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森の聖域 2

観察日記 5

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 観察四十五日目
 リーンの耳飾りが消えるのを、九個数えた。
 …リーンの髪の毛の長さは、出会った頃の長さに戻っている。
 もう少しでリーンが目覚めるかも知れない。
 ルークは期待と不安にかられながら、世界樹の根本でリーンが書いた記録を読んでいた。
 リーンが目覚めたら驚くだろうな…。
 ルークはふと、リーンの家の世界樹とは反対側に出来た小さな公園を眺めた。
 あの後、ルークは滑り台を作った。
 水辺に作った水霊用の滑り台が羨ましかったらしく、木霊達が水辺に俺を呼んで指差すのだ。
 ルークは思わず苦笑いした。
 向こう岸に渡れるように置いた木の橋は、そのまま根を張り幅が広くなって、水辺から登れるように蔦が絡まり階段のようになって、橋の上を作った覚えの無い屋根が枝と葉っぱで作られていて、橋にはまるで柵のように緑の葉っぱと枝が両脇に生えていて、滑り台の所とブランコの側だけが出入り出来るように空いている。
 滑り台もただの板だったはずが、両サイドに蔦が絡まり手すりのようになって盛り上がって、水霊達が楽しそうに滑って水飛沫を上げている。
 木霊と土霊達は羨ましそうに滑り台を見ていた。
「分かったから…」
 ルークは家に戻り、ヒナキに長い板を準備してもらって、階段は森の中の折れた木や木霊が間引いた枝を利用して、それとなく階段風にして登れるようにした。
 あとは木霊達が改良してくれるだろう、そう思って…。
 案の定、翌日には滑り台の板の両脇と階段の両脇に、蔦の手すりが付いていて、階段を登った上には葉っぱの屋根まで付いていた。
 さすが…。
 ルークは苦笑いした。
 その後も、何か作ってくれるのかと期待され、丸太の上に持ち手を付けた長い板を置いて、シーソーにした。
 あまりネタが無いぞと思いながら、簡単な遊具を作り、木霊や土霊、風霊達が楽しんでいた。
 子供達と一緒に遊んだから、思い付いたのであって、ルークが簡単に作ったものを、木霊達が進化させていた。
 『森の聖域』にはこういった娯楽はないから、楽しいのだろう。
 ヒナキが言うには、『森の聖域』に長時間居ることが出来ないから、そういったモノを作ることが出来ないのだと。
 と、言うか『遊具を作ろうなんて思いもしなかった』と、微笑まれた。
 …俺がココに長時間、居ることが出来るのは、リーンのつがいだから…影響が無いのだろうと言われた。
 …リーン、早く出てこい。
 お前といろんな話がしたい…。

 観察四十八日目
 指にはめていた、竜人族のフールシアにもらった魔法石の指輪が、ほんの少し熱く熱を放ち出した。
 水の魔法石が…と、思ったが、思い直して、クルーラへヒナキを呼びに向かった。
 リーンからの合図だ!
 きっとそうだ!
 世界樹の隙間から見えるリーンの様子は変わらないが、リーンの魔力が満ちて、俺を呼んでいる。
 ルークは急いでヒナキを呼びに行った。
 どうやって目覚めさせる事が出来るのか分からないが、長年、世界樹の研究をしているヒナキなら知って居るかもしれない。

 クルーラからヒナキと一緒に世界樹のもとに戻り、隙間を覗くと、木霊達も真似して覗いてきた。
「どうやってリーンをコチラに引き寄せる」
 ルークが聞くと、ヒナキは苦笑いする。
「…腕を突っ込んで、引っ張り出した。って聴いたけど…」
「…。」
 コノ隙間からか…。
 ルークは世界樹の隙間を見る。
 子供なら通れるだろうが、リーンの身体を引き上げられるとは思えない。
 すると、木霊達が世界樹に登りだし、土霊達が集まってきた。
 何を始めるのか見ていると、土霊達がリーンの姿が見える隙間を中心に、半円形に手をつないで地面にしゃがみこんだ。
 すると、世界樹の根本の土がボコボコと動いて、土に埋まっていた根本を露出させ、木の根が動いて、世界樹の木が、木の幹を開いて隙間を大きく開けてくれた。
 ルークはその隙間から右腕を肩まで突っ込んで、リーンの肩に触れ、脇下を抱えるように引き上げはじめた。
 ゆっくりと引き上げて、世界樹の隙間からリーンの濡れた黒髪が現れ肩まで出てくると、ヒナキも手伝ってくれ、リーンを世界樹の中から引き出した。
 リーンはまだ眠っていて、ぐったりとルークに身を任せている。
 リーンが世界樹から出てくると、世界樹の隙間はもとに戻り、土霊も根本の土をもとに戻していく。
「ありがとう。手伝ってくれて…」
 世界樹から降りてきた木霊と土霊にお礼を言うと、木霊と土霊達はニコニコと笑って公園に遊びに向かった。
 ルークはヒナキと顔を見合せ、微笑んだ。
 あとはリーンがどこまで記憶を失くしているかだ。
 ルークはリーンを抱き抱え、家へと向かった。

 
 
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