神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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希少種

ヤマツカ町

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 リーンは山の中を『瞬脚移動』して、ヤマツカ町に向かった。
 ここには、代々、薬草や山菜を納めて取引しているリマ商会が有る。
 かなりしばらく…十年以上、行っていなかったから、覚えていてくれるだろうか…。
 少し不安が有ったが、リマ商会には知り合いの獣人達も働いているので、そっちの長屋に行ってもいいだろう…。
 そんな事を思いながら、リーンはヤマツカ町のリマ商会に向かった。


 森の中は変わらず動物達が歩き、鳥がさえずり、木の葉がカサカサと音をたてて、優しい風を送ってくれる。
 町が近づくにつれて、所々に杭と防波堤が作られていて、土砂崩れ対策が取られ、所々に少量の土砂がたまっている。
 木の伐採により地盤の弱い場所を調査し、防波堤が作られているのだろう。
 昔、来たときには、こういったモノは一切無く、度々小規模の土砂崩れが起きていた。
 ヤマツカ町は、カザンナ王国の王都から離れた場所には有るが、カザンナ王国内の町だ。
 年月をかけて、ここまで対策が取られるようになってきたのだろう…。
 それに奥地の薬草などの群生地まで、入って来ていないのは助かる。
 下手に生態系を壊されると枯れてしまうからだ。
 木々の隙間から町並みが見えてくると、リーンは歩みを緩めた。
 確かこの辺に、町へ降りる山道が整備されていたはず…。
 山の木の管理をするために作られた、馬車が一台やっと通れるくらいの一本道。
 枯れた木の伐採や、間引きの為の運搬用でもある。
 リーンはその道を見つけると、道に沿って山を降りていった。

 リマ商会は町の中心より少し山側に有る。
 リマ商会で扱うのは、商品の売買だけでなく、人材派遣も行い、多くの獣人達が雇用されている。
 と、言っても人族に擬態出来る者ばかりだが…。
 そして山側に有るのは、獣人達が暮らす長屋が集まっていて、森が近い方が安心できると言うのも理由の一つだ。
 リーンは獣人達が住む長屋を横目に町中に入り、リマ商会を目指した。
 リマ商会が有る町周辺は、人がまばらで、二階建ての大きな建物はすぐに目に入った。
 相変わらず人の出入りが多く、仕事を探しに来る者と、仕事に行く者が、行き交う。
 建物の中に入ると、中は広場になっていて、待ち合いのテーブルと椅子が有り、脇には個室がいくつもあって、手続きをしたり問い合わせをしたりするのに使用している。
 リーンは奥に有る受付を目指した。
 十年も経っているから、受付の女の子達も入れ替わっている。
 すんなりと奥の部屋へは入れてもらえないだろう。
「こんにちは。オヤジさんかアズマ、居ますか?」
 リーンが受付の女の子に言うと、不思議そうな顔をしてこちらをじっと見る。
「…お二方とも、お出掛けになってます」
 …突然訪ねて、不審に思われているのかもしれない。
 でも、二人とも居ないなんて珍しい…。
 どちらかは、必ずここに居るようにしていたはず…。
 何か有ったのだろうか?
 だったら、獣人のマークはいるだろうか?
 真面目な彼は、リマ商会の清掃部門に無くてはならない人になり、今は常連の固定客以外は出向せず、人員の采配をしていると言っていた。
「…それでは、マークは居ますか?」
「…彼も一緒にお出掛けになっています」
「…。」
 一緒に出掛けている?
 オヤジさんとアズマ、マークの三人が一緒に出掛けているなんて、何かあったに違いない。
「何時ごろ戻るとかは、聞いていないよね」
 リーンが聞くと、受付の女の子は頷く。
 帰宅の時間が決まって居ないなら、仕事ではない。
 リーンは少し迷って受付に伝言を残す。
「リーンが来たと伝えてください。夕方には、ここにもう一度顔を出します。と…」
「わかりました。お戻りしましたら伝えます」
「よろしく」
 リーンは受付にお願いして、リマ商会の建物を後にした。
 …夕方にまで時間はある。
 市場に行って、食事して、少し町を散策でもするか…。
 リーンはリマ商会から、昔の記憶を便りに市場へと向かった。




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