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名前を呼んで…。(番外編) その後のヒナキとユグの話
ユグの成長
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ヒナキが『森の聖域』内に入り、リーンの家の横に有る世界樹に近付くと、木の幹からユグが姿を表した。
緑色の長い髪と緑色の瞳を輝かせ、嬉しそうに世界樹から出てきた。
ユグは今まで、本体である世界樹からは出ようとしなかった。
顔を出したり上半身だけを出して、ヒナキの話を聞くだけで、誰か別の者が来るとすぐに姿を消した。
恥ずかしがりやなのか、怖がりなのか分からなかったが、ヒナキの前には姿を表したので、あまり気にしたことは無かった。
「ユグ」
ヒナキが名前を呼ぶと嬉しそうに笑って、ヒナキの足元に抱きついてきた。
…うん?背が伸びている?
この間まで…名前を付けたときは、身長の低いヒナキの太ももくらいまでしか、背丈は無かったはず…。
なのに今は、ヒナキの腰くらいまで身長が有る…。
この数日間で、ここまで伸びるか?
「まだ…足りない…」
ユグはヒナキに抱きつきながらそう呟く。
「何が足りないんだ?」
ヒナキがそう聞くと、ユグは笑って言う。
「ヒナキを…ギュッて…出きるくらい…大きくなる…」
「…。」
そうだな…。
今は、足元に抱きつくくらいで、ヒナキの腕の中に収まるくらい小さい。
「僕がユグをギュッて、するのではダメか?」
「…ダメじゃない…でも、ギュッってしたい…」
ユグは、ヒナキを抱き締めたいみたいだ…。
…身長の差が有りすぎて、今は無理だ。
「そうだな、せめて同じくらいの身長になれば、ギュッて出きるかもな…」
ヒナキがそう言うと、ユグはヒナキのお腹にグリグリと顔を擦り付ける。
「こら、痛いぞ…」
ヒナキは笑いながらユグを引き離す。
「…大きくなる…」
ユグは、今まで見たことが無いくらい真剣な表情で、ヒナキを見る。
「ゆっくりで良いぞ。お前にまで、身長を追い越されたくないからな…」
ヒナキは苦笑いして世界樹の横に座り、木に寄りかかった。
『森の聖域』は、風霊が優しい風を吹かせてくれ、お昼寝にはもってこいの場所だ。
連日のクルーラでの宴会の疲れと、リーンとルークがいたので、ここでゆっくりと昼寝が出来なかったのもあり、ヒナキは少し寝不足だった。
「…少し…昼寝する…」
ヒナキが目を閉じて、木にもたれ掛かると、一気に眠気が襲ってきた。
「…話は…後で…」
ユグが寂しくないか見に来ただけだが、気にしていないみたいなので、安心したのも有る。
ヒナキは誘われるまま、眠りについていた。
眠っていたヒナキが、何か重さを感じて、ゆっくりと目蓋を開くと、ヒナキの身体の上に…ユグがヒナキの胸にうずくまるように眠っていた。
ヒナキは微笑んでユグの頭を撫でならが、再び目を閉じた。
ヒナキにとって、ユグは年の離れた弟のようなものだ。
…ヒナキの姿が変わらないのと同じで、世界樹の木霊ユグの姿も変わらなかった。
どれだけ年月が経とうとも、年をとってクルーラの住人が入れ替わろうとも、ヒナキとユグの姿だけは変わらなかった。
だからヒナキは、ちょっと羨ましかった。
ユグと『名前』を与えただけで成長するユグの事が…。
ヒナキは毎日、ユグの元に訪れていたわけではない。
クルーラの村長としての仕事もあるし、自分の魔法の研究の事もある。
リーンに与えた耳飾りの魔法の効果が有ったのかは、結局分からず仕舞いだったが、少しは影響していたと信じたい。
リーンはユグと新緑に包まれた世界樹の中で、話をしたと言う。
きっと、一度、ピットと訪れた場所の事だ。
現実なのか、夢なのか分からなかった空間…。
そんな事を思いながら、リーンの耳飾りから得た魔力の痕跡を記録に残し、これから訪れる『魔素の解放』への対策に追われていた。
『魔素の解放』。
『森の聖域』で、魔素が大量放出にならないよう結界が張られているが、何年かごとに押さえきれないくらいの『魔素の解放』が起る。
それを長年研究していたヒナキは、もうすぐ『魔素の解放』が訪れるのを分かっていた。
何故なら、まずは『彼』、リーンが世界樹で眠りにつく事がキーワードの一つだ。
もしくは眠りにつくほどの魔力を消費する事…。
世界樹が『彼』の魔力と時間を戻すために魔素を集め、『彼』の時間を戻す…。
それにどれだけの魔素を必要とするかまでは分からないが、その反動が『魔素の解放』を促す。
そしてもう一つ。
『森の聖域』の木霊や土霊達が姿を見せなくなることだ。
本体の木や土に戻り、魔素を少しでも多くの取り入れようと、準備をし始める。
魔素は成長を促し、木々の繁りを濃密なモノにしていく…。
ヒナキが世界樹のもとで昼寝をしたとき、いつも賑やかにルークが作ったブランコや滑り台で遊ぶ木霊達がいたのに、あの時は誰もいなかった。
一緒に昼寝をする子達もいなかったのだ。
ヒナキはクルーラの住人に食料の蓄えと、魔力酔いを起こしそうな住人を離れた村に避難させ、近隣の村にも連絡した。
そして、クルーラの結界の強化魔法がすぐに使えるよう、村の広場に段取りをし始めた。
『魔素の解放』は約十日から二十日。
今回の『彼』リーンは、魔力を取り戻しただけなので、対応しきれないくらいの『魔素の解放』は、起こらないとは思うが、念をいれておかないと、何が起こるか予測がつかないのだ。
そして、予想外の『魔素の解放』が始まった。
緑色の長い髪と緑色の瞳を輝かせ、嬉しそうに世界樹から出てきた。
ユグは今まで、本体である世界樹からは出ようとしなかった。
顔を出したり上半身だけを出して、ヒナキの話を聞くだけで、誰か別の者が来るとすぐに姿を消した。
恥ずかしがりやなのか、怖がりなのか分からなかったが、ヒナキの前には姿を表したので、あまり気にしたことは無かった。
「ユグ」
ヒナキが名前を呼ぶと嬉しそうに笑って、ヒナキの足元に抱きついてきた。
…うん?背が伸びている?
この間まで…名前を付けたときは、身長の低いヒナキの太ももくらいまでしか、背丈は無かったはず…。
なのに今は、ヒナキの腰くらいまで身長が有る…。
この数日間で、ここまで伸びるか?
「まだ…足りない…」
ユグはヒナキに抱きつきながらそう呟く。
「何が足りないんだ?」
ヒナキがそう聞くと、ユグは笑って言う。
「ヒナキを…ギュッて…出きるくらい…大きくなる…」
「…。」
そうだな…。
今は、足元に抱きつくくらいで、ヒナキの腕の中に収まるくらい小さい。
「僕がユグをギュッて、するのではダメか?」
「…ダメじゃない…でも、ギュッってしたい…」
ユグは、ヒナキを抱き締めたいみたいだ…。
…身長の差が有りすぎて、今は無理だ。
「そうだな、せめて同じくらいの身長になれば、ギュッて出きるかもな…」
ヒナキがそう言うと、ユグはヒナキのお腹にグリグリと顔を擦り付ける。
「こら、痛いぞ…」
ヒナキは笑いながらユグを引き離す。
「…大きくなる…」
ユグは、今まで見たことが無いくらい真剣な表情で、ヒナキを見る。
「ゆっくりで良いぞ。お前にまで、身長を追い越されたくないからな…」
ヒナキは苦笑いして世界樹の横に座り、木に寄りかかった。
『森の聖域』は、風霊が優しい風を吹かせてくれ、お昼寝にはもってこいの場所だ。
連日のクルーラでの宴会の疲れと、リーンとルークがいたので、ここでゆっくりと昼寝が出来なかったのもあり、ヒナキは少し寝不足だった。
「…少し…昼寝する…」
ヒナキが目を閉じて、木にもたれ掛かると、一気に眠気が襲ってきた。
「…話は…後で…」
ユグが寂しくないか見に来ただけだが、気にしていないみたいなので、安心したのも有る。
ヒナキは誘われるまま、眠りについていた。
眠っていたヒナキが、何か重さを感じて、ゆっくりと目蓋を開くと、ヒナキの身体の上に…ユグがヒナキの胸にうずくまるように眠っていた。
ヒナキは微笑んでユグの頭を撫でならが、再び目を閉じた。
ヒナキにとって、ユグは年の離れた弟のようなものだ。
…ヒナキの姿が変わらないのと同じで、世界樹の木霊ユグの姿も変わらなかった。
どれだけ年月が経とうとも、年をとってクルーラの住人が入れ替わろうとも、ヒナキとユグの姿だけは変わらなかった。
だからヒナキは、ちょっと羨ましかった。
ユグと『名前』を与えただけで成長するユグの事が…。
ヒナキは毎日、ユグの元に訪れていたわけではない。
クルーラの村長としての仕事もあるし、自分の魔法の研究の事もある。
リーンに与えた耳飾りの魔法の効果が有ったのかは、結局分からず仕舞いだったが、少しは影響していたと信じたい。
リーンはユグと新緑に包まれた世界樹の中で、話をしたと言う。
きっと、一度、ピットと訪れた場所の事だ。
現実なのか、夢なのか分からなかった空間…。
そんな事を思いながら、リーンの耳飾りから得た魔力の痕跡を記録に残し、これから訪れる『魔素の解放』への対策に追われていた。
『魔素の解放』。
『森の聖域』で、魔素が大量放出にならないよう結界が張られているが、何年かごとに押さえきれないくらいの『魔素の解放』が起る。
それを長年研究していたヒナキは、もうすぐ『魔素の解放』が訪れるのを分かっていた。
何故なら、まずは『彼』、リーンが世界樹で眠りにつく事がキーワードの一つだ。
もしくは眠りにつくほどの魔力を消費する事…。
世界樹が『彼』の魔力と時間を戻すために魔素を集め、『彼』の時間を戻す…。
それにどれだけの魔素を必要とするかまでは分からないが、その反動が『魔素の解放』を促す。
そしてもう一つ。
『森の聖域』の木霊や土霊達が姿を見せなくなることだ。
本体の木や土に戻り、魔素を少しでも多くの取り入れようと、準備をし始める。
魔素は成長を促し、木々の繁りを濃密なモノにしていく…。
ヒナキが世界樹のもとで昼寝をしたとき、いつも賑やかにルークが作ったブランコや滑り台で遊ぶ木霊達がいたのに、あの時は誰もいなかった。
一緒に昼寝をする子達もいなかったのだ。
ヒナキはクルーラの住人に食料の蓄えと、魔力酔いを起こしそうな住人を離れた村に避難させ、近隣の村にも連絡した。
そして、クルーラの結界の強化魔法がすぐに使えるよう、村の広場に段取りをし始めた。
『魔素の解放』は約十日から二十日。
今回の『彼』リーンは、魔力を取り戻しただけなので、対応しきれないくらいの『魔素の解放』は、起こらないとは思うが、念をいれておかないと、何が起こるか予測がつかないのだ。
そして、予想外の『魔素の解放』が始まった。
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