8 / 17
足を引っ張る 全六話
足を引っ張る 五話
しおりを挟む
男は今まで経験したことのない、肌を刺す鋭い冷気によって目が覚めた。
体にまとわりつく空気は重く澱んで、生臭い。
肺が受け入れを拒否しているのか、うまく息を吸うことができず、呼吸が浅くなる。
なにが起きているのか、服の裾で口を覆い、男は四つん這いになりながら周囲を見回した。
男の視界は黒一色。
光のない漆黒の空間に、男はいた。
男は暗闇に平衡感覚を狂わされながら、ゆっくりと立ち上がる。
(ここは何処だ……また、意識のないうちに移動したのか?)
口元を押さえる服の裾、手触りから高校時代の体操服だとわかる。
(理由はわからないけど意識を失っていても、外に出るときはいつも着替えていた)
ならなぜ、と自問していると。
男は体に、震えがないことに気がついた。
あれほど自身を狂わせていた、『アルコールへの欲求』を今はまるで感じない。
最初から『そんなもの』を持っていなかったと思うほど、今の男は精神が安定していた。
もし、『なにか』が男の『アルコールへの欲求』を消し去ったのなら。
その『なにか』は男に『アルコールへの欲求』を植え付けたのではないか、と気がついた。
そもそも、自分の体はアルコールに弱く、誕生日の二日酔いがトラウマになっている。
そんな自分が『なにか』に操られるように、アルコールで精神を溶かし、意識を失っていた。
そして、意識がない間に『なにを』したのか。
いや、『なにを』させられたのか。
男の中で想像が繋がっていく。
操られるように意識を失い『なにか』をさせられていた自分。
目覚めるのはいつも、小さな石碑の前。
消えた小鳥のさえずり。
数を減らしていく猫。
親睦会の翌日、発見された変死体。
周囲から目立たぬように、部屋着から私服への着替え。
考え込む男を、言葉にできない不快感が、包みこんでいく。
男の背後、暗闇の先から物音と小さな唸り声が、男の耳に届いた。
口元を覆うのも忘れ、飛び上がり、男も物音を立てる。
その音に警戒したのか、唸り声は聞こえなくなった。
(なにか……いる)
ズボンのポケットに手をいれる。
指に当たるのは柔らかい布地の感触と、携帯電話。
普段通りの硬質的な手触りに、少しの安心を覚えた。
そのまま携帯電話を取り出し、電源をつけ、物音のした方に光を向けた。
携帯電話の薄い光に照らされて、男のいる空間がぼんやりと輪郭を見せる。
広さは学校の教室ほどで窓や扉は見当たらない。
天井は高く、届きそうにない。
男がいるのは密閉された部屋のようだった。
目を凝らし、物音のした方を見る。
部屋の隅になにかが積まれ、見上げるほどの山がそこにはあった。
物音は積まれたなにかが、崩れた音のようだ。
他になにかないか、男は周囲をぐるりと僅かな光源で照らして確認した。
体にまとわりつく空気は重く澱んで、生臭い。
肺が受け入れを拒否しているのか、うまく息を吸うことができず、呼吸が浅くなる。
なにが起きているのか、服の裾で口を覆い、男は四つん這いになりながら周囲を見回した。
男の視界は黒一色。
光のない漆黒の空間に、男はいた。
男は暗闇に平衡感覚を狂わされながら、ゆっくりと立ち上がる。
(ここは何処だ……また、意識のないうちに移動したのか?)
口元を押さえる服の裾、手触りから高校時代の体操服だとわかる。
(理由はわからないけど意識を失っていても、外に出るときはいつも着替えていた)
ならなぜ、と自問していると。
男は体に、震えがないことに気がついた。
あれほど自身を狂わせていた、『アルコールへの欲求』を今はまるで感じない。
最初から『そんなもの』を持っていなかったと思うほど、今の男は精神が安定していた。
もし、『なにか』が男の『アルコールへの欲求』を消し去ったのなら。
その『なにか』は男に『アルコールへの欲求』を植え付けたのではないか、と気がついた。
そもそも、自分の体はアルコールに弱く、誕生日の二日酔いがトラウマになっている。
そんな自分が『なにか』に操られるように、アルコールで精神を溶かし、意識を失っていた。
そして、意識がない間に『なにを』したのか。
いや、『なにを』させられたのか。
男の中で想像が繋がっていく。
操られるように意識を失い『なにか』をさせられていた自分。
目覚めるのはいつも、小さな石碑の前。
消えた小鳥のさえずり。
数を減らしていく猫。
親睦会の翌日、発見された変死体。
周囲から目立たぬように、部屋着から私服への着替え。
考え込む男を、言葉にできない不快感が、包みこんでいく。
男の背後、暗闇の先から物音と小さな唸り声が、男の耳に届いた。
口元を覆うのも忘れ、飛び上がり、男も物音を立てる。
その音に警戒したのか、唸り声は聞こえなくなった。
(なにか……いる)
ズボンのポケットに手をいれる。
指に当たるのは柔らかい布地の感触と、携帯電話。
普段通りの硬質的な手触りに、少しの安心を覚えた。
そのまま携帯電話を取り出し、電源をつけ、物音のした方に光を向けた。
携帯電話の薄い光に照らされて、男のいる空間がぼんやりと輪郭を見せる。
広さは学校の教室ほどで窓や扉は見当たらない。
天井は高く、届きそうにない。
男がいるのは密閉された部屋のようだった。
目を凝らし、物音のした方を見る。
部屋の隅になにかが積まれ、見上げるほどの山がそこにはあった。
物音は積まれたなにかが、崩れた音のようだ。
他になにかないか、男は周囲をぐるりと僅かな光源で照らして確認した。
4
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
熾ーおこりー
ようさん
ホラー
【第8回ホラー・ミステリー小説大賞参加予定作品(リライト)】
幕末一の剣客集団、新撰組。
疾風怒濤の時代、徳川幕府への忠誠を頑なに貫き時に鉄の掟の下同志の粛清も辞さない戦闘派治安組織として、倒幕派から庶民にまで恐れられた。
組織の転機となった初代局長・芹澤鴨暗殺事件を、原田左之助の視点で描く。
志と名誉のためなら死をも厭わず、やがて新政府軍との絶望的な戦争に飲み込まれていった彼らを蝕む闇とはーー
※史実をヒントにしたフィクション(心理ホラー)です
【登場人物】(ネタバレを含みます)
原田左之助(二三歳) 伊代松山藩出身で槍の名手。新撰組隊士(試衛館派)
芹澤鴨(三七歳) 新撰組筆頭局長。文武両道の北辰一刀流師範。刀を抜くまでもない戦闘の際には鉄製の軍扇を武器とする。水戸派のリーダー。
沖田総司(二一歳) 江戸出身。新撰組隊士の中では最年少だが剣の腕前は五本の指に入る(試衛館派)
山南敬助(二七歳) 仙台藩出身。土方と共に新撰組副長を務める。温厚な調整役(試衛館派)
土方歳三(二八歳)武州出身。新撰組副長。冷静沈着で自分にも他人にも厳しい。試衛館の弟子筆頭で一本気な男だが、策士の一面も(試衛館派)
近藤勇(二九歳) 新撰組局長。土方とは同郷。江戸に上り天然理心流の名門道場・試衛館を継ぐ。
井上源三郎(三四歳) 新撰組では一番年長の隊士。近藤とは先代の兄弟弟子にあたり、唯一の相談役でもある。
新見錦 芹沢の腹心。頭脳派で水戸派のブレインでもある
平山五郎 芹澤の腹心。直情的な男(水戸派)
平間(水戸派)
野口(水戸派)
(画像・速水御舟「炎舞」部分)
【短編】怖い話のけいじばん【体験談】
松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。
スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。
ラヴィ
山根利広
ホラー
男子高校生が不審死を遂げた。
現場から同じクラスの女子生徒のものと思しきペンが見つかる。
そして、解剖中の男子の遺体が突如消失してしまう。
捜査官の遠井マリナは、この事件の現場検証を行う中、奇妙な点に気づく。
「七年前にわたしが体験した出来事と酷似している——」
マリナは、まるで過去をなぞらえたような一連の展開に違和感を覚える。
そして、七年前同じように死んだクラスメイトの存在を思い出す。
だがそれは、連環する狂気の一端にすぎなかった……。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
パラサイト/ブランク
羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
フリー声劇台本〜1万文字以内短編〜
摩訶子
大衆娯楽
ボイコネのみで公開していた声劇台本をこちらにも随時上げていきます。
ご利用の際には必ず「シナリオのご利用について」をお読み頂ますようよろしくお願いいたしますm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる