366 / 462
名前を呼んで…。(番外編) その後のヒナキとユグの話
ユグの成長
しおりを挟む
ヒナキが『森の聖域』内に入り、リーンの家の横に有る世界樹に近付くと、木の幹からユグが姿を表した。
緑色の長い髪と緑色の瞳を輝かせ、嬉しそうに世界樹から出てきた。
ユグは今まで、本体である世界樹からは出ようとしなかった。
顔を出したり上半身だけを出して、ヒナキの話を聞くだけで、誰か別の者が来るとすぐに姿を消した。
恥ずかしがりやなのか、怖がりなのか分からなかったが、ヒナキの前には姿を表したので、あまり気にしたことは無かった。
「ユグ」
ヒナキが名前を呼ぶと嬉しそうに笑って、ヒナキの足元に抱きついてきた。
…うん?背が伸びている?
この間まで…名前を付けたときは、身長の低いヒナキの太ももくらいまでしか、背丈は無かったはず…。
なのに今は、ヒナキの腰くらいまで身長が有る…。
この数日間で、ここまで伸びるか?
「まだ…足りない…」
ユグはヒナキに抱きつきながらそう呟く。
「何が足りないんだ?」
ヒナキがそう聞くと、ユグは笑って言う。
「ヒナキを…ギュッて…出きるくらい…大きくなる…」
「…。」
そうだな…。
今は、足元に抱きつくくらいで、ヒナキの腕の中に収まるくらい小さい。
「僕がユグをギュッて、するのではダメか?」
「…ダメじゃない…でも、ギュッってしたい…」
ユグは、ヒナキを抱き締めたいみたいだ…。
…身長の差が有りすぎて、今は無理だ。
「そうだな、せめて同じくらいの身長になれば、ギュッて出きるかもな…」
ヒナキがそう言うと、ユグはヒナキのお腹にグリグリと顔を擦り付ける。
「こら、痛いぞ…」
ヒナキは笑いながらユグを引き離す。
「…大きくなる…」
ユグは、今まで見たことが無いくらい真剣な表情で、ヒナキを見る。
「ゆっくりで良いぞ。お前にまで、身長を追い越されたくないからな…」
ヒナキは苦笑いして世界樹の横に座り、木に寄りかかった。
『森の聖域』は、風霊が優しい風を吹かせてくれ、お昼寝にはもってこいの場所だ。
連日のクルーラでの宴会の疲れと、リーンとルークがいたので、ここでゆっくりと昼寝が出来なかったのもあり、ヒナキは少し寝不足だった。
「…少し…昼寝する…」
ヒナキが目を閉じて、木にもたれ掛かると、一気に眠気が襲ってきた。
「…話は…後で…」
ユグが寂しくないか見に来ただけだが、気にしていないみたいなので、安心したのも有る。
ヒナキは誘われるまま、眠りについていた。
眠っていたヒナキが、何か重さを感じて、ゆっくりと目蓋を開くと、ヒナキの身体の上に…ユグがヒナキの胸にうずくまるように眠っていた。
ヒナキは微笑んでユグの頭を撫でならが、再び目を閉じた。
ヒナキにとって、ユグは年の離れた弟のようなものだ。
…ヒナキの姿が変わらないのと同じで、世界樹の木霊ユグの姿も変わらなかった。
どれだけ年月が経とうとも、年をとってクルーラの住人が入れ替わろうとも、ヒナキとユグの姿だけは変わらなかった。
だからヒナキは、ちょっと羨ましかった。
ユグと『名前』を与えただけで成長するユグの事が…。
ヒナキは毎日、ユグの元に訪れていたわけではない。
クルーラの村長としての仕事もあるし、自分の魔法の研究の事もある。
リーンに与えた耳飾りの魔法の効果が有ったのかは、結局分からず仕舞いだったが、少しは影響していたと信じたい。
リーンはユグと新緑に包まれた世界樹の中で、話をしたと言う。
きっと、一度、ピットと訪れた場所の事だ。
現実なのか、夢なのか分からなかった空間…。
そんな事を思いながら、リーンの耳飾りから得た魔力の痕跡を記録に残し、これから訪れる『魔素の解放』への対策に追われていた。
『魔素の解放』。
『森の聖域』で、魔素が大量放出にならないよう結界が張られているが、何年かごとに押さえきれないくらいの『魔素の解放』が起る。
それを長年研究していたヒナキは、もうすぐ『魔素の解放』が訪れるのを分かっていた。
何故なら、まずは『彼』、リーンが世界樹で眠りにつく事がキーワードの一つだ。
もしくは眠りにつくほどの魔力を消費する事…。
世界樹が『彼』の魔力と時間を戻すために魔素を集め、『彼』の時間を戻す…。
それにどれだけの魔素を必要とするかまでは分からないが、その反動が『魔素の解放』を促す。
そしてもう一つ。
『森の聖域』の木霊や土霊達が姿を見せなくなることだ。
本体の木や土に戻り、魔素を少しでも多くの取り入れようと、準備をし始める。
魔素は成長を促し、木々の繁りを濃密なモノにしていく…。
ヒナキが世界樹のもとで昼寝をしたとき、いつも賑やかにルークが作ったブランコや滑り台で遊ぶ木霊達がいたのに、あの時は誰もいなかった。
一緒に昼寝をする子達もいなかったのだ。
ヒナキはクルーラの住人に食料の蓄えと、魔力酔いを起こしそうな住人を離れた村に避難させ、近隣の村にも連絡した。
そして、クルーラの結界の強化魔法がすぐに使えるよう、村の広場に段取りをし始めた。
『魔素の解放』は約十日から二十日。
今回の『彼』リーンは、魔力を取り戻しただけなので、対応しきれないくらいの『魔素の解放』は、起こらないとは思うが、念をいれておかないと、何が起こるか予測がつかないのだ。
そして、予想外の『魔素の解放』が始まった。
緑色の長い髪と緑色の瞳を輝かせ、嬉しそうに世界樹から出てきた。
ユグは今まで、本体である世界樹からは出ようとしなかった。
顔を出したり上半身だけを出して、ヒナキの話を聞くだけで、誰か別の者が来るとすぐに姿を消した。
恥ずかしがりやなのか、怖がりなのか分からなかったが、ヒナキの前には姿を表したので、あまり気にしたことは無かった。
「ユグ」
ヒナキが名前を呼ぶと嬉しそうに笑って、ヒナキの足元に抱きついてきた。
…うん?背が伸びている?
この間まで…名前を付けたときは、身長の低いヒナキの太ももくらいまでしか、背丈は無かったはず…。
なのに今は、ヒナキの腰くらいまで身長が有る…。
この数日間で、ここまで伸びるか?
「まだ…足りない…」
ユグはヒナキに抱きつきながらそう呟く。
「何が足りないんだ?」
ヒナキがそう聞くと、ユグは笑って言う。
「ヒナキを…ギュッて…出きるくらい…大きくなる…」
「…。」
そうだな…。
今は、足元に抱きつくくらいで、ヒナキの腕の中に収まるくらい小さい。
「僕がユグをギュッて、するのではダメか?」
「…ダメじゃない…でも、ギュッってしたい…」
ユグは、ヒナキを抱き締めたいみたいだ…。
…身長の差が有りすぎて、今は無理だ。
「そうだな、せめて同じくらいの身長になれば、ギュッて出きるかもな…」
ヒナキがそう言うと、ユグはヒナキのお腹にグリグリと顔を擦り付ける。
「こら、痛いぞ…」
ヒナキは笑いながらユグを引き離す。
「…大きくなる…」
ユグは、今まで見たことが無いくらい真剣な表情で、ヒナキを見る。
「ゆっくりで良いぞ。お前にまで、身長を追い越されたくないからな…」
ヒナキは苦笑いして世界樹の横に座り、木に寄りかかった。
『森の聖域』は、風霊が優しい風を吹かせてくれ、お昼寝にはもってこいの場所だ。
連日のクルーラでの宴会の疲れと、リーンとルークがいたので、ここでゆっくりと昼寝が出来なかったのもあり、ヒナキは少し寝不足だった。
「…少し…昼寝する…」
ヒナキが目を閉じて、木にもたれ掛かると、一気に眠気が襲ってきた。
「…話は…後で…」
ユグが寂しくないか見に来ただけだが、気にしていないみたいなので、安心したのも有る。
ヒナキは誘われるまま、眠りについていた。
眠っていたヒナキが、何か重さを感じて、ゆっくりと目蓋を開くと、ヒナキの身体の上に…ユグがヒナキの胸にうずくまるように眠っていた。
ヒナキは微笑んでユグの頭を撫でならが、再び目を閉じた。
ヒナキにとって、ユグは年の離れた弟のようなものだ。
…ヒナキの姿が変わらないのと同じで、世界樹の木霊ユグの姿も変わらなかった。
どれだけ年月が経とうとも、年をとってクルーラの住人が入れ替わろうとも、ヒナキとユグの姿だけは変わらなかった。
だからヒナキは、ちょっと羨ましかった。
ユグと『名前』を与えただけで成長するユグの事が…。
ヒナキは毎日、ユグの元に訪れていたわけではない。
クルーラの村長としての仕事もあるし、自分の魔法の研究の事もある。
リーンに与えた耳飾りの魔法の効果が有ったのかは、結局分からず仕舞いだったが、少しは影響していたと信じたい。
リーンはユグと新緑に包まれた世界樹の中で、話をしたと言う。
きっと、一度、ピットと訪れた場所の事だ。
現実なのか、夢なのか分からなかった空間…。
そんな事を思いながら、リーンの耳飾りから得た魔力の痕跡を記録に残し、これから訪れる『魔素の解放』への対策に追われていた。
『魔素の解放』。
『森の聖域』で、魔素が大量放出にならないよう結界が張られているが、何年かごとに押さえきれないくらいの『魔素の解放』が起る。
それを長年研究していたヒナキは、もうすぐ『魔素の解放』が訪れるのを分かっていた。
何故なら、まずは『彼』、リーンが世界樹で眠りにつく事がキーワードの一つだ。
もしくは眠りにつくほどの魔力を消費する事…。
世界樹が『彼』の魔力と時間を戻すために魔素を集め、『彼』の時間を戻す…。
それにどれだけの魔素を必要とするかまでは分からないが、その反動が『魔素の解放』を促す。
そしてもう一つ。
『森の聖域』の木霊や土霊達が姿を見せなくなることだ。
本体の木や土に戻り、魔素を少しでも多くの取り入れようと、準備をし始める。
魔素は成長を促し、木々の繁りを濃密なモノにしていく…。
ヒナキが世界樹のもとで昼寝をしたとき、いつも賑やかにルークが作ったブランコや滑り台で遊ぶ木霊達がいたのに、あの時は誰もいなかった。
一緒に昼寝をする子達もいなかったのだ。
ヒナキはクルーラの住人に食料の蓄えと、魔力酔いを起こしそうな住人を離れた村に避難させ、近隣の村にも連絡した。
そして、クルーラの結界の強化魔法がすぐに使えるよう、村の広場に段取りをし始めた。
『魔素の解放』は約十日から二十日。
今回の『彼』リーンは、魔力を取り戻しただけなので、対応しきれないくらいの『魔素の解放』は、起こらないとは思うが、念をいれておかないと、何が起こるか予測がつかないのだ。
そして、予想外の『魔素の解放』が始まった。
0
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い


転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
皇帝に追放された騎士団長の試される忠義
大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。
帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか?
国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる