眠っていた魔力紙を折紙みたいに折ったら、新しい魔法の使い方が出来たので、役立てます。

ゆう

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森の聖域

『世界樹』のユグ

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 ザッと強い風が吹いて、巨木の回りに集まると、むき出しの根に、青年が座っていた。

 さっきまで誰もいなかったのに…。
 若草色の髪の毛の、深い緑色の瞳…。
 不思議な雰囲気をかもし出している。
 ヒナキさんと同じくらいの年だろうか…。
 あっ、ヒナキさんの外見と同じくらいの年齢…だな…。
「ユグ」
 ヒナキさんが声を掛けて、巨木の側にいる青年に近づき、紹介してくれた。
「オルガ。この木の木霊モクレイ、『世界樹』のユグだ。『聖域』『クルーラ』周辺の…」
 ヒナキさんがそう言い掛けると、ユグさんが立ち上がって、ヒナキさんの背後から抱き付いて来た。
 突然の事にバランスを崩したヒナキさんが、ユグさんを背中に乗せてフラフラと倒れそうになる。
「…重い」
 ヒナキさんのソノ一言で、ユグさんはヒナキさんの背中から降り、僕の方を見る。
 深い緑色の瞳…。
 観察するような視線を感じる…。
 …見覚えが有ると思ったら、リーンさんの瞳によく似ているんだ…。
 『世界樹』は、大地に溜まりすぎた魔力を根から吸収して、葉から放出し、この辺一体の魔力濃度を上げる、魔力の循環を担う大木の一つだと聞いていたけれど…。
 宿っている司る者は、なんか思っていたのと、違う…。
 なんだろう…。
 もっと威厳の有る感じを想像していたけれど…。
「…この子が新しい住人?」
「は、初めまして。オルガです」
 オルガは少し緊張しながら名前を名乗ると、ユグさんが僕に近付いて来て、僕をジロジロ見ながら周りを一周して、ヒナキさんのもとに戻る。
「魔素に馴染んでるね…」
「そうでなければ、連れてこないぞ」
「しばらくココにいる?」
「果樹園を案内したら『クルーラ』へ戻る。初めてココに来たんだ。体調の変化が心配だ」
「…そう」
 寂しそうに呟くユグ。
 うん?
 ヒナキさんとユグさんの関係って、何か不思議…。
 『世界樹』の木霊モクレイと、『クルーラ』の村長と言うよりは、仲の良い兄弟?親子?のような感じがする…。
 不思議…。
「また後で来るから、おとなしくしてろ」
 ヒナキさんがそう言うと、ユグさんはちょっとムッとした顔をして、それと同時に強い風が吹いて姿を消した。
「…。」
 ほんの数分のやり取りに、茫然としてしまった。
 エッと、『世界樹』のユグさんに、挨拶に来たんだよね…?
 名乗りはしたけれど、コレで良いの?
 不安に思ってヒナキさんの方を見ると、大きなタメ息を付いていた。
「挨拶は済んだし、果樹園に行こうか」
 ヒナキさんにそう言われて、僕は頷いた。

 でも、ちょっと気になるアノ家と、不思議な形をした置物…。
 ヒナキさんにソノ話をすると、微笑んで教えてくれた。
 やっぱり家は、リーンさんの家で、入り口に登録されていない人は入れないのだと言う…。
 そして家の側に有るのは、木霊モクレイ風霊フウレイ達の遊び場なのだと教えてくれた。
 まだ、僕は見たことのない司る者達…。
 いつか見れるようになるかな…。

 
 ヒナキさんと二人で、『世界樹』から『クルーラ』の出入り口の方に向かって草原の中を歩き始めた。
 さっきは、木陰に沿って歩いていたけれど、今度は時々、木があるだけ…。
 けれど、向かう先の視界に緑ではなく、赤や黄色の色が点在して、木に付いているのが見えてきた。
 場所的に言うと、『クルーラ』からトンネルを抜けて、左側…。
 歩いて来た方向の逆側だ。
「あそこが果樹園だ」
 近付くに連れて、たくさんの木にいろんな実がぶら下がっている…。
 ココは『クルーラ』が管理して、採取して持って帰り、ドライフルーツや保存食に加工したりしているのだという。
 『クルーラ』に有る、果物屋さんに置いてあるのも、ココの果物なのだとか…。
 『聖域』の作物は、魔力を多く含み、食べるだけで魔力の回復を助けるため、『クルーラ』の外から来る人達が、多く欲しがるのだと言う。
 もうすぐ収穫の時期になるので、僕にも手伝ってほしいのだとか。
「うん!収穫、手伝うよ!」
 果実は果物屋さんに並んでいるのしか見たことがない。
 今、目の前に有る木に成っているのは、赤いリンゴだよね。
 アップルパイに入ってる…。
 ほかの、いろんな果実がどんな風に成っているのか見てみたい。
「よろしくな」
 ヒナキさんはそう言って微笑んだ。


 僕が初めて『聖域』に入ったので、体調の変化が起こる可能性が有るからと、早々に僕達は『クルーラ』へ戻るため、もと来た木々のトンネルの中を歩き始めた。



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