神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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新たなる命

思い出

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 魔女王ソフィアとの約束の満月の数日前、リーンはルークとアオと一緒にカザナの町に来ていた。
 朝の市場の新鮮な魚介類や野菜をぶらりとして眺め、朝食を買って、三人でテーブルを囲み食べていると、久しぶりにリーンは思い出していた。
 かつて、カザナのお屋敷から…ルークのもとを去る決心をして、町に出てきたことを…。
 心を迷わせながら、街道に向かって歩いたことを…。
 あの時は、人目を気にしてフードをかぶり、一人で買い物をしていた。
 街道が整備され、交易が盛んで豊かだと思いながら、北の街道の入り口へ向かい、広場の移動用の馬車に乗らず、ぶらぶらと歩き、ルークが街道の脇道で馬車を止めて待っていた時の事を…。
 リーンは思い出して、クスリと笑った。
 あの頃は、ルークから離れないと、離れられなくなるのが怖くて逃げたのだ…。
「どうした?」
「ちょっと思い出して…。初めてこの町に来て、町から離れるとき、街道でルークが馬車で待っていたことを…」
 リーンは頬を染めて言う。
 今思えば、あの時、ルークが街道で待っていてくれなければ、こうしてとなりに座って、朝食を食べるなんて事が出来なかっただろう…。
「…あの時の、ルーク様の落ち込みよう…リーンさんに見せたかったです」
 アオも当時の事を思い出して、笑ってそう答える。
 どんな落ち込みようだったのだろう…。
 今では考えられないが…。
 アオは悪戯するように笑って言う。
「リーンさんがルーク様の『魔法剣』を置いていったでしょう。それを茫然と立ち尽くして、置いていかれた子供みたいに…」
「アオ!ソレ以上言うな!」
 ルークは頬を染めてアオを止めている。
「でも、追いかけて、捕まえて正解ですよ。ルーク様」
 アオは楽しそうにルークとリーンを交互に見る。
 その後の事を思い出して、リーンは恥ずかしくなった。
 一緒に馬車に乗って、『人魚の湖』フールシアに行って、竜人族のフールシアの『契約者』だと水人達に知られ、フールシアとルークの前で魔力の過剰摂取をしていまい、倒れたのだ。
 …あの時から、ルークを意識するようになってしまった。
 気になる存在から…急激にリーンの中にルークの存在が根付いてしまったのだ。
「…久しぶりに『フールシア』へ寄っていかないか?」
 どうせ『魔女の森』へ行く道中に、近くを通るのだ。
 あれから道も貯水槽も整備され、集落は『塩』で、財を成し遂げた。
 しかしのんびり暮らしたい集落の住民は、雨風に強い家に建て直したり、橋を丈夫に作り直したりして、集落を整備するも、昔と変わらない生活を送っている。
「…そうだな」
 ルークは少し考えて言った。
「『満月』の前日だと、顔を出すくらいだぞ」
「…そうだった」
 『人魚の湖』は海底トンネルを使って、水中都市と繋がっていて、『満月』の夜は、繁殖のため人魚達が水上すいじょうに上がってくるのだ。
「…『人魚の湖』は、後日の方が良いと思いますよ。あちらも伴侶を迎えるのに忙しいですしね」
 アオがそう言って微笑む。
 本来、『人魚の湖』周辺の集落は水中都市の管轄だが、カザンナ王国のルーク達が管轄を引き継いでいるので、その辺は詳しい。
「その後でしたよね。カーディが魔女の歌に誘われて『魔女の森』に向かってしまったのは…」
「今回は、カーディを連れていかないぞ」
 カーディは家庭を持ち、リオナスで暮らしている。
 熊族の獣人のつがいになって、リオナスの役所で働いてくれているのだ。
 それだけ、年月が過ぎていると言うこと…。 
「カズキなら『炎の竜』の加護をもらってますから、魔女の歌には捕まらないでしょう」
 カズキは炎の竜キラに気に入られ、…キラが産まれた当初の側にいた、チハヤの子孫だったらしく、キラがカザンナ王国に遊びに来ると、カズキにベッタリとくっついている。
 そしていつの間にか、『炎の竜の加護』を持っていた。
 どんな方法で、カズキに与えたのかは、二人にしかわからない…。
 そんな『炎の竜』キラの、護衛の双子の有翼族は、カズキの後を付いて回るキラをひき止めようと必死だ。
 …カズキがどう思っているのか分からないが。
「カズキに馬車を運転してもらう方が良いな…」
 取りあえず、魔女の歌に捕まらないのが前提だ。
「…いろいろ有りましたね…」
 アオが物思いにふけりながらそう答える。
「…いろいろ有ったな…」
 ルークがそう答えると、リーンは笑って言う。
「…まだ、これからもいろいろ有るよ。何て言ったって、ソフィアが呼んでいる」
「…そうだな」
「…そうですね」
 魔女王ソフィアの呼び出しは、『リーンの子供を産んで』なのだ。
 でも、仲間と呼ばれる者達がいれば、何とかなりそうだから心配はない。
 心もとないのは、自分に魔力が無いことくらいか…。
 リーンは少し不安げに、そう思った。

 


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