眠っていた魔力紙を折紙みたいに折ったら、新しい魔法の使い方が出来たので、役立てます。

ゆう

文字の大きさ
上 下
115 / 182
熊族の町ベイエル

もうひとつの家族

しおりを挟む
 オルガが目覚めると、見慣れない部屋の天井に、まばたきを繰り返した。
 ココはどこだ…。
 視線を横に向けると、アレイがイスに座り、ベッドにうつ伏せになって眠っていた。
 あれっ…?
 何があったんだっけ…。
 オルガは思い返してみた。
 そうだ、今日はアレイと一緒に魚釣りにマロイ湖に行って、釣れなくて帰ろうとしたら三つ眼の獣に襲われて、木の上に逃げたんだった…。
 そして僕は魔力切れで、意識を失った…。

 あの時は必死で何も考えず、魔力を全開に使って飛び上がってしまった…。
 『クルーラ』ではないのだから、魔力は少なくても良いのだが、もう一人一緒に飛ぶとなると、どれだけの魔力を使うのか分からなかったので、加減なしに使った。
 アレイに「逃げるぞ!」って言われて、走って逃げるにしても、訓練をしていたから、なんとか足が動いたけれど、そうでなければきっと、恐怖に震えて立ち尽くしていた…。
 思い出しただけで、身体がブルリと震える…。
 慣れたくはないが、『クルーラ』の外に出ると言うことは、こう言う危険も付いて回るのだと、改めて認識した。
 時々、外に出て、恐怖に打ち勝たないと、きっと『クルーラ』の外では生活できない…。
 今はまだ、『お出かけ』だけれど、いつか、外の世界も見てみたい…。
 そのためにも、日頃の訓練は大事なんだな…と、つくづく思った。
 そう言えば、シュウベルさんが居たような気がしたけれど、気のせいだったのだろうか…。
 予定では、今日の昼過ぎにはベイエルに到着するはず…。
 明日には、『クルーラ』に帰るのだから…。
 せっかくの最終日だったのに…。
 オルガは、ガックリとして大きなタメ息を付いた。

 そのタメ息に反応して、アレイがピクリと動き、ガバリと身体を起こして、涙目で僕を見た。
「良かった…目が覚めた…」
 オルガは苦笑いする。
「心配かけて、ごめんね」
 慌てて魔力を使いすぎた、僕の失態だ…。
 今度から気を付けないと…。
「お腹空いただろ。昼飯持ってくるから!」
 アレイはそう言って、部屋を飛び出して行った。
 オルガはゆっくりと身体を起こし、なんとも言えない気だるさと頭痛に、頭を押さえた。
 初期の魔力酔いだ…。
 だが、これくらいなら、しばらくすれば収まる…。

 アレイが持ってきてくれた野菜とハムを挟んだパンとスープを食べながら、オルガが意識を失ってからの事を聞いた。
 救援が来て、三つ眼の獣は討伐され、ベイエルに帰ってこれたのだと…。
 それで魔力を使いすぎたオルガに、シュウベルさんが『魔力譲渡』をしてくれたから、直ぐに目覚められたのだと。
 そして『明日、待っている』と伝言を受け取った。
 きっと、まだ、今日と言う時間は有るから、ベイエルでの『お出かけ』を満喫しろ、と、言う意味だろう。
 だから予定通り、明日の『クルーラ』に帰る獣馬車に乗る前に、シュウベルさんは顔を出さないでいるのだろう…。
 そうだね。
 まだ、時間は有る。
 歩き回る体力はないから、アレイの家に帰って、のんびりとライカとライクと遊ぶのも、良いかもしれない…。
 アラカさんが手配してくれた、個人馬車に乗ってオルガとアレイは家へと帰って行った。



 アレイの家にたどり着くと、レイラさんとラスエルさんが出迎えてくれ、涙眼の二人に、アレイとオルガは、交互にギュッて抱き締められた。
 心配をかけてしまった…。
「「ただいま」」
 オルガとアレイは微笑んで言った。
 無事に帰って来れて良かった。
 ベイエルの僕の、もうひとつの家族のもとへ…。
 その様子を見ていたライカとライクが、僕達を挟むように、足に抱きついて、ギュッてしてきた。
 かわいい…。
 僕がライカの頭を撫でてあげると、アレイもライクの頭を撫で回していた。
 無事に帰って来たのだと、実感した。


 今回の事で思ったのは、今まで僕は、戦闘から逃げる事ばかりを考えて、魔法や体力作りなどの訓練をしてきた。
 だけど、一人とは限らないのだと思った。
 今回は、アレイと一緒だったから、お互いに出来ることをやって、逃げきって救援を呼ぶことが出来た。
 けれど、これが五歳のライカやライクだったら…。
 僕が守らないと、いけないと…。
 逃げるだけでなく、守りながら逃げる。
 この手の届く範囲で、守りたいもの守りながら、争いから、戦闘から一緒逃げれる方法を見つけていこう。
 …そう思った。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...