神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

文字の大きさ
上 下
298 / 462
新たなる命

思い出

しおりを挟む
 魔女王ソフィアとの約束の満月の数日前、リーンはルークとアオと一緒にカザナの町に来ていた。
 朝の市場の新鮮な魚介類や野菜をぶらりとして眺め、朝食を買って、三人でテーブルを囲み食べていると、久しぶりにリーンは思い出していた。
 かつて、カザナのお屋敷から…ルークのもとを去る決心をして、町に出てきたことを…。
 心を迷わせながら、街道に向かって歩いたことを…。
 あの時は、人目を気にしてフードをかぶり、一人で買い物をしていた。
 街道が整備され、交易が盛んで豊かだと思いながら、北の街道の入り口へ向かい、広場の移動用の馬車に乗らず、ぶらぶらと歩き、ルークが街道の脇道で馬車を止めて待っていた時の事を…。
 リーンは思い出して、クスリと笑った。
 あの頃は、ルークから離れないと、離れられなくなるのが怖くて逃げたのだ…。
「どうした?」
「ちょっと思い出して…。初めてこの町に来て、町から離れるとき、街道でルークが馬車で待っていたことを…」
 リーンは頬を染めて言う。
 今思えば、あの時、ルークが街道で待っていてくれなければ、こうしてとなりに座って、朝食を食べるなんて事が出来なかっただろう…。
「…あの時の、ルーク様の落ち込みよう…リーンさんに見せたかったです」
 アオも当時の事を思い出して、笑ってそう答える。
 どんな落ち込みようだったのだろう…。
 今では考えられないが…。
 アオは悪戯するように笑って言う。
「リーンさんがルーク様の『魔法剣』を置いていったでしょう。それを茫然と立ち尽くして、置いていかれた子供みたいに…」
「アオ!ソレ以上言うな!」
 ルークは頬を染めてアオを止めている。
「でも、追いかけて、捕まえて正解ですよ。ルーク様」
 アオは楽しそうにルークとリーンを交互に見る。
 その後の事を思い出して、リーンは恥ずかしくなった。
 一緒に馬車に乗って、『人魚の湖』フールシアに行って、竜人族のフールシアの『契約者』だと水人達に知られ、フールシアとルークの前で魔力の過剰摂取をしていまい、倒れたのだ。
 …あの時から、ルークを意識するようになってしまった。
 気になる存在から…急激にリーンの中にルークの存在が根付いてしまったのだ。
「…久しぶりに『フールシア』へ寄っていかないか?」
 どうせ『魔女の森』へ行く道中に、近くを通るのだ。
 あれから道も貯水槽も整備され、集落は『塩』で、財を成し遂げた。
 しかしのんびり暮らしたい集落の住民は、雨風に強い家に建て直したり、橋を丈夫に作り直したりして、集落を整備するも、昔と変わらない生活を送っている。
「…そうだな」
 ルークは少し考えて言った。
「『満月』の前日だと、顔を出すくらいだぞ」
「…そうだった」
 『人魚の湖』は海底トンネルを使って、水中都市と繋がっていて、『満月』の夜は、繁殖のため人魚達が水上すいじょうに上がってくるのだ。
「…『人魚の湖』は、後日の方が良いと思いますよ。あちらも伴侶を迎えるのに忙しいですしね」
 アオがそう言って微笑む。
 本来、『人魚の湖』周辺の集落は水中都市の管轄だが、カザンナ王国のルーク達が管轄を引き継いでいるので、その辺は詳しい。
「その後でしたよね。カーディが魔女の歌に誘われて『魔女の森』に向かってしまったのは…」
「今回は、カーディを連れていかないぞ」
 カーディは家庭を持ち、リオナスで暮らしている。
 熊族の獣人のつがいになって、リオナスの役所で働いてくれているのだ。
 それだけ、年月が過ぎていると言うこと…。 
「カズキなら『炎の竜』の加護をもらってますから、魔女の歌には捕まらないでしょう」
 カズキは炎の竜キラに気に入られ、…キラが産まれた当初の側にいた、チハヤの子孫だったらしく、キラがカザンナ王国に遊びに来ると、カズキにベッタリとくっついている。
 そしていつの間にか、『炎の竜の加護』を持っていた。
 どんな方法で、カズキに与えたのかは、二人にしかわからない…。
 そんな『炎の竜』キラの、護衛の双子の有翼族は、カズキの後を付いて回るキラをひき止めようと必死だ。
 …カズキがどう思っているのか分からないが。
「カズキに馬車を運転してもらう方が良いな…」
 取りあえず、魔女の歌に捕まらないのが前提だ。
「…いろいろ有りましたね…」
 アオが物思いにふけりながらそう答える。
「…いろいろ有ったな…」
 ルークがそう答えると、リーンは笑って言う。
「…まだ、これからもいろいろ有るよ。何て言ったって、ソフィアが呼んでいる」
「…そうだな」
「…そうですね」
 魔女王ソフィアの呼び出しは、『リーンの子供を産んで』なのだ。
 でも、仲間と呼ばれる者達がいれば、何とかなりそうだから心配はない。
 心もとないのは、自分に魔力が無いことくらいか…。
 リーンは少し不安げに、そう思った。

 


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

処理中です...