神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

文字の大きさ
上 下
372 / 462
名前を呼んで…。(番外編) その後のヒナキとユグの話

しおりを挟む
 豹族の獣人ヒイロはコレでも多忙だ。
 獣人の町グオルクの執務をこなしながら、ルークと立ち上げた人族と獣人族など交流の町リオナスの、リオナスでは処理しきれない獣人側の書類が時々舞い込む。
 補佐であるチイがつがいなので、家で待ってる娘のルナの為に、なるべく定時で帰ってもらうから、処理しきれない時が有り、家に帰るのが遅くなるときもある。
 そんな中、『森の聖域』の『クルーラ』から連絡が入った。
 通常、クルーラ内で何か起これば、ヒイロの父親に連絡が行き、『森の聖域』周辺の町の代表が集まって話し合いになる。
 そして俺のところに連絡が来て、手配するのだが…連絡してきたのが、クルーラの門番のチトセからだった。
 そこそこ面識は有るし、何故俺に?と、疑問に思ったが、伝えられた内容を聞いて納得した。
 クルーラの村長、ヒナキが倒れたとの事。
 どうも最近、調子が悪かったみたいで、食堂でもあまり食べていなかった。と。
 …個人的な問題だから俺に言ってきたのもあるし、ヒナキが寝不足と魔力切れ以外で、病気になったことなど無かったものだから不安になった。
「なるべく早く行く」
 ヒイロには、そう言う事しか出来なかった。


 ヒイロは区切りの良いところで仕事を終え、書類の手配をもう一人の補佐、ホムラに任せるとクルーラに向かった。
 クルーラは森の深い場所に有り、日が沈むと同時に出入口の門を閉じる。
 ヒイロがギリギリで出入口の小屋に駆け込むと、チトセが泣き笑いで迎えてくれた。
 チトセの話によると、ヒナキは連日、世界樹の元に通っているらしいが、世界樹の木霊が姿を見せてくれないらしい。
 何があったのか分からないが、ヒナキは憔悴していくし、食堂でもあまり食べていなくて、周りで何か言っても、大丈夫だってしか言わなくて、でも何か苦しそうで見ていられない。だそうだ。
 ヒイロはチトセから話を聞き終わると、ヒナキの家に向かった。
 日は沈み薄暗くなってきたが、村の主要街路は魔法で街灯が灯る。
 各家からは明かりが漏れ、さほど暗くなはい。
 一番奥に有る、ヒナキの家にたどり着くと、家の明かりはほんの少し灯っているだけだ。
 …眠っているのか…?
 ヒイロはヒナキの家の中に入り、明かりを灯し、寝室へと足を向ける。
「ヒナキ。起きているか?」
 ヒイロは寝室の部屋の扉をノックし、声をかけると、中からボソボソと声がした。
 起きてるみたいだな…。
 ヒイロは寝室の扉を開き、ベッドに横たわり、青ざめて弱ったヒナキを見て目を丸くした。
「…ヒイロ…」
 弱々しいヒナキの声がして、目から涙が溢れ始めた。
 …これだけ弱ったと言うか、今にも消えてしまいそうなヒナキを見たのは始めてだ。
 ヒナキの溢れ始めた涙は止まらず、シーツを濡らす。
 ずっと溜め込んでいた何かが溢れ出ていくように…。
 ヒイロは何も言わずヒナキの側に行き、ヒナキの頭を撫でてあげた。
 泣きたい時には泣いた方が良い…。
 溜め込んで、溜め込んで、我慢し続けて、自分が弱ってしまうより良い…。
 ヒイロにとって、ヒナキは幼馴染みでもあり、リーンと一緒で兄弟のようなものだ。
 ヒナキは『長寿の実』を食べ、成長が時間が止まり、俺より長い時間を生きている人族なのだ。
 しばらくすると、泣きつかれたのか、目を閉じて寝息をたて始めた。
 ヒイロはヒナキの涙を拭い、大きなため息を付いた。


 そしてヒイロは『森の聖域』、世界樹の元に向かった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

処理中です...