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二人の約束 ~ジーンの初恋~(番外編)
ふわふわ
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ジーンは話し合いの場に、自分がいるのが、場違いなような気がして落ち着かなかった。
神官長候補のシノアス様と、補佐官のアミュール様、レオン叔父様に、お父様の側近ジェスさんを前にして、緊張しない人などいない。
この地に出現した『世界樹』の今後のあり方についての説明だ。
それがまさか、自分に向くとは思わなかった。
アミュール様から、『世界樹』の木霊が懐いている僕が、この地で神官になるのはどうだろう、との打診だった。
まだ見習いなので、高等科卒業迄に試験を受けて、資格を取れば、卒業と同時にこの地の任務に付くことが出きる、と言うことだった。
ジーンはその話を聞いて、戸惑った。
昨日、リーンが卒業後、どうしたいのか僕に聞いてきたのは、この事の為だったのだ。
『世界樹』の木霊フリクは可愛い。
だけど神官として、この地に来ると言うことは、いずれ表だった行事に参加しなくてはいけない…。
避けては通れない事だ。
ジーンはうつ向き、言葉に出来なかった。
自分が望む卒業後とは、かけはなれていく…。
しばらくの沈黙の後、リーンが『世界樹』のフリクが呼んでいるから、行っておいで、と言ってくれたので、席を立った。
一人で考える時間が欲しいだろうと、リーンが気を利かせてくれたのだろう。
ジーンが家を出て『世界樹』に向かうと、木の根元に一匹の狼が座り込んでいた。
昨日の狼獣人のロキさんだ。
ジーンが近付くと、頭を上げてこちらを確認し、再び頭を伏せて目を閉じていた。
ジーンはドキドキしながら狼に近付く。
あの時見た、綺麗で柔らかそうな毛並みが、風に揺られてふわふわと動いている。
「…あの…毛並み…触っても良い?」
ジーンは意を決して聞いてみると、狼は目を開けてチラリとこちらを見ると、再び目を閉じた。
触っても良いって事かな…。
ジーンは狼の側に座り、そっと手を伸ばして狼の背中を撫でる。
温かくて、ふわふわで柔らかい…。
気持ちいい…。
ジーンの顔に笑みが浮かんだ。
狼を撫でていると、さっきまでの不安やごちゃごちゃとした考えなくてはいけない事を忘れさせてくれた。
狼のしっぽがフラフラと揺れて、ジーンの身体に触れる…。
「すくぐったい…」
尻尾が何度もジーンに触れて、ジーンはなんだか楽しくなってきて、フワフワの尻尾を捕まえ、頬ずりする。
狼のロキは、ジーンのされるがままに、おとなしく沈黙している。
ジーンは警戒を解いて、狼獣人のロキだと言うことを忘れて、狼に寄りかかった。
「温かいね…」
なぜか分からないが、優しい温もりを感じた。
狼の尻尾がジーンを包むように寄り添ってくる。
すると『世界樹』からフリクが姿を表し、ジーンの腕の中に潜り込んでくる。
この温もりは癒しだ…。
「一緒にお昼寝をしようか」
ジーンはそう言って、狼姿のロキに寄りかかり、フリクを腕に抱いた。
こんなのんびりとした日が、続けば良いのに…。
***
フラりと山から下りてきたロキは、家の前に馬車が二台止まっている事に気が付き、歩みを緩めた。
昨日の話し合いの続きをするために来ているのだろう…。
御者はのんびりと馬にエサをあげたり、水を飲ませている。
ロキは狼の姿で『世界樹』の側に来ると、その場にうずくまった。
家の中に入っても、あの子がいるから俺は落ち着かない…。
俺がいなくても、『世界樹』の今後の話なら、リーンがいれば後から聞いてもかまわないだろう…。
ロキは穏やかな風が吹く中、『世界樹』の木の下で目を閉じた。
どれだけ時間が過ぎたのかわからない。
甘い匂いに気が付き目を開けると、あの子が家から出て、こちらに近付いてくる。
ロキは平静を保ちながら目を閉じた。
近付いてくれば来るほど甘い匂いが濃くなる…。
「…あの…毛並み…触っても良い?」
そう声をかけられて、ロキは目を開けてチラリと見ると、再び目を閉じた。
この子になら触らせても良い…。
側に座る気配がして、そっと手が背中を撫でる。
気持ちが良い…。
ロキの顔が、だらんと緩んだ。
誰かに撫でられて気持ちいなどと思いもしなかった。
これは番だからだろうか…。
無意識に、ロキのしっぽがフラフラと揺れて、この子の身体に触れる…。
「すくぐったい…」
そう言われて、気分が良くなって、尻尾が何度も触れて、しまいには尻尾を捕まえられ、頬ずりしてくる。
気持ち良いが、耐えろ…俺…。
ロキは、されるがままに、おとなしく沈黙して耐えていた。
警戒を解いたのか、ロキの身体に寄りかかり、重みと温もりを感じた。
俺が獣変化した姿だと、忘れているのだろう…。
「温かいね…」
穏やかな声が、ドキドキしているロキの眠気を誘う。
狼の尻尾は勝手に動いて、ジーンを包むように覆い被さっている。
すると『世界樹』から木霊が姿を表し、ジーンの腕の中に潜り込んだ。
羨ましい…。
…落ち着け…俺…。
ジーンに寄りかかられ動けないロキは、内心で葛藤しながら、ジーンの温もりを感じ取っていた。
「一緒にお昼寝をしようか」
そう言って狼姿のロキに寄りかかって来る、木霊を腕に抱いた、この子の重みを感じた。
今は、まだ早い…。
だけど、絶対に逃さない…。
俺の前に現れた、俺の番…。
神官長候補のシノアス様と、補佐官のアミュール様、レオン叔父様に、お父様の側近ジェスさんを前にして、緊張しない人などいない。
この地に出現した『世界樹』の今後のあり方についての説明だ。
それがまさか、自分に向くとは思わなかった。
アミュール様から、『世界樹』の木霊が懐いている僕が、この地で神官になるのはどうだろう、との打診だった。
まだ見習いなので、高等科卒業迄に試験を受けて、資格を取れば、卒業と同時にこの地の任務に付くことが出きる、と言うことだった。
ジーンはその話を聞いて、戸惑った。
昨日、リーンが卒業後、どうしたいのか僕に聞いてきたのは、この事の為だったのだ。
『世界樹』の木霊フリクは可愛い。
だけど神官として、この地に来ると言うことは、いずれ表だった行事に参加しなくてはいけない…。
避けては通れない事だ。
ジーンはうつ向き、言葉に出来なかった。
自分が望む卒業後とは、かけはなれていく…。
しばらくの沈黙の後、リーンが『世界樹』のフリクが呼んでいるから、行っておいで、と言ってくれたので、席を立った。
一人で考える時間が欲しいだろうと、リーンが気を利かせてくれたのだろう。
ジーンが家を出て『世界樹』に向かうと、木の根元に一匹の狼が座り込んでいた。
昨日の狼獣人のロキさんだ。
ジーンが近付くと、頭を上げてこちらを確認し、再び頭を伏せて目を閉じていた。
ジーンはドキドキしながら狼に近付く。
あの時見た、綺麗で柔らかそうな毛並みが、風に揺られてふわふわと動いている。
「…あの…毛並み…触っても良い?」
ジーンは意を決して聞いてみると、狼は目を開けてチラリとこちらを見ると、再び目を閉じた。
触っても良いって事かな…。
ジーンは狼の側に座り、そっと手を伸ばして狼の背中を撫でる。
温かくて、ふわふわで柔らかい…。
気持ちいい…。
ジーンの顔に笑みが浮かんだ。
狼を撫でていると、さっきまでの不安やごちゃごちゃとした考えなくてはいけない事を忘れさせてくれた。
狼のしっぽがフラフラと揺れて、ジーンの身体に触れる…。
「すくぐったい…」
尻尾が何度もジーンに触れて、ジーンはなんだか楽しくなってきて、フワフワの尻尾を捕まえ、頬ずりする。
狼のロキは、ジーンのされるがままに、おとなしく沈黙している。
ジーンは警戒を解いて、狼獣人のロキだと言うことを忘れて、狼に寄りかかった。
「温かいね…」
なぜか分からないが、優しい温もりを感じた。
狼の尻尾がジーンを包むように寄り添ってくる。
すると『世界樹』からフリクが姿を表し、ジーンの腕の中に潜り込んでくる。
この温もりは癒しだ…。
「一緒にお昼寝をしようか」
ジーンはそう言って、狼姿のロキに寄りかかり、フリクを腕に抱いた。
こんなのんびりとした日が、続けば良いのに…。
***
フラりと山から下りてきたロキは、家の前に馬車が二台止まっている事に気が付き、歩みを緩めた。
昨日の話し合いの続きをするために来ているのだろう…。
御者はのんびりと馬にエサをあげたり、水を飲ませている。
ロキは狼の姿で『世界樹』の側に来ると、その場にうずくまった。
家の中に入っても、あの子がいるから俺は落ち着かない…。
俺がいなくても、『世界樹』の今後の話なら、リーンがいれば後から聞いてもかまわないだろう…。
ロキは穏やかな風が吹く中、『世界樹』の木の下で目を閉じた。
どれだけ時間が過ぎたのかわからない。
甘い匂いに気が付き目を開けると、あの子が家から出て、こちらに近付いてくる。
ロキは平静を保ちながら目を閉じた。
近付いてくれば来るほど甘い匂いが濃くなる…。
「…あの…毛並み…触っても良い?」
そう声をかけられて、ロキは目を開けてチラリと見ると、再び目を閉じた。
この子になら触らせても良い…。
側に座る気配がして、そっと手が背中を撫でる。
気持ちが良い…。
ロキの顔が、だらんと緩んだ。
誰かに撫でられて気持ちいなどと思いもしなかった。
これは番だからだろうか…。
無意識に、ロキのしっぽがフラフラと揺れて、この子の身体に触れる…。
「すくぐったい…」
そう言われて、気分が良くなって、尻尾が何度も触れて、しまいには尻尾を捕まえられ、頬ずりしてくる。
気持ち良いが、耐えろ…俺…。
ロキは、されるがままに、おとなしく沈黙して耐えていた。
警戒を解いたのか、ロキの身体に寄りかかり、重みと温もりを感じた。
俺が獣変化した姿だと、忘れているのだろう…。
「温かいね…」
穏やかな声が、ドキドキしているロキの眠気を誘う。
狼の尻尾は勝手に動いて、ジーンを包むように覆い被さっている。
すると『世界樹』から木霊が姿を表し、ジーンの腕の中に潜り込んだ。
羨ましい…。
…落ち着け…俺…。
ジーンに寄りかかられ動けないロキは、内心で葛藤しながら、ジーンの温もりを感じ取っていた。
「一緒にお昼寝をしようか」
そう言って狼姿のロキに寄りかかって来る、木霊を腕に抱いた、この子の重みを感じた。
今は、まだ早い…。
だけど、絶対に逃さない…。
俺の前に現れた、俺の番…。
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