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熊族の町ベイエル

魔力譲渡 ~シュウベル~

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「さてと、『魔力譲渡』でオルガの意識を戻すか…」
「「…。」」
 アレイと、話を聞きに来ていた警備隊員が目を見開き、シュウベルを見る。
「うん?」
 俺、なんか変なことを言った?


「ちょ、ちょっと待って下さい!」
 隊員が慌てて言う。
「『魔力譲渡』が出来るのですか?」
「ああ。オルガにだったら出来るぞ」
 『魔力譲渡』は相手に自分の魔力を渡すこと。
 全ての人に出来るわけではないが、色々と条件を満たせば、出来ないことも無い…。
「待って下さい。アラカさんに伝えてきます!」
 そう言って隊員は、慌てて医務室を出ていった。
「…『魔力譲渡』をすれば、オルガは意識を取り戻すの?」
 アレイが聞いてくる。
「ああ」
「僕には出来ない?」
「今のお前では無理だな。色々と条件があるし、魔力が少なすぎる。もし『魔力譲渡』が出来ても、お前が倒れるぞ」
「…。」
 アレイは悔しそうにうつ向く。
「俺が『魔力譲渡』出きるのは、数人しかいない。たまたま、オルガに出来るだけだ」
 シュウベルはそう言って首を傾げた。
 たまたま、ではない…。
 ヒナキさんが、何か有った場合のため、俺をベイエルに向かわせたのだから…。
 過保護だ…。

「おい。『魔力譲渡』が本当に出きるのか?」
 隊員に呼ばれたアラカさんが、医務室に入ってくる。
「ああ。オルガにだったら出来るぞ」
「少し待ってくれ。医療関係者を連れてくる!」
「何で?」
「『魔力譲渡』の原理はわかっていても、使いこなせていないんだ。実際に見せた方が良い」
「ああ、なるほど…」
 『魔力譲渡』は、簡単に使いこなせるわけではない…。
 魔力の流れが見えて、魔力の相性が良い相手にしか、譲渡出来ない。
 俺の場合、オルガが『クルーラ』に来てから、体力作りの指導をしていて、お互いの魔力を知っているのもあるし、俺の側に人族のチトセがいて、魔力の波長が合うと言うのも有るだろう…。
 そんな話をしていると、アレイのお腹が『グ~ッ』と音が鳴った。
「あっ…」
 アレイは頬を染めて言う。
「…オルガが大丈夫だって分かったら、お腹の虫が…」
 そう言えば、昼過ぎだ。
 ベイエルにたどり着いたのが昼前だったから、あれから、かなり時間が過ぎている。
 慌ててココに来たから、俺も昼を食べていない…。
「この近くに飯屋は有るか?」

 
 アレイとシュウベルは別室で、アラカが手配してくれた昼食を食べ、医療関係者が到着するのを待った。
 その間にも、『魔力譲渡』に興味を持った、熊族の隊員が声をかけてくる。
 …何度も同じことを説明しているので、そろそろ最後にして欲しい…。
 『魔力譲渡』の説明に疲れてきた頃、アラカが呼んだ医療関係者が到着した。
 詰所の窓から外を覗くと、シュウベルは顔を歪めた。
 ちょっと人数、多くないか…。
 馬車が二台到着し、中から降りてきたのが十人…。
 両方で二十人だ。
 一台の馬車に乗っていたのは、白い制服を来た人達。
 方片方の馬車は、ローブを羽織った人達…。
 部署が違うのかもしれない…。

 シュウベルが医務室のベッドに眠るオルガの元にやって来ると、アレイがイスに座って心配そうに側にいた。
 シュウベルはアレイの頭を撫でて微笑む。
「心配するな」
 そう言うと、アレイはコクりと頷いた。
 そこへ、アラカが到着した人達を連れてきた。
「多くないか?」
「これでも減らしたんだ…」
 アラカは苦笑いして言う。
「『魔力譲渡』をしながら、どういう状況か説明もしてくれるか?」
 まあ、『魔力譲渡』を使えるようにするための、見本の魔法だからな…。
「構わないが、静かにして欲しい」
 シュウベルがそう言うと、皆、口を閉じて医務室の中に入ってくる。
 かなりギュウギュウ詰めだ。
 全員が入ったところで、視線が集まる。
 さて、さっさとオルガを目覚めさせるか…。


 シュウベルは、ベッドで眠るオルガのお腹辺りに右手を軽く乗せ、自分の魔力を集める。
 そして説明した。
 この魔法は、俺とオルガの魔力の波長と相性が良いから出来ることであって、誰にでも『魔力譲渡』が出来るわけではない。と、説明する。
 そして、オルガの魔力の断片にシュウベルの魔力を少しづつ混ぜ込んで、ゆっくりとオルガの身体に魔力が行き渡るのを見る。
 目安は身体全体が薄く魔力の光を帯びる事…。
 全身に魔力を送る道が出来たら、少しづつ与える魔力量を増やしながら身体に異変がないか見極め、身体が活動するための最低限度の魔力を与える。
 だいたい二、三割程度だ。
 後は自然回復してもらった方が、魔力酔いにならない。
 多く魔力を与えすぎると、他人の魔力と自分の魔力が混じって馴染まず、気持ち悪くなるのだ。
 シュウベルは譲渡する魔力をゆっくりと止め、様子を見る。
 …どうだ。
 オルガの目蓋がピクピクと動きゆっくりと目を開ける。
 視線はぼんやりとしているが、意識は無事に戻って来たようだ。
「少し眠れ。明日は『クルーラ』に帰るんだろ」
 シュウベルがそう言うと、オルガはゆっくりと目を閉じ、寝息をたてて眠り始めた。
 ホッとして、息を吐く。
 『魔力譲渡』を始めて十分くらいの出来事だ。
 
 シュウベルが振り向くと、部屋の中にいた人達が目を丸くして、オルガとシュウベルを交互に見る。
 悲しいが、この後の展開が見えた…。
 えっと…俺、帰って良いですか?


 その後、部屋を移動して、シュウベルは、彼らに質問責めにされ、ぐったりとしてしまった。
 シュウベルは、まだ眠るオルガをアレイに任せて、獣馬のニケと共に正門の馬車乗り場へ戻った。
 明日の朝の出発の為、積み荷を乗せなくではいけないのだ。
 積荷を下ろすのは、誰かに手伝ってもらっただろうが、御者が一人で作業しただろうから、乗せるのくらい手伝わなくては悪いだろう…。
 夕方には『魔力譲渡』した魔力が馴染んで、オルガは動けるようになるだろうし、またしばらく友人達と会えないのだから、今日はのんびりと過ごすだろう…。

 そして、オルガには伝言を残してある。
「明日、待っている」と…。



◇◇◇◇◇

 ~シュウベル~はココまです。
 オルガに戻ります。



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