神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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新たなる旅達

ヒナキのささやかな望み

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 翌朝、リーンはルークからユグの事を聞いて、頭を悩ませた。
 ユグは年輪を重ねているだけあって、知識は有る。
 ただ、経験値が足りないので、外に出ることを覚え、その知識を試すように、行動に出ないか不安だ。
 それに…ルークの話の内容を聞いて、相手はヒナキだと確信する。
 私と同じ様に、長い時間を生きれるように、『長寿の実』を渡したのは、名前を与えられる前のユグなのだから…。
 …もしかして、ヒナキにとって、大変なモノを呼び起こしてしまったようだ…。
 後でヒナキに、理由は言わずに謝っておこう…。

 もう数日『森の聖域』で、ゆっくりとしてからカザンナ王国に戻ろうと言うことになったので、今日は『森の聖域』を出て、隣接するクルーラに向かい、唯一の食堂で食事を楽しんだ。
 ヒナキも、クルーラの顔見知りの住人も集まり、まるで宴会のようだ。
 リーンが記憶を失くさず戻ってきたお祝い。
 リーンのつがいであるルークが、『森の聖域』に気に入られたお祝い。
 世界樹の木霊に『ユグ』と名前が付いたお祝い。
 ここぞとばかりに理由を付けて、祝い酒が飛び交い、普段静かなクルーラの村が賑やかになり、リーンは今までに、これ程騒がしいクルーラの村を見たことがなかった。
 それだけ『森の聖域』が大切な場所で、おめでたい事なのだ。
 ルークもクルーラに出入りする内に、村にすっかり馴染んで、村の住人とお酒を飲みながら話をしている。
 リーンの隣にはヒナキが…外見は成人前だが中身は大人なので、甘口の果実酒を飲みながら唐揚げを食べている。
「…こんなに楽しいのは久しぶりだ」
 少し頬を染め、酔っ払ったヒナキがボソッと呟く。
「…リーン…僕は嬉しい…ピットも…キュイも…僕の事を忘れてしまったから…。リーンが…覚えていてくれて…嬉しい…」
 ヒナキは、ピットと過ごした時間も、キュイと過ごした時間も、自分しか覚えておらず、思い出を共有出来なくて寂しかったのだろう…。
 外見だけはそのままの『私』の姿に、ヒナキも戸惑っただろう…。
「…私も嬉しいよ。大切な友達の事を忘れずにいれたから…」
 リーンがそう言って微笑むと、ヒナキは涙ぐんて果汁酒を飲んだ。
「…それで思ったんとけど、ヒナキ…外見が成長しないのを気にしていただろう。…時間を操れるユグなら、ヒナキを成長させられるのかな…って、思ったんだけど…」
 ヒナキは真剣な眼差しでリーンを見る。
 ヒナキの外見は成人前の少年の姿のまま、ちょうど高等科のジーンやユーリと同じくらいの外見と身長のまま、長い年月を過ごしている。
 クルーラが、出来た頃からここに住んでいるので、村と同じだけの年齢を重ねているのにだ。
「私は、身体は『リーン』のまま、髪の毛が対価になって、時間が戻り、魔力を取り戻した。だったら、『ヒナキ』のまま、私と逆で、身体の時間を進めることが出来るのではないかと思ったんだ。…ヒナキに『長寿の実』を渡したのは、昔のユグなんだろ?」
「…そう…ユグだ」
「…聞いてみたらどうかな。でも、対価をちゃんと聞いてから、決断した方が良いよ。…それに、身体が成長すると言うことは、今、着ている服は着れなくなるだろうし、距離感が狂うだろうら、家の中が小さく感じるかも…」
 リーンはそう言って笑った。
 身体が成長することが、ヒナキにとって、良いのか悪いのか分からない。
 見慣れてしまっているから…今さら…って感じだけど…。
「…そうか…服が…着れないか…」
「…身長が伸びたら、ベッドが小さいかもよ」
「…せめて身長は伸びて欲しい…」
 ヒナキは悔しそうにそう言って笑った。
 ヒナキはクルーラの村長だが、他所から来た者は、ヒナキの外見のせいで冗談に見えるらしい。
 それを受け入れられない者は、二度とクルーラには入れなくなる。
 クルーラの結界はヒナキが作ったモノなのだから、ヒナキにとって、入れなくするくらいは簡単な事なのだ。
 ヒナキと話をしていると、村の中心がヒナキだと分かるんだけどな…。
 リーンは少し酔っ払ったヒナキに微笑む。
「…これから、いろいろ大変かも知れないけれど、よろしくね」
 ユグの事とか、クルーラの事とか…。
「…うん。…リーンも…また遊びに来て…」
 ヒナキはトロンと目蓋を潤ませ、机の上につうぶせになる。
「また来るよ」
 リーンは、寝息をたて始めたヒナキの髪の毛を撫でる。
 『私』を知っている、大切な友達…。
 …私の拠り所…。
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