神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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森の聖域 2

眠るリーン 3

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 リーンは世界樹に旅の話を聞かせた。
 今いる『森の聖域』を出て、兄弟のように一緒に過ごした獣人族のヒイロの事、森の中で起こる自然現象によって、森に住む者達の生活が一変する事、それを助けるために自分の魔力や知識が役立つ事、いろんな者達と出会い別れて来た事。
 長い長い時間、一人で旅をしてきた事。
 そして、魔力のつがいであるルークと出会った事。
「いろいろ有ってね、今、子供が五人いるんだ」
 リーンは照れ臭そうに言う。
「…子供…」
 世界樹は驚いて目を丸くする。
 少し表情が出てきた。
「だから忘れたくない、と、言うのもある」
 リーンは素直に言う。
「最初の子供、ジーンとユーリはもう大きくなって、自立してきたし、あとは見守りながら手助けしていけば良いかなって思ってるけど…、後からの子供達は、私の魔力が無くなっているときに産まれたから、まだ、側にいてあげたい。魔力を持っていた頃まで戻ると、三人の子供達の事を忘れてしまう。それは寂しいからね…」
 リーンが苦笑いすると世界樹が呟いた。
「…子供を…産んだ…?」
「そうだよ。初めの子達は…多分、いろんな条件と魔法が偶然重なりあって、産まれたんだ。後の子供達は…それもいろいろ有って、私が望んだんだ」
 リーンは子供達の事を思って微笑む。
「…つがいは…」
「側にいるよ。『森の聖域』で、私が戻るのを待ってる」
「…。」
 急に風が吹いて、世界樹の木霊の姿が消えた。
 リーンはため息を付いた。
 世界樹はココにばかりいて、外の世界を知らない…。
 時々、来る者達の話だけでは情報が偏り、予想外の事が起こると言うことを知らない…。
 ココに来る者達だけの事しか知らない。
 …どれだけ時間は過ぎてしまったのだろう…。
 空腹感は無い…。
 だから余計に時間の感覚がつかめない…。
 …今はまだ、覚えているよ…。
 リーンはそう思いながら身体を横たえ眠っていた。


 気が付くと、世界樹の木霊がリーンの隣に座っていた。
 リーンが身体を起すと、世界樹に問いかけられた。
「…『長寿の実』…食べなかった…」
 なんだって?
「…困った顔…してた…」
 誰に食べさせようとしたんだ…?
 …ルークにか?!
 リーンは思わずため息を付いた。
「『長寿の実』は簡単に実らないだろ?」
「…まだ小さいけど…有る…」
 …もしかして、世界樹がもう一本有ると言うことか。
 そしてその木が『長寿の実』を付けた…。
 リーンはふと、この世界樹の『長寿の実』は、どうなったのか気になったので聞いてみた。
「君の『長寿の実』は?」
「…あげた。時々…会いに…来てくれる…」
 誰だ…。
 時々会いに来る事が出来る…ココに来ることができて、長寿な者は…。
 リーンはふと思い立った。
 ヒナキだ!
 確かにあの姿のまま…私と同じように成長しないから、気にしたこと無かったが、もしかして『長寿の実』食べていたのか…。
 外に出て、覚えていたら聞いてみよう。
「…どうして、ルークに食べさせようとしたの?」
 リーンが聞くと世界樹は不思議そうに言う。
「…長寿になれば…会いに来てくれる…」
 そう言う問題じゃないんだけど…。
 まあ、経緯は知らないが、ヒナキが会いに来てくれるからか…。
「ルークの場合、一人の問題じゃないからね…。カザンナ王国の王子だし、統治しているカザナやリオナスの事もある」
「…人族の…王子…」
「そう。その子供達を産んだのが私」
 リーンは苦笑いして言う。
「…忘れたくないんだ」
 世界樹は黙ったまま…。
 まさかルークに『長寿の実』を渡すとは思わなかった。
 何も知らずに食べることはしないだろうし、きっとヒナキにでも、食べれる果実なのか聞いただろう。
 そしてルークは、なぜ自分に渡されたのか戸惑っただろう…。
「…子供…かわいい…?」
 世界樹が興味を持ったのか、子供達の事を聞いてきた。 
 リーンは微笑んで答える。
「可愛いよ」
 それから、世界樹に聞かれるまま、子供達の事を話した。
 五人もいるから、話はつきない…。
 楽しいことも、怒ったことも、泣いていた事も…。
 リーンにとって、とても大切な思い出。
「…幸せ…なんだね…」
「幸せだよ。私はルークに会えて幸せだ」
 それだけは誰にでも答えられる。
 ルークと出会わなかったら、いまだに一人で旅を続けていただろう…。
 それでも、何処かでルークと出会っているかも知れないが…。
「…。」
 その後も世界樹が子供達の事をいろいろと聞いてくるので、リーンは素直に答えていた。
 世界樹は真剣な表情で質問して、聞いている。
 『森の聖域』から出られなくても、外の世界に現具体化でもして、出てこられれば良いのにな…。
 リーンはそう思いながら話していた。
 

「…時間が…来たみたい…」
 世界樹が唐突にそう言うと、リーンの視界が揺れた。
 …いきなりか…。
 それより!
「待って!私の記憶は?!」
 リーンは焦ったが、世界樹は答えない。
 それと同時に身体に魔力が染み込み、満ちるのを感じた。
 リーンは親指にはめた魔法石の指輪を握りしめる。
 …ルーク!
 そのままリーンは意識を失った。

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