神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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神の宿り木~再生 3~

迎え

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 ルークとヒイロがいる場所にまで『成長』の魔法が届き、足元に小さな花が咲きだした。
 雑草だが、今まで何も無かったところに小さな花が点々と咲いたのだ…。
 それと同時に魔法陣が消え、結界も消えた。
 ルークは駆け出していた。
 視界に『宿り木』が見え、側に人影が見えたからだ。
「リーン!」
 ルークが叫ぶが声は届いていないようだ。
「リーン!」
 人影が…リーンが『宿り木』にもたれ掛かり、そのまま足元に崩れ倒れるのが見えた。
 そこへ、『宿り木』に宿ったばかりの子供の『木霊』が姿を現し、『木霊』はリーンに手を伸ばしている。
「…リーン!」
 間に合ってくれ!
 二人が触れあう直前に、ルークはリーンを『木霊』から引き離した。
 …リーンの身体はルークの腕の中にすっぽりと収まり、魔力を使いきったリーンは、ぐったりと目を閉じルークにもたれ掛かっている。
 …体温が下がっている…。
 無理に魔力の放出を行い、衰弱している…。
 だったら、魔力を補うしかない!
「体液で魔力を補えるんだろ!?」
 ルークはそう言ってリーンに口付け、リーンに魔力の体液を送り込む。
 しばらくすると、リーンがゆっくりと目を開けた…。
 ルークが唇を離なすと、リーンが『宿り木』の子供へと視線を移した。
「…この大地を…お守り下さい…ナジム…」
 子供の『宿り木』ナジムがリーンにそっと触れ、にっこりと笑って姿を消した。
「…リーン…」
 ルークが力を無くしたリーンを抱きかかえ、顔を覗き込むと、リーンは微かに微笑んでいた。
「…最後に…会えて…嬉しい…」
 リーンはそう言って意識を失った。
「リーン!」
 ルークは力が無くなって、ぐったりとしたリーンの身体を抱き締めた。
「リーン!!」
 ルークの悲痛な叫びが木霊こだました。

「まだ、微かに息はしている…」
 側にいたヒイロが冷静にリーンの様子を見てそう言った。
 ルークはハッとして、呼吸を確かめると、微かに息がかかり、心音を確かめると、微弱で弱いが、まだ生きている!
「ヒイロ!」
「…仮死状態だ。無くした魔力を少しでも補えば、身体が回復するはず!」
 ルークはリーンを抱き抱えたまま『フィールド』を展開して、リーンに魔力を注ぎ込んだ。
 心音が戻れば、身体全体に魔力が巡るはず…。
 俺達を置いていくな!
 ルークの焦る気持ちに気がついたヒイロが、声をかけてきた。
「ゆっくり魔力を注ぐんだ。身体中に魔力を巡らせるように…。お前達はつがいだから、拒絶反応は無いはず…。焦らずリーンの体温か戻ってくるまで耐えるんだ!」
 ヒイロがそう言うと、大地からつたが何本も飛び出して来た。
「来たな…」
 ルークはハッとした。
「ルーク、絶対に奪われるんじゃ無いぞ!」
 ヒイロはそう言って魔法で杖を呼び出すと、それでつたを叩き落とし始めた。
 次々と大地からつたが飛び出し、リーンを連れ去ろうと向かってくる。
 …剣で切るわけにはいかないのか…。
 ルークはリーンが言っていたことを思い出す。
 『森の聖域』が仮死状態になったリーンを迎えに来たのだ。
 いわば、リーンを死なせないために『森の聖域』へと連れて帰ろうとしているだけで、危害を加えるわけではない…。
 ただ、記憶を無くしてしまうだけで…。
「リーンは俺達が死なせない!連れていかないでくれ!」
 ルークは訴えた。
 誰に言うでもなしに…誰に言えば良いのか分からず、そう叫んだ。
 つたはそれでも、ルークの『フィールド』内にも入ってきて、リーンを捕まえようとするのを必死に阻止する。
 頼むから、連れていくな!
 しかしつたはルークの腕を掴み、リーンの足を掴み、しだいに二人はつたが絡まり、身動き出来なくなってしまう。
 それでもルークはリーンを離さず魔力を送り続けた。
「俺からリーンを奪わないでくれ!」
 どれだけ、つたとルークとヒイロの攻防が続いたのだろう…。
 急に、つたがほどけ、大地に消えていった…。
 まるで何事も無かったかのように、つたは姿を消したのだ。
「…大丈夫…なのか…?」
「…手を…引いた…?」
 ルークとヒイロは顔を見合せた。
 そして気が付く。
 ルークの腕の中にいるリーンの体温が少し戻ってきていることを…心音が、聞こえることを…。
「…リーン…」
 ルークはリーンを抱き締めた。
 つたが手を引いたのは、リーンの鼓動が戻ってきたからなのかも…。
 大丈夫だと確信したから、手を引いてくれたのかもしれなかった。
「…帰ろう…リーン…」
 ルークはリーンの漆黒の髪の毛を撫でた。

 新しい『宿り木』の葉が、サワサワと風に揺られている。
 今まで感じなかった、風を感じた…。
 『風霊』がふわりとやってきて、リーンに触れ、どこかへと飛んでいく…。
 『風霊』達も、ここへ来れるようになったのだ…。
 もとに戻った大地や木々は、しだいに、この地を呑み込み、あの集落跡も森に帰るだろう…。
 リーンが望んでいた通りに…。



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