神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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名前を呼んで…。(番外編) その後のヒナキとユグの話

魔素の解放

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 数日後。
 ヒナキの予想通り『魔素の解放』が、始まった。
 ヒナキは、クルーラの村の広場に作った強化魔法を発動する。
 通常のクルーラを包む結界より厚みを持たせ、濃密な魔素がクルーラ内に入らないようにする。
 一人では到底無理なので、交代でこの魔法を『魔素の解放』が終わるまで持続させる。
 だが、その基盤となるのは村長のヒナキだ。
 ヒナキは仮眠を取りながら、クルーラの結界を張り続けた。


 異変が起きたのは、『魔力の解放』が始まり、五日目だった。
 通常なら結界の強化魔法に、体力的にも負荷がかかり始める頃なのに、逆に魔素の威力が収まり始めたのだ。
 あり得ないことだ。
 たった五日で『魔素の解放』が終わるなんて…。
 ヒナキが今まで経験した『魔素の解放』は、少なくとも十日は続いた。
 その分、五日目位には、立っていられなるくらいの濃密な魔素が襲い、住民を不安にさせ、七日目には、今日のように収まりかけたのだ。
 今回は、リーンの魔力を取り戻しただけで、あまり魔素を必要としなかったとは言え、ぶり返して再び『魔素の解放』が起こるのではないかと思うくらいだ。
 六日目になり、魔素の濃度が薄くなって、過去最短の記録で『魔素の解放』の終わりを告げようとしていた。
「…『森の聖域』は、大丈夫なのか…」
 ヒナキは不安になった。
 『魔素の解放』は、周辺に住む人族や獣人族にとって、脅威ではあるが、『森の聖域』に住む木霊や土霊、水霊達にとって、自分を成長させるための栄養のようなものなのだ。
 『魔素の解放』の魔素が少なければ、木霊達は通常のようにしか成長しない…。
 それに『魔素の解放』は、新しい木霊や土霊達が生まれる…姿を形にとれるようになる、きっかけでもあるのだ。
 ヒナキは嫌な予感がした。


「ヒナキ!」
 クルーラの門番をしているチトセが、青ざめた様子で近付いてきた。
 チトセはヒナキが作り出す結界に扉を付け、小屋を通して出入りが出来るように魔法を使っている。
 結界に、そう簡単に扉を付けることなど出来ないのだが、長年の研究の末、作り出した魔法だ。
 そして魔法の扉の開閉が、チトセが一番自然に出来ていたので、クルーラの門番をしてもらっている。
 瞬時に開閉する適正が有ったのだ。
 現在は『魔素の解放』の為、魔法の扉は閉じて、結界強化を手伝ってもらっていたのたが…。
「…もう、終わりなのか…?」
 チトセが不安げに聞いてくる。
「…過去最短かも知れない…」
 ヒナキがそう答えると、チトセは苦笑いした。 
 チトセは『魔素の解放』が、二回目の経験だ。
 一度目は、約十年前…後から知ったのだが、リーンが魔力を使い果たし、眠りについた頃だ。
 その時は、荒れて二十日近くかかっていた。
 今思えば、それはユグが『魔素の解放』を…もしかして無意識に起こしているのかもしれなかった。
 ヒナキはしばらく考え、熊の獣人のゼステルを呼んだ。
 ゼステルは一番最初にヒナキを拾ってくれた一族の末裔で、この地に住居を構え、代々誰か一人はクルーラに駐在してくれている。
「ゼステル。チトセ。僕は『森の聖域』に行って様子を見てくる。後の段取りは分かっているな」
「はい。被害が出てないか確認して、強化魔法を徐々に弱くして元の状態に戻します」
 ゼステルは緊張した顔でヒナキを見る。
 ゼステルは、強化魔法をゆっくりと解除していくのは苦手としているが、器用なチトセ補佐に入れば大丈夫だろう。
「頼んだ。…僕が戻るまで、強化魔法を閉じないでくれ」
 ヒナキが言うと二人は真剣な眼差しで頷く。
「…再放出が、起こるかも知れないから…ですね」
 チトセが緊張して背筋を伸ばす。
 強化魔法を一度閉じてしまえば、再度発動するのに、魔力も時間もかかる…。
「ああ。確認してくる」
「お気をつけて」
 ヒナキは後の事を二人に任せて、『森の聖域』へと向かった。

 

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