神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

文字の大きさ
上 下
348 / 462
森の聖域 2

観察日記 5

しおりを挟む
 観察四十五日目
 リーンの耳飾りが消えるのを、九個数えた。
 …リーンの髪の毛の長さは、出会った頃の長さに戻っている。
 もう少しでリーンが目覚めるかも知れない。
 ルークは期待と不安にかられながら、世界樹の根本でリーンが書いた記録を読んでいた。
 リーンが目覚めたら驚くだろうな…。
 ルークはふと、リーンの家の世界樹とは反対側に出来た小さな公園を眺めた。
 あの後、ルークは滑り台を作った。
 水辺に作った水霊用の滑り台が羨ましかったらしく、木霊達が水辺に俺を呼んで指差すのだ。
 ルークは思わず苦笑いした。
 向こう岸に渡れるように置いた木の橋は、そのまま根を張り幅が広くなって、水辺から登れるように蔦が絡まり階段のようになって、橋の上を作った覚えの無い屋根が枝と葉っぱで作られていて、橋にはまるで柵のように緑の葉っぱと枝が両脇に生えていて、滑り台の所とブランコの側だけが出入り出来るように空いている。
 滑り台もただの板だったはずが、両サイドに蔦が絡まり手すりのようになって盛り上がって、水霊達が楽しそうに滑って水飛沫を上げている。
 木霊と土霊達は羨ましそうに滑り台を見ていた。
「分かったから…」
 ルークは家に戻り、ヒナキに長い板を準備してもらって、階段は森の中の折れた木や木霊が間引いた枝を利用して、それとなく階段風にして登れるようにした。
 あとは木霊達が改良してくれるだろう、そう思って…。
 案の定、翌日には滑り台の板の両脇と階段の両脇に、蔦の手すりが付いていて、階段を登った上には葉っぱの屋根まで付いていた。
 さすが…。
 ルークは苦笑いした。
 その後も、何か作ってくれるのかと期待され、丸太の上に持ち手を付けた長い板を置いて、シーソーにした。
 あまりネタが無いぞと思いながら、簡単な遊具を作り、木霊や土霊、風霊達が楽しんでいた。
 子供達と一緒に遊んだから、思い付いたのであって、ルークが簡単に作ったものを、木霊達が進化させていた。
 『森の聖域』にはこういった娯楽はないから、楽しいのだろう。
 ヒナキが言うには、『森の聖域』に長時間居ることが出来ないから、そういったモノを作ることが出来ないのだと。
 と、言うか『遊具を作ろうなんて思いもしなかった』と、微笑まれた。
 …俺がココに長時間、居ることが出来るのは、リーンのつがいだから…影響が無いのだろうと言われた。
 …リーン、早く出てこい。
 お前といろんな話がしたい…。

 観察四十八日目
 指にはめていた、竜人族のフールシアにもらった魔法石の指輪が、ほんの少し熱く熱を放ち出した。
 水の魔法石が…と、思ったが、思い直して、クルーラへヒナキを呼びに向かった。
 リーンからの合図だ!
 きっとそうだ!
 世界樹の隙間から見えるリーンの様子は変わらないが、リーンの魔力が満ちて、俺を呼んでいる。
 ルークは急いでヒナキを呼びに行った。
 どうやって目覚めさせる事が出来るのか分からないが、長年、世界樹の研究をしているヒナキなら知って居るかもしれない。

 クルーラからヒナキと一緒に世界樹のもとに戻り、隙間を覗くと、木霊達も真似して覗いてきた。
「どうやってリーンをコチラに引き寄せる」
 ルークが聞くと、ヒナキは苦笑いする。
「…腕を突っ込んで、引っ張り出した。って聴いたけど…」
「…。」
 コノ隙間からか…。
 ルークは世界樹の隙間を見る。
 子供なら通れるだろうが、リーンの身体を引き上げられるとは思えない。
 すると、木霊達が世界樹に登りだし、土霊達が集まってきた。
 何を始めるのか見ていると、土霊達がリーンの姿が見える隙間を中心に、半円形に手をつないで地面にしゃがみこんだ。
 すると、世界樹の根本の土がボコボコと動いて、土に埋まっていた根本を露出させ、木の根が動いて、世界樹の木が、木の幹を開いて隙間を大きく開けてくれた。
 ルークはその隙間から右腕を肩まで突っ込んで、リーンの肩に触れ、脇下を抱えるように引き上げはじめた。
 ゆっくりと引き上げて、世界樹の隙間からリーンの濡れた黒髪が現れ肩まで出てくると、ヒナキも手伝ってくれ、リーンを世界樹の中から引き出した。
 リーンはまだ眠っていて、ぐったりとルークに身を任せている。
 リーンが世界樹から出てくると、世界樹の隙間はもとに戻り、土霊も根本の土をもとに戻していく。
「ありがとう。手伝ってくれて…」
 世界樹から降りてきた木霊と土霊にお礼を言うと、木霊と土霊達はニコニコと笑って公園に遊びに向かった。
 ルークはヒナキと顔を見合せ、微笑んだ。
 あとはリーンがどこまで記憶を失くしているかだ。
 ルークはリーンを抱き抱え、家へと向かった。

 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

けものとこいにおちまして

ゆきたな
BL
医者の父と大学教授の母と言うエリートの家に生まれつつも親の期待に応えられず、彼女にまでふられたカナタは目を覚ましたら洞窟の中で二匹の狼に挟まれていた。状況が全然わからないカナタに狼がただの狼ではなく人狼であると明かす。異世界で出会った人狼の兄弟。兄のガルフはカナタを自分のものにしたいと行動に出るが、カナタは近付くことに戸惑い…。ガルフと弟のルウと一緒にいたいと奔走する異種族ファミリー系BLストーリー。

処理中です...