神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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世界樹の実

木霊の子供

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 ピットは『森の聖域』に、長時間、居ることは出来ない。
 魔素が強くて、身体が順応してくれないからだ。
 それでも、熊族のリョウタさんが言うには、ピットは森に守られた、特別な存在なのだと…。
 ヒナキには、その意味が分からなかった。
 『森の聖域』から離れられないけれど、魔素が強いと身体が弱ってしまう…守らなくてはいけない存在なのだと思っていた。
 
 ある時、ピットと『森の聖域』の、隣にある木に寄りかかりながら、二人でマキノさんが持っていた『木の本』を眺めて、この木の名前は何と言うのかを調べていた。
 分厚い本には様々な木が載っていて、葉っぱの形や木の幹の付きかた、色を比べてると、この間の木霊の子供が姿を現した。
 あれから何度か姿を見かけるが、すぐに隠れてしまい、ピットが話しかけても姿をすぐに消してしまうので、こんな風に、自分から近付いてくるのは珍しかった。
 木霊は本を覗き込み、首を左右に振るので、もしかして『違う』と言っているのではないかと思い、ページを順番に捲っていった。
 そして最後の方になり、木霊が指を指した。
 ヒナキとピットが見たその本には、世界樹とかかれていた。
 
 それからは、こちらから近付くと消えてしまうが、自分から近付いて来ることが増えて、ある日、金色の実のなった枝をヒナキとピットに差し出して来た。
 食べろと言う意味なのか?
 金色に輝く果実は始めて見るし、食べて大丈夫なのかとも思い、後で誰かに聞いてみようと思っていると、ピットがそれを手に取り、一口噛りついた。
「…大丈夫なのか?」
 ピットはニコニコ微笑んで食べ終える。
「甘くて美味しいよ」
 ピットがそう言ってヒナキに差し出して来たので、ヒナキも一口噛りつく。
「…甘くて、美味しいな」
 ヒナキとピットは顔を見合せ微笑んで、交互にその果実を食べた。
 森の奥深くでは、甘い食べ物はなかなか手に入らない。
 僕たちにとって貴重な糖分だった。
 お腹が膨れて、そのまま二人はその場で昼寝をした。
 優しい風が二人の髪を撫でる。
 …そして夢を見た。

 新緑の葉っぱで埋め尽くされた、一面の緑の世界に、ピットと二人で立っていた。
「…ココは…」
 夢なのに声が出る…。
「…何処なんだろう…」
 ピットもぼんやりと、辺りを見ている。
 すると木霊の子供が姿を現し、「一緒に遊ぼう」と言ってきた。
 ヒナキとピットは顔を見合わす。
「…長時間…この森には居れない…」
「ピットの魔力酔いが始まらない内に、外に出ないと…」
 木霊の子供は寂しそうにうつ向く。
「時々、来るのではダメなのか?」
 ヒナキがそ言うと、小声で答えてくれた。
「…それでも…良い…」
 急にヒナキの視界が揺れた。
 …えっ?
 と、思っている内に、現実世界でマキノさんに声をかけられて、身体を揺さぶられ、目を覚ましていた。
「…マキノ…さん…」
「ここで、昼寝は危険だ」
 マキノさんが、青ざめて言う。
 一緒にいたピットは目覚めたのか?!
 ヒナキが隣を見ると、少し赤い顔をして、ピットは目を覚ましていた。
「…少し熱がある…」
 マキノさんはピットを抱き抱え、ヒナキは一緒に読んでいた本を抱えて『森の聖域』の外の家へと急いだ。
 
 ピットがベッドで眠ると、ヒナキはマキノさんに、さっき体験した不思議な事を話した。
 金色の果実を食べてしまったこと。
 夢のはずなんだけど、声が出て、新緑の葉っぱでおおわれた世界に行って、木霊の子供に『遊ぼう』って言われたこと…。
 ヒナキの話を聞き終えると、マキノさんは頭を抱えて座り込んだ。
「…ヒナキ君…君とピット様が食べたのは、伝説の…『長寿の実』だ…」
「…?」
 ヒナキはピンと来なくて首をかしげた。
「…長い時間生きることになるかも知れない…」
 十代の少年がそんな事を言われても、理解できるはずがない…。
「誰にもその話はするな。…リョウタさんには俺から話す」
 マキノは青ざめて真剣な表情をしていたので、何か大変な事になったのかな…位にしか思わなく、取りあえず頷いた。
 
 それからしばらくして、気が付いたこと。
 ヒナキの髪の毛が伸びなくなった事…。
 爪が伸びなくなった事…。
 今までなら、定期的に切っていたのに、伸びていない…。
 マキノさんにはコッソリと話した。
 

 僕が来た頃は、小屋しか無かった『森の聖域』の外に、家が増えた。
 『森の聖域』周辺をさ迷っていた者達を拾って、熊族のリョウタさんが、ココに小さな村を作った。
 集まった者達は、人族、獣人族、有翼族…。
 まるで導かれるように、この森に向かって歩いていたらしい。
 『森の聖域』のピットを守るために…。
 ついでに、『長寿の実』を一緒に食べてしまった僕の秘密を守るために…。


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