高校生が不審死を遂げた。 現場から同じクラスの女子生徒のものと思しきペンが見つかる。 そして、解剖中の男子の遺体が突如消失してしまう。 捜査官の遠井マリナは、この事件の現場検証を行う中、奇妙な点に気づく。 「七年前にわたしが体験した出来事と酷似している——」 マリナは、まるで過去をなぞらえたような一連の展開に違和感を覚える。 そして、七年前同じように死んだクラスメイトの存在を思い出す。 だがそれは、連環する狂気の一端にすぎなかった……。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

パラサイト/ブランク

羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

フリー声劇台本〜1万文字以内短編〜

摩訶子
大衆娯楽
ボイコネのみで公開していた声劇台本をこちらにも随時上げていきます。 ご利用の際には必ず「シナリオのご利用について」をお読み頂ますようよろしくお願いいたしますm(*_ _)m

処理中です...