神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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二人の約束 ~ジーンの初恋~(番外編)

大人達の思惑

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 翌日。
 昨日と同じくらいの昼過ぎ、領主の馬車と神殿の馬車が再び『世界樹』の元にやってきた。
 馬車から降りたジェスとアミュールは、目の下に隈を作って、顔色もあまり良くない…。
 領主側と神殿側とで、もめたのだろう…。
 シノアスは馬車から降りると『世界樹』の元に行き、祈りを捧げ、木の幹に触れると微笑んでいた。
 フリクと会話しているのかもしれない…。
 しばらくするとシノアスは、リーンとジーンの方を向いて微笑んだ。
「昨日の続きを話しましょうか」

 家の中に入り、神殿側のシノアスとアミュール、護衛のレオン王子、領主の一族ジェス、リーンと神官見習いでありリーンの息子のジーンが座った。
 ジーンは居心地が悪そうにしていたが、今後のジーンの生活にかかってくる…。
 神殿側から提示されたのは、リーンが言った通り、建物は『世界樹』が見える山間の端に作る事になり、『転移』を数回使って建物を送って来るそうだ。
 それなら、騒がしくないし、数日で神殿が完成する。
 この辺一帯の結界は、今はシノアスが仮で作っているが、『世界樹』の横にある結界石を使って大きく展開する予定だそうだ。
 村人や狼獣人達には、事前に登録さえしておけば、自由に出入り出きるよう配慮してくれ、悪意の有る者を排除する、神殿独自の結界を作るらしい。
 神殿の人員に関しては、後日派遣してくれるそうだ。
 それで、『世界樹』の木霊が懐いているジーンがこの地で神官になるのはどうだろう、との打診だった。
 まだ見習いなので、高等科卒業迄に試験を受けて、資格を取れば、卒業と同時にこの地の任務に付くことが出きる、と言うことだそうだが…。
 ジーンはその話を聞いて、戸惑っていた。
 直ぐに答えは出ないだろう…。
 しばらくの沈黙の後、リーンはジーンに『世界樹』のフリクが呼んでいるから、行っておいで、と言って席を外させた。
 このまま一緒に話し合いの場にいても、ジーンの卒業後の選択肢がひとつ増えて、考えがまとまらないだろうから…。
 それに…『世界樹』の元にロキが来ている。
 会合をしていると気が付いて、家の中に入って来なかったのだろう…。
 ジーンが席を外すと、ジェスに今後の領主の方の意向を聞いた。
「彼の選択によります。もし、神官としてこの地にとどまってくれるのならば、ヤマツカ町の方に王族としての御屋敷が準備されます。…この間のマーク君の言っていた屋敷です」
 そうだった。
 領主の方に献上して、主を新しく決めて、マークが管理する事になる、イワニおばさんの屋敷の事…。
 屋敷の主に、王族のジーンがなれば、イワニおばさんの親族も反論出来ないだろう…。
 外堀が埋まっていくぞ、ジーン。
 リーンは苦笑いした。
 アミュールが追加で説明してくる。
「ヤマツカ町にも小さな神殿は有りますので、ココはそちらの管轄にはなりますが、『世界樹』の出現で、いずれこちらが、主となります。その頃までに、ジーン様がココの神官長となっていれば、タミネキ村もヤマツカ町も発展します」
 いずれ…の事だけど、ジーンの気持ちとは裏腹に、話が進んでいく…。
「ジーンの希望は静かに暮らしたい。だそうだけど…」
「そこは王族なのだから、避けては通れないだろう」
 レオン王子が、身を持って経験しているのだろう…。
 実感がこもっている…。
「そうだよね…」
 リーンは苦笑いすると、シノアスは微笑んで言う。
「これは彼が、神官になることを選んだら…の、我々の理想ですけどね」
 それが一番、収まりが良くて、マークの屋敷の件も収拾がつく…。
 それに、ロキの為にも、ジーンがこの地にいてくれた方が良いのだろうが…。
「もし彼が選ばなくても、通常通り神官を派遣して、いずれ『世界樹』が有る、この地が主となります。…木霊との意志疎通が少し心配では有りますが…」
 シノアスはそう言って、アミュールを見る。
「ジーン様がこの地にとどまることを、神殿としては願います」
「…そうだよね…」
 ジーンのやりたい事…。
 リーンは昨日のジーンとの話を思い出していた。
「…特別な薬草をココで育てても良いのかな…」
「この地が神殿の管轄になるので、畑を作って、薬草を育てても問題ないかと…。こちらとしても、希少な薬草を育てられれば、治療薬として使えるので有りがたいです」
 ひとつ条件は突破した。
「…神殿の本は、ココでも読めるよね…」
「はい。新しい神殿に、資料室や図書室を作って、複写された本を貯蔵すればいつでも読めますし、特定の『転移魔法陣』を神殿に貼り付ければ、いつでもシンラの神殿に来れます」
 ジーンにとっては、最高のおもてなしだ。
 だが、行き来できると言うことは、行事ごとの参加は免れないだろう…。
「ジーンしだいか…」
 リーンは深いため息をついた。



 
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