82 / 182
森の聖域
訓練場 2
しおりを挟む
金属が断続的に当たる音に、オルガの意識が覚醒した。
あれっ…ここは…。
目を開けて、ゆっくりと身体を起こして思い出す。
そうだ。
訓練場で寝てしまったんだ。
身体には、小さなタオルが掛けられていた。
もしかして、シュウベルさんが掛けてくれたのだろうか…。
金属音がする方を見ると、広場の中央で、シュウベルさんと狼族の人が、剣だけの模擬戦をおこなっていた。
剣がぶつかり合う音だったんだ…。
模擬戦をしている二人の回りを、十人ほどが囲って、囃し立てるように何か叫んでいる。
休みだと、体力が有り余っている『青の館』の人達って感じだ…。
オルガは、模擬戦をぼ~っと見る。
シュウベルさんて、強いんだ…。
彼が戦っているところを見るのは初めてだ。
いつも、めんどくさそうに、しているのに、言われた仕事はきちんとこなす。
もしくは率先して、言われた事以上の仕事をしてくれている、真面目なのか不真面目なのか、よく分からない人だ。
でも、僕の鍛練に付き合ってくれるんだから、誠実なのだろ。
「また、模擬戦をしているんだ」
そう言って、僕の側に来たのはチトセさん。
『クルーラ』の入口の小屋の門番をしていて、僕と同じ人族の『迷い人』。
今日はこれから鍛練のためか、身軽な服装をしている。
いつもの門番の時の制服とは違って、見慣れないからか、変な感じ…。
「飽きないな…」
そう言って僕の隣にチトセさんが座る。
「チトセさんは、これから鍛練?」
「そうだよ。担当者はあそこで剣を振り回しているけど」
そう言ってチトセさんは苦笑いする。
ソレって、シュウベルさんの事かも…。
オルガはふと、気になった事を口にする。
「そう言えば、チトセさんは『青の館』に住んでいるんだよね?」
ほとんどの人族は『白の館』か、一戸建ての住宅地に暮らしている。
とにかく食生活が違いすぎるからだ。
だから、チトセさんが肉食中心の『青の館』にいるのが不思議だった。
「まあ、いろいろ有ってね…」
チトセさんはそう言って微笑む。
聞いてはいけない事だったのだろうか…。
「…模擬戦、終わりそうにないし、知りたかったら話すよ」
ちょっと知りたい。
チトセさんも、突然森の中にいたのだろうか…。
なかなか二人で話す機会はないのだ。
だったら、僕の経緯も…。
チトセさん、門番だから知っているか…。
でも…。
「僕は、気が付いたら森にいた。歩き回っていた僕を、リーンさんが見つけてくれたから、『クルーラ』に来れた。それで『白の館』に住むようになったけれど…」
オルガがそう話すと、チトセさんが苦笑いして話し出す。
「僕はちょっと違うな」
チトセさんは、『クルーラ』にどうやって来て、『青の館』に住むようになったかを教えてくれた。
チトセさんも、気が付いたら森の中にいたけれど、風が気持ちよくて、そのまま昼寝をしていたそうだ。
危機感、無さすぎ…。
人の声に目が覚めて、目の前にいたのは獣人達で、町に行くから連れていってくれると言ったので、付いていったのだが、夜中、寝ている時に、彼らが僕を町に連れていって、売ろうとしている話を聞いて、逃げようと思ったそうだ。
売ろうとしているって…。
オルガは青ざめた。
もし、あの時に、リーンさんに拾われなければ、僕もどうなっていたか、分からない…。
翌日の夜、用足しをすると、その場を離れて、来た道を戻り、来る途中に見た、木の大きな隙間に入って隠れたそうだ。
…すごい。
逃げて隠れるなんて勇気ある…。
それでそのまま眠ってしまい、翌朝、『クルーラ』の警備隊に見つけられ、保護されたそうだ。
その頃、『クルーラ』の宿はそれほど大きくなく、満室だったので、空きのあった『青の館』に連れていかれ、そのまま住むようになったとか…。
そうなんだ。
「今さら『白の館』で住むのも何だか変だし、『青の館』に慣れてしまったしね」
チトセさんは清々しくそう言う。
「そうそう。今、オルガ君が鍛練しているメニューは、昔、僕がこなしてたモノだよ」
「そうなんだ」
昔、チトセさんが鍛練していたメニュー…。
「獣人達は体力有りすぎるから、今の量に減らすのにどれだけ苦労したか…」
あっ…分かる。
獣人族に比べたら、人族の体力はない。
今の量でも、へとへとなのに…。
「未だに練習量を増やそうとしているから、なるべく阻止するね」
「…よろしくお願いします」
もう、これ以上増やさないで…。
チトセさんは、模擬戦が終わったシュウベルさんに連れていかれ、訓練場の回りを走り始めた。
一緒にシュウベルさんも走ってる…。
模擬戦、終わったばっかりなのに、まだ体力あるみたい…。
僕は大きなタメ息をついて、一眠りして少し回復した身体を重たげに引きずりながら、訓練場を後にした。
あれっ…ここは…。
目を開けて、ゆっくりと身体を起こして思い出す。
そうだ。
訓練場で寝てしまったんだ。
身体には、小さなタオルが掛けられていた。
もしかして、シュウベルさんが掛けてくれたのだろうか…。
金属音がする方を見ると、広場の中央で、シュウベルさんと狼族の人が、剣だけの模擬戦をおこなっていた。
剣がぶつかり合う音だったんだ…。
模擬戦をしている二人の回りを、十人ほどが囲って、囃し立てるように何か叫んでいる。
休みだと、体力が有り余っている『青の館』の人達って感じだ…。
オルガは、模擬戦をぼ~っと見る。
シュウベルさんて、強いんだ…。
彼が戦っているところを見るのは初めてだ。
いつも、めんどくさそうに、しているのに、言われた仕事はきちんとこなす。
もしくは率先して、言われた事以上の仕事をしてくれている、真面目なのか不真面目なのか、よく分からない人だ。
でも、僕の鍛練に付き合ってくれるんだから、誠実なのだろ。
「また、模擬戦をしているんだ」
そう言って、僕の側に来たのはチトセさん。
『クルーラ』の入口の小屋の門番をしていて、僕と同じ人族の『迷い人』。
今日はこれから鍛練のためか、身軽な服装をしている。
いつもの門番の時の制服とは違って、見慣れないからか、変な感じ…。
「飽きないな…」
そう言って僕の隣にチトセさんが座る。
「チトセさんは、これから鍛練?」
「そうだよ。担当者はあそこで剣を振り回しているけど」
そう言ってチトセさんは苦笑いする。
ソレって、シュウベルさんの事かも…。
オルガはふと、気になった事を口にする。
「そう言えば、チトセさんは『青の館』に住んでいるんだよね?」
ほとんどの人族は『白の館』か、一戸建ての住宅地に暮らしている。
とにかく食生活が違いすぎるからだ。
だから、チトセさんが肉食中心の『青の館』にいるのが不思議だった。
「まあ、いろいろ有ってね…」
チトセさんはそう言って微笑む。
聞いてはいけない事だったのだろうか…。
「…模擬戦、終わりそうにないし、知りたかったら話すよ」
ちょっと知りたい。
チトセさんも、突然森の中にいたのだろうか…。
なかなか二人で話す機会はないのだ。
だったら、僕の経緯も…。
チトセさん、門番だから知っているか…。
でも…。
「僕は、気が付いたら森にいた。歩き回っていた僕を、リーンさんが見つけてくれたから、『クルーラ』に来れた。それで『白の館』に住むようになったけれど…」
オルガがそう話すと、チトセさんが苦笑いして話し出す。
「僕はちょっと違うな」
チトセさんは、『クルーラ』にどうやって来て、『青の館』に住むようになったかを教えてくれた。
チトセさんも、気が付いたら森の中にいたけれど、風が気持ちよくて、そのまま昼寝をしていたそうだ。
危機感、無さすぎ…。
人の声に目が覚めて、目の前にいたのは獣人達で、町に行くから連れていってくれると言ったので、付いていったのだが、夜中、寝ている時に、彼らが僕を町に連れていって、売ろうとしている話を聞いて、逃げようと思ったそうだ。
売ろうとしているって…。
オルガは青ざめた。
もし、あの時に、リーンさんに拾われなければ、僕もどうなっていたか、分からない…。
翌日の夜、用足しをすると、その場を離れて、来た道を戻り、来る途中に見た、木の大きな隙間に入って隠れたそうだ。
…すごい。
逃げて隠れるなんて勇気ある…。
それでそのまま眠ってしまい、翌朝、『クルーラ』の警備隊に見つけられ、保護されたそうだ。
その頃、『クルーラ』の宿はそれほど大きくなく、満室だったので、空きのあった『青の館』に連れていかれ、そのまま住むようになったとか…。
そうなんだ。
「今さら『白の館』で住むのも何だか変だし、『青の館』に慣れてしまったしね」
チトセさんは清々しくそう言う。
「そうそう。今、オルガ君が鍛練しているメニューは、昔、僕がこなしてたモノだよ」
「そうなんだ」
昔、チトセさんが鍛練していたメニュー…。
「獣人達は体力有りすぎるから、今の量に減らすのにどれだけ苦労したか…」
あっ…分かる。
獣人族に比べたら、人族の体力はない。
今の量でも、へとへとなのに…。
「未だに練習量を増やそうとしているから、なるべく阻止するね」
「…よろしくお願いします」
もう、これ以上増やさないで…。
チトセさんは、模擬戦が終わったシュウベルさんに連れていかれ、訓練場の回りを走り始めた。
一緒にシュウベルさんも走ってる…。
模擬戦、終わったばっかりなのに、まだ体力あるみたい…。
僕は大きなタメ息をついて、一眠りして少し回復した身体を重たげに引きずりながら、訓練場を後にした。
5
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる