神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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希少種

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 リーンとルークはグオルクに戻り、ヒイロとチイのもとに向かい、無事に魔力を取り戻した報告をして、魔法陣でカザナに戻り、ルークの側近達に会い喜びを分かち合った。
 そして、いつもの平穏な日々が始まった。
 
 リーンはルークと共に王都に向かい、屋敷で子供達と一日過ごすと、ここからは見えない森を見た。
「ルーク。私は行くよ…しばらく森を見守っていなかったから、気になる場所があるし、風霊達が来て欲しいと言っている…」
 『始まりの宿り木』の事があり、眠りについて目覚めて魔力を失っていて、それから三つ子を産んで、一緒に暮らして…。
 あれから十年以上が過ぎている。
 出会った頃、子供だった人族は大人になっているだろう…。
 ソレくらいの時間が経過している…。
 何ヵ所か経過の気になっている場所があるし、急いではいないが、風霊達が呼んでいる…。
「…俺も一緒に行くことは出来ないのか?」
 リーンは微笑んで言う。
「ルークにはルークにしか出来ない仕事が有るだろ」
 ルークは少し困ったように顔を歪めた。
「…有る」
 私と一緒に、二ヶ月近く、街から離れていたのだ。
 いくら側近達が優秀とは言え、ルークにしか采配出来ない事柄も有るだろう…。
「なるべくこまめに帰って来るから」
 約束は出来ないが、そんな気持ちでルークに言う。
「…わかっている…」
 困った様子のルークが可愛く見える。
 一緒に付いて行きたいけれど、自分の仕事を放り出して行くわけにはいかない。
 と、私の為に葛藤しているルークが可愛くて、いとしいと思える。
 そう、いつからか、いとしいと、思うようになっていた…。
「とりあえずは、何処の町に行く?」
「そうだね。…風霊が来て欲しいと言っているから、まずはヤマツカ町のリマ商会の所に行くよ」
「ヤマツカ町か…かなり距離が有るな…」
 ルークは腕組みして何か考えている。
 ヤマツカ町は、王都からカザナに向かい、オケの谷を超えてさらに奥、炎の竜のいる、アリミネ火山とは正反対の場所に有る町だ。
「山を超えて行けば、それほど遠くないよ」
 街道を馬車で走れば、山や谷を迂回していくので、五日はかかるだろうが、真っ直ぐに山を『瞬脚移動』すれば、二日ほどでたどり着く。
「何か有れば、直ぐ連絡するから」
 リーンは心配性のルークに苦笑いする。
 ルークに、魔法石を使って作った、握り拳くらいの試作品の通信用の魔道具を渡されていた。
 何処にいても、魔力を与えれば通話が出来ると言う優れもの…。
 ただし、これはルークとリーン専用なので、何処にでも繋がるわけではない。
 通信魔法のように、いずれ何ヵ所も繋げられるように、研究されているのだろうが…。
「…そうだな。無理せず時々思い出してくれ。俺が、カザンナ王国の王子だと言うことを…。秘密裏に後ろ楯にいることを」
 ルークが、真剣な眼差してリーンに言う。
 そうだ…。
 時々忘れてしまうが、ルークはこの国の王子だ。
 『人魚の湖フールシア』の時には、街道の整備と貯水槽の手配などをしてくれて、私では出来ないことをしてくれた…。
「そうだね。必要な時にはお願いするよ」
 リーンは微笑んだ。
 ルークの事を当てにはしない。
 けれど、どうしても必要だったら、困ったら連絡を入れよう。
 リーンはルークに近くと、顔を近づけ、軽く口付ける。
 ルークは驚いたようにリーンを見る。
 今まで、自分から触れたいと思った人は二人目だ。
 少し照れくさいが、口許が緩む。
 リーンは頬を少し染めて微笑んだ。
「行ってきます」
「ああ。気をつけて行けよ」
 ルークは微笑んでリーンを見送る。
 
 行ってきます…。
 そう言って、送り出してくれる人がいる…。
 ソレだけでリーンの身体がほんのり暖かくなった。

 

 


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