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希少種
『桜の木』
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翌日、リーンは、リマ商会から馬車を借りて、カムイが御者になって操作し、マークと昔を思い出しながらタミネキ村へと向かった。
イワニおばさんの相続の事で、マークが狙われるかもしれないから、一旦ヤマツカ町を離れた方が良いだろうと、リマ商会のアズマとオヤジさんの意見も有り、一緒に同行することになった。
「あの頃、子獣だったカムイが御者をしてタミネキ村に向かうなんて、思いもしなかった」
リーンが馬車の荷台に乗って、揺られながらそう言うと、隣に座っていたマークも頬を染めて言う。
「僕だって、一緒に暮らし始めた子獣が大きくなって、押し倒されるとは思わなかった…」
「…俺は早く大きくなりたかった」
御者のカムイが、こちらの話を聴きながら答えてくる。
「…あの頃、自分の手が小さくて、何も出来なくて悔しかったからな…」
カムイは物思いにふけりながらボソリと呟く。
リーンがチラリとマークを見ると、マークは何の事か思い当たるのか、苦笑いしている。
二人にしかわからない何かが有ったのだろう…。
あの頃は、自分の事でいっぱいで、回りの様子まで配慮出来なかった…。
「…今、一緒に居るから良いだろ!」
マークは頬を染めてカムイを睨み付けると、マークの視線を背中に察したのか、カムイが素直に頷いた。
「…うん」
カムイはマークには素直だ。
後から聞いた話では、カムイは子獣の時からマークに目を付けていたと言っているのを聞いて、ああそれでか…と、納得した。
誘拐されて人族の町に連れてこられ、リーンとキリトで保護した子獣達を、行く宛がない子達だけグオルクに連れていく時、カムイは町に残ると言ったのだ。
なのでマークが引き取り、リマ商会の獣人族達が暮らす長屋で育てられた経緯があるのだが…。
長屋の獣人達に鍛えられ、知識を教えてもらい、今はリマ商会のマーク専属の護衛補佐になっている。
立派になったもんだ…。
リーンは、馬車に揺られながら、昨日眠ってしまって途中になってしまった話をしなくては…と、思い、マークの方を見て言う。
「…昨日、マークが言っていた、イワニおばさんの屋敷の『桜の木』の事だけど、私の知識の中には無い品種の木だった」
「…やっぱりそうなんだ…」
やはりイワニおばさんは、マークに、屋敷に有る貴重な木の話をしてあった。
「…遠い島国から持って帰ってきた。って言っていたそうだから、この大陸には無いのかもしれないけれど…」
マークの話によると、イワニおばさんの祖父に当たる方が、船で荷物を運ぶ物流の仕事をしていて、島国に立ち寄った時、咲いていた『桜』の花に一目惚れをして、そこで苗木を分けてもらったのだとか…。
ただ、長い船旅では『桜の木』の苗木が枯れてしまうからと、時間を操る収納袋を準備して、その中に入れ、さらには『桜の木』の手入れをしてくれる人物を探して、この大陸に連れてきたらしい…。
なんともすごい執念だ。
そんな貴重な『桜の木』を代々受け継いで、イワニおばさんは守って来たらしい。
『桜の木』の寿命がどれくらいかはわからないが、毎年、薄いピンク色の美しい花を咲かせて、屋敷周辺のご近所様達と、眺めて楽しむのだと…。
「…イワニおばさんの息子さん達は、興味が無いらしく、見向きもしないんだ」
「マークはその花を見た?」
「うん。すごく綺麗だった。咲いている期間は短いけれど、ヒラヒラと花びらが舞い落ちるのは見ていて飽きない…。いつまででも眺めていられる…」
マークは思い出して、うっとりとした表情をする。
「…見てみたいな」
リーンがそう言うと、マークが言う。
「春先…温かくなり始める頃だから半年後…くらいかな…」
「…『桜の木』は、増やすことは出来ないのかな?」
「僕達には知識がないし、わからないけれど…王都に行けば、島国の資料が有るかもしれないし、『桜の木』について、何か記述が有るかもしれないけれど…」
「そうだね。後でルークに聞いてみる」
王都の膨大な資料の中に、関連の本が有るかもしれない…。
いろんな話を三人でしている内に、馬車はタミネキ村へと入り、道を少し横道にそれて、スバルの療養所へと向かった。
イワニおばさんの相続の事で、マークが狙われるかもしれないから、一旦ヤマツカ町を離れた方が良いだろうと、リマ商会のアズマとオヤジさんの意見も有り、一緒に同行することになった。
「あの頃、子獣だったカムイが御者をしてタミネキ村に向かうなんて、思いもしなかった」
リーンが馬車の荷台に乗って、揺られながらそう言うと、隣に座っていたマークも頬を染めて言う。
「僕だって、一緒に暮らし始めた子獣が大きくなって、押し倒されるとは思わなかった…」
「…俺は早く大きくなりたかった」
御者のカムイが、こちらの話を聴きながら答えてくる。
「…あの頃、自分の手が小さくて、何も出来なくて悔しかったからな…」
カムイは物思いにふけりながらボソリと呟く。
リーンがチラリとマークを見ると、マークは何の事か思い当たるのか、苦笑いしている。
二人にしかわからない何かが有ったのだろう…。
あの頃は、自分の事でいっぱいで、回りの様子まで配慮出来なかった…。
「…今、一緒に居るから良いだろ!」
マークは頬を染めてカムイを睨み付けると、マークの視線を背中に察したのか、カムイが素直に頷いた。
「…うん」
カムイはマークには素直だ。
後から聞いた話では、カムイは子獣の時からマークに目を付けていたと言っているのを聞いて、ああそれでか…と、納得した。
誘拐されて人族の町に連れてこられ、リーンとキリトで保護した子獣達を、行く宛がない子達だけグオルクに連れていく時、カムイは町に残ると言ったのだ。
なのでマークが引き取り、リマ商会の獣人族達が暮らす長屋で育てられた経緯があるのだが…。
長屋の獣人達に鍛えられ、知識を教えてもらい、今はリマ商会のマーク専属の護衛補佐になっている。
立派になったもんだ…。
リーンは、馬車に揺られながら、昨日眠ってしまって途中になってしまった話をしなくては…と、思い、マークの方を見て言う。
「…昨日、マークが言っていた、イワニおばさんの屋敷の『桜の木』の事だけど、私の知識の中には無い品種の木だった」
「…やっぱりそうなんだ…」
やはりイワニおばさんは、マークに、屋敷に有る貴重な木の話をしてあった。
「…遠い島国から持って帰ってきた。って言っていたそうだから、この大陸には無いのかもしれないけれど…」
マークの話によると、イワニおばさんの祖父に当たる方が、船で荷物を運ぶ物流の仕事をしていて、島国に立ち寄った時、咲いていた『桜』の花に一目惚れをして、そこで苗木を分けてもらったのだとか…。
ただ、長い船旅では『桜の木』の苗木が枯れてしまうからと、時間を操る収納袋を準備して、その中に入れ、さらには『桜の木』の手入れをしてくれる人物を探して、この大陸に連れてきたらしい…。
なんともすごい執念だ。
そんな貴重な『桜の木』を代々受け継いで、イワニおばさんは守って来たらしい。
『桜の木』の寿命がどれくらいかはわからないが、毎年、薄いピンク色の美しい花を咲かせて、屋敷周辺のご近所様達と、眺めて楽しむのだと…。
「…イワニおばさんの息子さん達は、興味が無いらしく、見向きもしないんだ」
「マークはその花を見た?」
「うん。すごく綺麗だった。咲いている期間は短いけれど、ヒラヒラと花びらが舞い落ちるのは見ていて飽きない…。いつまででも眺めていられる…」
マークは思い出して、うっとりとした表情をする。
「…見てみたいな」
リーンがそう言うと、マークが言う。
「春先…温かくなり始める頃だから半年後…くらいかな…」
「…『桜の木』は、増やすことは出来ないのかな?」
「僕達には知識がないし、わからないけれど…王都に行けば、島国の資料が有るかもしれないし、『桜の木』について、何か記述が有るかもしれないけれど…」
「そうだね。後でルークに聞いてみる」
王都の膨大な資料の中に、関連の本が有るかもしれない…。
いろんな話を三人でしている内に、馬車はタミネキ村へと入り、道を少し横道にそれて、スバルの療養所へと向かった。
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