神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

文字の大きさ
上 下
375 / 462
名前を呼んで…。(番外編) その後のヒナキとユグの話

話し合い

しおりを挟む
 ヒナキは、しばらくベッドで横になるばかりの生活で、足腰が弱ったのかフラフラと歩いていたら、途中からヒイロに抱き上げられて『森の聖域』へと連れていかれた。
 少し恥ずかしかったが、途中で転ぶよりはましだろう。と言われ、大人しく連れてきてもらった。
 『森の聖域』は、いつも優しくヒナキを包む。
 それが、世界樹のユグの意志が働いているからだと気がついたのは最近だ。
 長い間、側に居たのに、意識しなかっただけ…見ようとしなかっただけ…なのかもしれない。
 今さらだが…。

 ヒナキがヒイロに連れられ世界樹の側にたどり着くと、久しぶりにユグが顔を覗かせた。
「…ユグ」
 ユグは何故か悔しそうな顔をして、ヒナキに抱きついてこようとする。
「待て!」
 ヒイロはユグを止めた。
「お前まで乗られたら重い!」
 ヒイロは渋い顔をしてユグを睨み付ける。
 …そうだ、ヒイロに抱き上げられているのだから、何処かに下ろしてもらって…。
「…こっち…」
 ユグが家から見えない、世界樹の裏側…リーンが眠る様子を見れた場所へと手招きする。
 ヒナキはため息をついて、ユグの後を追い、世界樹の根本に寄りかかれるように下ろしてくれた。
「夕方には迎えに来る。じっくりと話せ」
 ヒイロはそう言って、腰に付けていた袋をヒナキに差し出し、クルーラへと戻っていった。
 ヒイロがくれた袋を開けてみると、焼き菓子類や小さな果物か入っていた。
 おやつ、もしくは昼ごはんに食べるようにだろう。
 ヒナキはクスッと笑って袋の口を閉じた。
 ユグはヒナキの隣に座り、ヒナキに寄りかかってくる。
 緑色の柔らかい髪の毛が、ヒナキの頬をくすぐる。
「…ユグ…」
「…ずっと…一緒にいたい…。これからも…ずっと…」
 きっと僕も同じ気持ち…。
 だけど僕は限りの有る者…。
 ただ、『長寿の実』を食べたことによって、長生きしているだけの人族…。
 流れ行く時間のなかで、忘れかけていたけれど…。
「…いっぱい…考えた。…あれに変わるモノ…」
 隣でユグがこちらを見てくる。
 視線が近い…。
「…僕が吸収した魔素に…時間の魔法を溶け込ませて…時間を少し進めて…止める…」
 …何だって?
 ヒナキは目を点にして言う。
「…意味がわからない…」
「…本当は…時間を…戻そうと…思った…」
「戻ったら、記憶を失くす…」
「…でも、…失くさなかった…」
 リーンの事を言っているのだろう。
 何か理由か、法則が有るのだろう…。
「…それだけでは…足りない…」
 リーンは時間を戻ることを繰り返し、結果的に時間はあまり進んでいないのだろう…。
 だけど僕は、時間を戻っているわけてはない…。
「…ずっと…一緒にいるためには…足りない…」
 ただ、戻っただけでは、すぐに時間が来てしまう…。
「…時間の魔法を使って…身体の中から変える…」
 …身体の中から…。
「…いっぺんには…無理だから…少し進めて…止める…」
 ユグの真剣な眼差しにヒナキは苦笑いした。
 ユグが、どれだけ魔素を使ってソレをするつもりか、わからないが、上手くいくとは限らない。
 思うように時間が止まらず、老いていくかもしれない…。
 魔素が身体に順応せず、死を向かえるかも知れない…。
 何せ、初めての試みなのだから…。
 それに今さらか…。
 ヒナキはユグの髪を撫でた。
「ユグがソレを行って、上手く作用しなくて、僕が死を向かえても後悔しない?」
 身体の異変に気がついていたヒナキは、ユグに後悔してほしくなかった。
 いずれ訪れる死に、向き合って欲しかった。
「…絶対、死なせない!」
 ヒナキは微笑んだ。
 人族にしては長く生きた。
 …いつも隣にいるユグの好きなようにさせても良いかな…と、思うくらい。
 ユグが見つけた方法は、僕には良くわからないが、ソレが上手くいくと信じている…。
 だったらユグを信じて、任せても良いのかと…もしダメでも、すぐに死を向かえるわけではない。
 ユグに良く言い聞かせ、楽しい思い出を胸に眠るのも良いのかも知れない…。
「…良いよ。…ユグに任せる。僕も、できるだけ一緒にいたい…」
 ヒナキにとって、今、一番分かっている自分の気持ち。
 …僕も、ユグと一緒にいたいな…。
 


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

兄のやり方には思うところがある!

野犬 猫兄
BL
完結しました。お読みくださりありがとうございます! 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 第10回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、そしてお読みくださった皆様、どうもありがとうございました!m(__)m ■■■ 特訓と称して理不尽な行いをする兄に翻弄されながらも兄と向き合い仲良くなっていく話。 無関心ロボからの執着溺愛兄×無自覚人たらしな弟 コメディーです。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

けものとこいにおちまして

ゆきたな
BL
医者の父と大学教授の母と言うエリートの家に生まれつつも親の期待に応えられず、彼女にまでふられたカナタは目を覚ましたら洞窟の中で二匹の狼に挟まれていた。状況が全然わからないカナタに狼がただの狼ではなく人狼であると明かす。異世界で出会った人狼の兄弟。兄のガルフはカナタを自分のものにしたいと行動に出るが、カナタは近付くことに戸惑い…。ガルフと弟のルウと一緒にいたいと奔走する異種族ファミリー系BLストーリー。

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。 帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか? 国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

処理中です...