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二人の約束 ~ジーンの初恋~(番外編)
タミネキ村へ
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ジーンが目覚めると、まだ薄暗い明け方だった。
「お腹空いた…」
『転移』の魔法陣を使う前に食事をしただけなので、あれから半日以上過ぎている。
ジーンはベッドから身体を起こし、薄暗い部屋の明かりをつけた。
シンプルな部屋のテーブルに、飲み物の入ったビンとコップ、大きな皿に蓋がされている物が置かれていたので開けてみると、食事が準備されていた。
いつ目覚めるか分からなかったので、用意しておいてくれたのだろう。
ジーンは椅子に座り、空腹を満たした。
それから部屋を観察して、シャワールームが付いているのを見つけると、ジーンは荷物の中から着替えを取り出し、久しぶりのシャワーを浴びた。
まだ朝方なので静まり返っているが、使用人達が動き出したのか、窓から館の奥の方で人が行き来しているのが見える。
少し明るくなってきて、ジーンは部屋の窓から見える庭園が気になって、部屋をこっそりと出た。
本当は勝手に行っては行けないのだろうが、ジーンには小さな木霊達が見えてしまったのだ。
庭園に足を踏み入れると、朝露に濡れた木々の葉がキラキラと輝いて、バラの花が色付いて、ゆっくりと明るくなり全貌が見えてくると感嘆の声を上げた。
「…綺麗だ…」
ココはバラ園になっていたのだ。
いろんな大きさのバラの花、色数もたくさん有り、手のひらサイズくらいの木霊達が、花に溜まった朝露を集めている。
こんな光景は始めてみる。
ジーンは邪魔しないように少し離れて様子を伺う。
どこからか透明なビンを持ってきて、木霊の二人がビンを両側から持って、もう二人が花に溜まった朝露をそっとビンの口から中に注いでいく…。
あれって、何に使うのだろう…。
薬草や植物を専門にするジーンにとっては興味深いものだった。
身体の小さい木霊達は、ビン一杯になると、蓋を閉めて、二人でどこかに運んでいった。
後を追いかけても良いのだが、許可も無く庭園に降りて来ているので、後で面等な事になるのが嫌だったジーンは見送った。
ジーンは、所々でお仕事している木霊の邪魔にならないように、その光景を見て楽しみ、疲れを癒した。
すっかり明るくなって、そろそろ部屋に戻らないとと思い部屋に向かうと、ジーンに用意された部屋の前で、アミュール様が待ち構えていて、睨み付けられた。
…怒ってる…。
「…お、おはようございます…アミュール様…」
「…ジーン様。おはようございます。分かってますね」
…はい。
その後、部屋に入り、アミュール様から小一時間、朝食の準備が出来たと呼びに来られるまで、説教された。
…勝手に部屋を出て、庭園を散策した僕が悪い…。
今日は、タミネキ村へ向かう。
早めの昼食を食べて、馬車での移動だ。
領主の馬車にジェスさん。
僕達が乗ってきた馬車にアミュール様とシノアス様と、レオン叔父様と僕…。
それに領主からの護衛が騎馬で向かう。
…場違いな気がして、肩身が狭い…。
…ジェスさんと一緒の馬車の方に乗りたかった…。
タミネキ村までは、馬車で一時間ほどでたどり着き、窓からそっと覗くと、村人達が集まっていた。
『世界樹』がある山間に向かう道には、柵が作られていて、村人以外は通さないようにしているみたいだ。
どこからか話を聞き付けた野次馬が、周囲にたむろっている。
先頭の馬車からジェスさんが降りて、柵を開けてもらうと、再び馬車は山間の奥地へと入っていった。
ココからは人がほとんどおらず、静かでカザナのお屋敷の森を思わせる。
しばらく一本道を上っていくと、家が一軒見えてきて、家の前で馬車が止まった。
前の馬車からジェスさんが降りて来て、こちらの馬車の扉を開けた。
レオン叔父様が先に降りて、シノアス様が降りると、アミュール様が降りて、最後に僕が降りた。
そしてジーンが目にしたのは、強い魔力を放つ『世界樹』。
その木の側に、黒髪のリーンの姿が見えて、思わず笑みが浮かぶと、ジーンは思い出したように慌てて口を両手で塞ぎ、隣に立つアミュールを盗み見た。
今は神官見習い…。
ジーンは再び心の中でそう唱える。
そんな中、シノアス様が、『世界樹』の側にいるリーンに向かって歩いて行き頭を下げた。
「はじめまして。神殿から参りましたシノアスと申します」
「…リーンだ」
シノアス様は頭を上げ、微笑んで『世界樹』を見上げる。
「本当に…産まれたばかりのようだ…」
「話は、領主の方から聞いてる?」
リーンがそう言うと、シノアス様はリーンの方を向いて微笑んだ。
「はい。なるべく配慮させていただきます」
「お願いします」
何の事か分からないが、昨日の、領主との話し合いの事だろう。
急にシノアス様が目を閉じ、右手の指先を額に当て何か呟くと、ふわりとした膜が広がりこの山間一帯を包んだ。
シノアス様の保護の結界だ。
勝手にこの山間に入れないよう、結界を張ったのだ。
すると急に『世界樹』から木霊が飛び出して来て、リーンの腕の中に飛び込んだ。
ジーンはその姿に目を疑った。
木霊なのに羽が生えている…。
「…大丈夫だよ。ココを守るための結界だから」
リーンは木霊の髪の毛を撫でて、落ち着かせていた。
「…すみません。…山の方から不審者が入り込もうとしている気配がしていたので…早めに結界を張り巡らさせたかったものですから」
シノアス様は申し訳なさそうにリーンに言い、リーンの腕の中の羽の生えた木霊を見ていた。
「…本当に…羽があるのですね…」
「飛べないけど、風を使えるみたい…」
「不審者は狼獣人達の事ではないよね…」
「はい。…噂を聞き付けた、人族のようです」
この山間にも、狼の獣人がいるんだ…。
そんな事を思っていると、山から狼が降りてきて、リーン達の側を横切り、ジーン達の前を横切って、家に駆け込んで行った。
今の狼…もしかして獣人…。
綺麗な毛並みだったな…。
ジーンがそんな事を思っていると、家の中から半獣人の男の人が慌てた様子で出てきた。
「リーン!リーンとよく似た魔力が…」
家の前の馬車の側にいたジーンは、その声に男の人の方を見て視線が会い、目を見開く。
キリトとは、また違う感じのカッコいい人だ。
そう思ったら、急に胸が締め付けられるような痛みを感じた。
「「つっ…!!」」
ジーンは胸を押さえてふらつき、隣にいたアミュール様に支えられて倒れ込むのを回避した。
なんだ今の…。
「ジーン?ロキ?」
遠くでリーンの呟きが聞こえた。
「お腹空いた…」
『転移』の魔法陣を使う前に食事をしただけなので、あれから半日以上過ぎている。
ジーンはベッドから身体を起こし、薄暗い部屋の明かりをつけた。
シンプルな部屋のテーブルに、飲み物の入ったビンとコップ、大きな皿に蓋がされている物が置かれていたので開けてみると、食事が準備されていた。
いつ目覚めるか分からなかったので、用意しておいてくれたのだろう。
ジーンは椅子に座り、空腹を満たした。
それから部屋を観察して、シャワールームが付いているのを見つけると、ジーンは荷物の中から着替えを取り出し、久しぶりのシャワーを浴びた。
まだ朝方なので静まり返っているが、使用人達が動き出したのか、窓から館の奥の方で人が行き来しているのが見える。
少し明るくなってきて、ジーンは部屋の窓から見える庭園が気になって、部屋をこっそりと出た。
本当は勝手に行っては行けないのだろうが、ジーンには小さな木霊達が見えてしまったのだ。
庭園に足を踏み入れると、朝露に濡れた木々の葉がキラキラと輝いて、バラの花が色付いて、ゆっくりと明るくなり全貌が見えてくると感嘆の声を上げた。
「…綺麗だ…」
ココはバラ園になっていたのだ。
いろんな大きさのバラの花、色数もたくさん有り、手のひらサイズくらいの木霊達が、花に溜まった朝露を集めている。
こんな光景は始めてみる。
ジーンは邪魔しないように少し離れて様子を伺う。
どこからか透明なビンを持ってきて、木霊の二人がビンを両側から持って、もう二人が花に溜まった朝露をそっとビンの口から中に注いでいく…。
あれって、何に使うのだろう…。
薬草や植物を専門にするジーンにとっては興味深いものだった。
身体の小さい木霊達は、ビン一杯になると、蓋を閉めて、二人でどこかに運んでいった。
後を追いかけても良いのだが、許可も無く庭園に降りて来ているので、後で面等な事になるのが嫌だったジーンは見送った。
ジーンは、所々でお仕事している木霊の邪魔にならないように、その光景を見て楽しみ、疲れを癒した。
すっかり明るくなって、そろそろ部屋に戻らないとと思い部屋に向かうと、ジーンに用意された部屋の前で、アミュール様が待ち構えていて、睨み付けられた。
…怒ってる…。
「…お、おはようございます…アミュール様…」
「…ジーン様。おはようございます。分かってますね」
…はい。
その後、部屋に入り、アミュール様から小一時間、朝食の準備が出来たと呼びに来られるまで、説教された。
…勝手に部屋を出て、庭園を散策した僕が悪い…。
今日は、タミネキ村へ向かう。
早めの昼食を食べて、馬車での移動だ。
領主の馬車にジェスさん。
僕達が乗ってきた馬車にアミュール様とシノアス様と、レオン叔父様と僕…。
それに領主からの護衛が騎馬で向かう。
…場違いな気がして、肩身が狭い…。
…ジェスさんと一緒の馬車の方に乗りたかった…。
タミネキ村までは、馬車で一時間ほどでたどり着き、窓からそっと覗くと、村人達が集まっていた。
『世界樹』がある山間に向かう道には、柵が作られていて、村人以外は通さないようにしているみたいだ。
どこからか話を聞き付けた野次馬が、周囲にたむろっている。
先頭の馬車からジェスさんが降りて、柵を開けてもらうと、再び馬車は山間の奥地へと入っていった。
ココからは人がほとんどおらず、静かでカザナのお屋敷の森を思わせる。
しばらく一本道を上っていくと、家が一軒見えてきて、家の前で馬車が止まった。
前の馬車からジェスさんが降りて来て、こちらの馬車の扉を開けた。
レオン叔父様が先に降りて、シノアス様が降りると、アミュール様が降りて、最後に僕が降りた。
そしてジーンが目にしたのは、強い魔力を放つ『世界樹』。
その木の側に、黒髪のリーンの姿が見えて、思わず笑みが浮かぶと、ジーンは思い出したように慌てて口を両手で塞ぎ、隣に立つアミュールを盗み見た。
今は神官見習い…。
ジーンは再び心の中でそう唱える。
そんな中、シノアス様が、『世界樹』の側にいるリーンに向かって歩いて行き頭を下げた。
「はじめまして。神殿から参りましたシノアスと申します」
「…リーンだ」
シノアス様は頭を上げ、微笑んで『世界樹』を見上げる。
「本当に…産まれたばかりのようだ…」
「話は、領主の方から聞いてる?」
リーンがそう言うと、シノアス様はリーンの方を向いて微笑んだ。
「はい。なるべく配慮させていただきます」
「お願いします」
何の事か分からないが、昨日の、領主との話し合いの事だろう。
急にシノアス様が目を閉じ、右手の指先を額に当て何か呟くと、ふわりとした膜が広がりこの山間一帯を包んだ。
シノアス様の保護の結界だ。
勝手にこの山間に入れないよう、結界を張ったのだ。
すると急に『世界樹』から木霊が飛び出して来て、リーンの腕の中に飛び込んだ。
ジーンはその姿に目を疑った。
木霊なのに羽が生えている…。
「…大丈夫だよ。ココを守るための結界だから」
リーンは木霊の髪の毛を撫でて、落ち着かせていた。
「…すみません。…山の方から不審者が入り込もうとしている気配がしていたので…早めに結界を張り巡らさせたかったものですから」
シノアス様は申し訳なさそうにリーンに言い、リーンの腕の中の羽の生えた木霊を見ていた。
「…本当に…羽があるのですね…」
「飛べないけど、風を使えるみたい…」
「不審者は狼獣人達の事ではないよね…」
「はい。…噂を聞き付けた、人族のようです」
この山間にも、狼の獣人がいるんだ…。
そんな事を思っていると、山から狼が降りてきて、リーン達の側を横切り、ジーン達の前を横切って、家に駆け込んで行った。
今の狼…もしかして獣人…。
綺麗な毛並みだったな…。
ジーンがそんな事を思っていると、家の中から半獣人の男の人が慌てた様子で出てきた。
「リーン!リーンとよく似た魔力が…」
家の前の馬車の側にいたジーンは、その声に男の人の方を見て視線が会い、目を見開く。
キリトとは、また違う感じのカッコいい人だ。
そう思ったら、急に胸が締め付けられるような痛みを感じた。
「「つっ…!!」」
ジーンは胸を押さえてふらつき、隣にいたアミュール様に支えられて倒れ込むのを回避した。
なんだ今の…。
「ジーン?ロキ?」
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