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希少種
療養所のスバル
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タミネキ村の療養所を営むスバルの所に、リーンはしばらく滞在していた事が有るので、二階建ての建物が見えてきて、懐かしく感じた。
最後にスバルに会ったのは、いつだったか…。
そんなことを思っている内に、療養所の前で馬車が止まった。
すると建物の中から体格の良い、短いボサボサの茶色の髪で、だらしなく白衣を着た、おじさんが出てくる。
なんとなく見覚えの有る…。
「なんだ、カムイとマークか」
馬車の御者にカムイが座っているので、マークも一緒に来たと分かっているくらい、彼らはここによく来ているのだろう。
「お客さんもいるよ」
カムイがニヤけておじさんに言う。
「お客?」
リーンは御者台の横から顔を覗かせ、おじさんを見た。
おじさんは目を丸くして硬直し、動かないでいる。
…年を重ねて渋い感じになったスバルだ…。
リーンはそこまで驚くとは思っておらず、苦笑いして声をかけた。
「久しぶりだな。スバル」
リーンの声に反応して、ノロノロとスバルが動き出す。
「…心臓が止まるかと思ったぞ…」
「そんな弱くないでしょ…」
カムイはニヤニヤと笑いながらスバルを見ると、マークが荷物を持って声をかけてきた。
「リーンさん、馬車を降りましょう。積もる話は部屋でゆっくりと」
「そうだな」
リーンは一度顔を引っ込めて、荷物を持って馬車を降りた。
カムイも御者台から中に荷台に入り、箱に入った荷物をいくつも下ろし、建物の中に運んでいく。
箱の中身は、しばらくの食料と村で使う医薬品。
療養所と言っているが、誰も療養しているわけてもなく、ほとんど宿泊施設となっていて、マーク達や狼獣人が利用する拠点となっていた。
カムイが荷物を下ろし、慣れた手付きで馬を馬小屋に納めて餌と水を与えると、リーンとマークとスバルがお茶を飲んでいる、リビングに戻って来たところで、改めて、ここに来ることになった経緯を話し始めた。
マークの屋敷の相続の話…。
羽の生えた木霊の話…。
スバルは頭を押さえて、リーンに言う。
「俺も一度だけ見た。…ジンそっくりの子供の木霊に、風霊が持つ透明の羽を持っていた。…こちらに気がつくとすぐに姿を消してしまったが…」
「…。」
ジンそっくりの子供…。
それに風霊となると、もしかして、あの時の風霊の魔力が影響して、羽が生えているのか…?
ジンと一緒に眠りについた、風霊…。
あの子は意思を持ち、自分の判断でジンと共に『宿り木』に同化した…。
「…あれは保護すべきだ」
スバルが真剣な眼差しで言う。
「…よからぬ事を考える者が現れて、昔の二の舞にしたくない…」
昔、『宿り木』が斬り倒され、この周辺一帯を守って来た魔力が尽き、『始まりの宿り木』の時と同じような事になりかけた。
だが直前で、私がジンと共に訪れていて、命の尽きかけたジンが『宿り木』を復活させるため残りの生命力を全て与え、リーンは村人と狼獣人達と共に魔力を注ぎ込み、復活させた経緯がある。
それから復活した『宿り木』はタミネキ村と狼獣人達によって守られてきた。
リーンはしばらく考え、スバルに言う。
「ロキにも連絡を取ってくれるかな。…まだ、狼獣人達のリーダーだよね」
「ああ。…その事で…リーンに報告しないとな…」
スバルは苦笑いして、照れ臭そうに言う。
「…ロキの弟…ロイと一緒に暮らしていてな…、リーンが来た時に、里へひとっ走り向かってもらった…」
「…。」
ロキの弟…。
あの頃、ロキの家には誰もいなかった。
どこか別の場所にいたのだろうか。
リーンが疑問に思っていると、スバルが経緯を説明してくれた。
「…ロイは身体が弱くて、成人しないとな言われていた。が、俺達人族と交流するようになって、この療養所で養生して、人族の薬を飲むようになって、元気になったんだ…。それで…まぁ…いろいろ有ってな…」
スバルは照れ臭そうに頭をかく。
でも、その表情は幸せそうだったのでリーンはホッとした。
何がきっかけで、未来が変わるかわからない…。
それは、リーンが一番、経験して知っている…。
「明日、ロキと合流してから会いに行こう」
リーンはそう言った。
今日は、馬車の移動で疲れているし、スバルともいろんな話をしたい。
…ああ。
…ルークの事…話してなかったから、言うとアズマ達みたいに驚くよな…。
でも保護するとなると、この地の領主だけでなく、カザンナ王国まできっと関わってくることになる…。
早めに話しておいた方が良いだろう。
リーンはマークと視線を合わせ苦笑いすると、十年間で変わった今のリーンの状況を話した。
最後にスバルに会ったのは、いつだったか…。
そんなことを思っている内に、療養所の前で馬車が止まった。
すると建物の中から体格の良い、短いボサボサの茶色の髪で、だらしなく白衣を着た、おじさんが出てくる。
なんとなく見覚えの有る…。
「なんだ、カムイとマークか」
馬車の御者にカムイが座っているので、マークも一緒に来たと分かっているくらい、彼らはここによく来ているのだろう。
「お客さんもいるよ」
カムイがニヤけておじさんに言う。
「お客?」
リーンは御者台の横から顔を覗かせ、おじさんを見た。
おじさんは目を丸くして硬直し、動かないでいる。
…年を重ねて渋い感じになったスバルだ…。
リーンはそこまで驚くとは思っておらず、苦笑いして声をかけた。
「久しぶりだな。スバル」
リーンの声に反応して、ノロノロとスバルが動き出す。
「…心臓が止まるかと思ったぞ…」
「そんな弱くないでしょ…」
カムイはニヤニヤと笑いながらスバルを見ると、マークが荷物を持って声をかけてきた。
「リーンさん、馬車を降りましょう。積もる話は部屋でゆっくりと」
「そうだな」
リーンは一度顔を引っ込めて、荷物を持って馬車を降りた。
カムイも御者台から中に荷台に入り、箱に入った荷物をいくつも下ろし、建物の中に運んでいく。
箱の中身は、しばらくの食料と村で使う医薬品。
療養所と言っているが、誰も療養しているわけてもなく、ほとんど宿泊施設となっていて、マーク達や狼獣人が利用する拠点となっていた。
カムイが荷物を下ろし、慣れた手付きで馬を馬小屋に納めて餌と水を与えると、リーンとマークとスバルがお茶を飲んでいる、リビングに戻って来たところで、改めて、ここに来ることになった経緯を話し始めた。
マークの屋敷の相続の話…。
羽の生えた木霊の話…。
スバルは頭を押さえて、リーンに言う。
「俺も一度だけ見た。…ジンそっくりの子供の木霊に、風霊が持つ透明の羽を持っていた。…こちらに気がつくとすぐに姿を消してしまったが…」
「…。」
ジンそっくりの子供…。
それに風霊となると、もしかして、あの時の風霊の魔力が影響して、羽が生えているのか…?
ジンと一緒に眠りについた、風霊…。
あの子は意思を持ち、自分の判断でジンと共に『宿り木』に同化した…。
「…あれは保護すべきだ」
スバルが真剣な眼差しで言う。
「…よからぬ事を考える者が現れて、昔の二の舞にしたくない…」
昔、『宿り木』が斬り倒され、この周辺一帯を守って来た魔力が尽き、『始まりの宿り木』の時と同じような事になりかけた。
だが直前で、私がジンと共に訪れていて、命の尽きかけたジンが『宿り木』を復活させるため残りの生命力を全て与え、リーンは村人と狼獣人達と共に魔力を注ぎ込み、復活させた経緯がある。
それから復活した『宿り木』はタミネキ村と狼獣人達によって守られてきた。
リーンはしばらく考え、スバルに言う。
「ロキにも連絡を取ってくれるかな。…まだ、狼獣人達のリーダーだよね」
「ああ。…その事で…リーンに報告しないとな…」
スバルは苦笑いして、照れ臭そうに言う。
「…ロキの弟…ロイと一緒に暮らしていてな…、リーンが来た時に、里へひとっ走り向かってもらった…」
「…。」
ロキの弟…。
あの頃、ロキの家には誰もいなかった。
どこか別の場所にいたのだろうか。
リーンが疑問に思っていると、スバルが経緯を説明してくれた。
「…ロイは身体が弱くて、成人しないとな言われていた。が、俺達人族と交流するようになって、この療養所で養生して、人族の薬を飲むようになって、元気になったんだ…。それで…まぁ…いろいろ有ってな…」
スバルは照れ臭そうに頭をかく。
でも、その表情は幸せそうだったのでリーンはホッとした。
何がきっかけで、未来が変わるかわからない…。
それは、リーンが一番、経験して知っている…。
「明日、ロキと合流してから会いに行こう」
リーンはそう言った。
今日は、馬車の移動で疲れているし、スバルともいろんな話をしたい。
…ああ。
…ルークの事…話してなかったから、言うとアズマ達みたいに驚くよな…。
でも保護するとなると、この地の領主だけでなく、カザンナ王国まできっと関わってくることになる…。
早めに話しておいた方が良いだろう。
リーンはマークと視線を合わせ苦笑いすると、十年間で変わった今のリーンの状況を話した。
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