神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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希少種

神殿からの訪問者

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 朝早くから、昨日の画家が『世界樹』の元にやって来て、村人達と一緒に祈りを捧げ、再び絵を書き始めた。
 村人達は、描いている絵を時折覗いては、村へと帰っていった。
 
 訪問者が来たのは昼過ぎだった。
 領主が乗っていた豪華な馬車がタミネキ村から、一本道を『世界樹』に向かって進んできた。
 それも一台ではない。
 だぶん領主達が乗る馬車と、神殿からの者が乗っている馬車、それと馬に乗った護衛の二人が、こちらに向かってきた。
 フリクは多くの人が来た気配を感じ、早々に『世界樹』へと戻り、絵を描いている人は、茫然とその団体を目で追って見ている。
 リーンは『世界樹』の前で、彼らが来るのを見ていた。
 家の前で馬車が止まると、先頭の馬車からジェスが降りてきて、後方の馬車の扉を開けた。
 すると中から、体格の良い金髪の男の人が出てきて辺りを見回し、中から出てくる人に手を差し伸べた。
 あれは確か、ルークの二番目の兄、レオン王子。
 そして白銀の長い髪の毛の、神官服を着た青年が馬車から降りてきて、こちらを見た。
 面識はないが、彼がルークの言っていた、神官長候補のシノアス。
 そしてその後に、同じく白銀の髪の毛の青年が降りてきて、もう一人、小柄な少年が降りてきたのを見て、リーンは目を丸くした。
「…ジーン…」
 ジーンは神官見習いの服を着て、リーンと目が合うと嬉しそうに笑い、慌てて両手で口を押さえ、チラリと隣に立っている青年を盗み見た。
 今は神官見習いとしてココに来ているから、身内だと分からないように振る舞うのも勉強の一つ…と、言うことだろう。
 それに、レオン王子と神官長候補のシノアスと共に馬車に乗って、平然としていれる神官見習いはジーンくらいだろうし…。
 レオン王子は、ジーンの父親ルークの兄弟でもあるから面識もあり、そこまで緊張していない感じだ。
 レオン王子や回りの護衛が見守るなか、髪の毛の長い青年が『世界樹』の側にいるリーンに近付いてきて頭を下げる。
「はじめまして。神殿から参りましたシノアスと申します」
「…リーンだ」
 シノアスは頭を上げ、微笑んで『世界樹』を見上げる。
「本当に…産まれたばかりのようだ…」
 フリクを見ていないのに、『世界樹』の回りを漂う魔素を見て、判断できるとは、かなりの保有魔力者だ。
「話は、領主の方から聞いてる?」
 リーンがそう言うと、シノアスはリーンの方を向いて微笑んだ。
「はい。なるべく配慮させていただきます」
「お願いします」
 きっとシノアスは分かっているのだろう。  
 私が『森の聖域』から来ていることも、ルークのつがいであることも…。
 シノアスは目を閉じ、右手の指先を額に当て何か呟くと、彼を中心にふわりとした膜が広がりこの山間一帯を包んだ。
 保護の結界だ。
 勝手にこの山間に入れないよう、結界を張ったのだ。
 それに驚いたのか、『世界樹』からフリクが顔を出し、リーンの腕の中に飛び込んできた。
「…大丈夫だよ。ココを守るための結界だから」
 リーンはフリクの髪の毛を撫でて、落ち着かせた。
「…すみません。…どうも山の方から不審者が入り込もうとしている気配がしていたので…早めに結界を張り巡らさせたかったものですから」
 シノアスは申し訳なさそうにリーンに言い、リーンの腕の中の羽の生えた木霊であるフリクを見ていた。
「…本当に…羽があるのですね…」
「飛べないけど、風を使えるみたい…」
 そしてふと思う。
 不審者って…ロキ達の事ではないよね…。
「不審者は狼獣人達の事ではないよね…」
「はい。…噂を聞き付けた、人族のようです」
 リーンはホッとした。
 急にこの山間に入れなくなったら、ロキ達は慌てるだろう…。
 そんな事を思っていると、山から獣変化したロキが降りてきて、リーン達の側を横切り、休憩所に駆け込んで行き、慌てた様子で服に着替えて出てきた。
「リーン!リーンとよく似た魔力が…」
 そう言ったロキの視線が、休憩所の前の馬車の側にいるジーンの姿を見て止まった。
 ジーンもその声にロキの方を見て目を見開く。
「「つっ…!!」」
 二人の息を飲む声が聞こえた。
 ジーンが胸を押さえてふらつき、隣にいた青年に支えられて倒れ込むのを回避したのが見えた。
「ジーン?ロキ?」
 少し遠目に見ていたリーンには何が起こったのか分からなかった。




 
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